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いつでも君のこと好きだったよ

水曜日は短歌の日(13)塔10月号

2014-10-15 22:43:47 | 日記

 初校と再校作業に参加していると、手元に「塔」が届くころには、「なんか読んだな」と錯覚することが多いのですが、今月号はゆっくり味わいながら読み込んでいます。

 

 ・地続きのこの世に母の在りたれば「のぞみ」に乗りて会ひにゆくなり   亀谷たま江

 

 このあいだ、母と電話していて、嫌なことを言ったり言われたりして、もうしばらく電話はよそうと思っていたけれど、この歌を読んで、やっぱり会いに行かないとと思いました。誰かが亡くなったとき、どうしようもなく悲しいのは、会いに行く道がなくなってしまうこと。 

 

 どんなに遠くても、電車か飛行機か船かを乗り継げば、生きているなら会うことができます。何十年も会わない人がいたとしても、会おうと思えば会えるということと、どうやったって会えないというのは全く違います。亀谷さんの歌の「地続きのこの世」というところにじんとなりました。 遠いっていったって、地続きじゃないのって思ったら高速とばしてでも、「のぞみ」に乗ってでも会いにいくことができるのだから。

 

 ・まぐろの鮨半分に切り四貫を幸せさうに母は食べます   亀谷たま江

 

 やさしい歌だなぁ。 幸せそうに食べているお母さんと、それを嬉しそうに眺めている亀谷さんが浮かんできて、私も母のこと大事にしないといけないなぁと思います。 お母さん、ごめんね。

 

 それから、河野美砂子さんと山下泉さんの作品連載は毎回とても楽しみ。 美砂子さんは構成が巧くて、自然に流れにまかせて物語を味わうような音楽を目で読むみたいな充実感があって、泉さんは一首一首にこめられた時間と言葉の裏側をイメージしながら一首でひとつの物語が完結していく緊迫感が漂っています。

 

 せっかくの連作から何首かを引いても、全体で味わわないとあまり意味がないのですけれど、それぞれに好きだった歌をいくつか。

 

 作品連載 「大雨が過ぎて」 河野美砂子 より

 ・蟬声の終りの方を聞いてをりこころをのこすというやうに熄(や)む

 ・ここからは遠いけれども金色の声もつ蟬が鳴いてゐる森

 ・とりかへてもすぐ駄目になる切り花をくぐらせて夏のみづ杳(くら)きこと

 ・公園に秋風たちて大繩跳びに入れない子がまたひつかかる

 ・逢ひたいと何度でも思ふ梨の実を剥いてゆく音おほきな夜に

 ・ねむらむとするとき聞こゆ一日のかたすみで鳴いてゐた蟋蟀が

 

 作品連載 「峠と隕石」 山下泉 より

 ・水辺から夏になりゆくパピルスのあわいに水の青眼ひらく

 ・彫り深き御堂にうすく霧立ちて真昼のおくにゆらぐ夕暮

 ・錬金ののちのしずもり栗の木は嵐気(らんき)のなかの睡りの樹なれ

 ・入(い)るときも出(い)ずるときにも微かなるためらいはありこの世の敷居

 ・すこしずつ女らしさを思いだし黒山羊は穿く白いハイヒール

 ・薬壜なつの夕べに屈みいる過ぎさりし手を懐かしみつつ

 

 今月号には10代20代特集もあって、読み応えあります。 続きは来週に。(水曜日は短歌の日ということをすぐに忘れてしまうので、来週じゃないかも)

 

 

 

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