きょう、お昼休みに大垣書店に寄ってみたら、短歌のコーナー(そんなに大きなスペースではない)に、どーん!と阿波野巧也さんの『ビギナーズラック』が積まれていて、をををーとなる。
私が去年読んだ歌集のなかでベスト5に入る歌集だ。
・あなたには言えないことが多いから草原、こんなにもぼくの胸に
・ちょっとのことにいつもつまづく 水槽に光る魚群をきみは見ている
・空港へ向かうモノレールに乗って空港までは行かずに降りた
・きみの瞼がきみを閉ざしているあいだひっそりと木立になっていく
・電柱がわりと斜めに伸びていることに気づいた みたいに好きだ
・たばことか神社の話をしてあるく ふつうでいたいなこのままずっと
2012年から2019年に作った歌をまとめた、とあとがきに書いてある。世の中がこんなふうになるまえの過去の時間が、どれだけすてきで大切で幸せな時間であったか、ということが胸に迫ってくる。あたりまえに会って、あたりまえに乗り物に乗って、好きな場所へいって、たわいのない話をする。いっしょに笑う、話す、歩く。あたりまえでなくなったときに、「日常」が輝いてみえる。
・触れるとききみに生まれる紫陽花もふくめて抱いていたかったのに
・夕暮れはぼくの中までおとずれて郵便局を閉ざしていった
・交差点を斜めにめっちゃ走ってく舞妓はん せつなさ まいこはん
・江ノ島のあなたの膝にねこが乗る 撮ろうとしたら逃げちゃったねこ
・いくつになっても円周率を覚えてる いくつになっても きみがいなくても
いろんな思いもまざっているけれど、特に好きだった歌。
この歌集を読んでいると、特別なことなんて起こらなくていいと思えてくる。
どうかふつうの日々が戻ってきますように。