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「守大伴宿禰家持が、また報贈コタふる詩カラウタ一首、また、短歌()」
「昨暮サクボ使を来る。幸なるかも、晩春遊覧の詩を垂れ、今朝信を累ぬ。辱カタジケナきかも、相招望野の歌を賜はる。一たび玉藻を看て、稍欝結を写し、二たび秀句を吟ひて、已に愁緒をのぞく。此の眺翫にあらずは、孰タレか能く心を暢べむ。但惟タダ下僕アレ、禀性彫エり難く、闇神瑩ミガくこと靡し。翰を握れば毫を腐し、研に対へば渇を忘る。終日因流して、綴れども能はず。所謂イハユル文章の天骨、習へども得ず。豈字を探り韻を勒して、雅篇に叶和するに堪へむ。抑々鄙里の少児に聞く、古の人言酬いざるは無しと。聊か拙詠を裁りて、敬みて解咲に擬す。如今イマ言を賦し韻を勒し、斯の雅作の篇に同じくす。豈石を将て瓊に同じくし、声遊の走曲に唱ふるに殊ならむ。抑小児の濫謡に譬ふ。敬みて葉端に写し、式て乱に擬すに曰く、 七言一首 抄()」
春の余日媚景麗し
初巳の和風払ひて自ら軽し
来燕泥を銜えて宇を賀きて入る
帰鴻廬を引きて迥ハルかに瀛オキに赴く
聞く君が嘯侶新たに曲を流すことを
禊飲爵を催して河の清きに泛ぶ
此の良宴を追尋せむと欲すれども
還りて知りぬ染懊して脚のレイテイすることを
「咲けりとも知らずしあらば黙モダもあらむこの山吹を見せつつもとな(短歌二首 #17.3976)」
「咲いている知らなかったら黙ってようこのやまぶきを見せてあげよう()」
「葦垣の外ホカにも君が寄り立たし恋ひけれこそは夢に見えけれ(#17.3977 三月の五日、大伴宿禰家持が病み臥コやりてよめる。)」
「葦垣の外からあなた寄りかかる恋しいことが夢で見えます()」