寒い雲がいそぐ<o:p></o:p>
寒風が体を削ぐようです。山路を法衣の袖に手を隠して急ぎます。見あげる空には黒い一片の雲が、厳寒をもたらしたそれが流れて行きます。<o:p></o:p>
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ほろりとぬけた歯ではある<o:p></o:p>
過去におそらく歯の治療など、したことない山頭火でしょう。虫歯の痛みは焼酎の酔いで忘れるか、灸でも据えて一時しのぎをすると察します。そしてぐらりぐらりとしてから、木綿糸を絡めて一気に抜歯です。それが今日はどうでしょう。前触れもなく歯が抜け落ちました。ほろりとは言い得て妙であります。手の平に乗せた歯を親近感を持って眺めています。<o:p></o:p>
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笠へぽつとり椿だつた<o:p></o:p>
瞬間芸のような一句です。単直明解、目が覚めるようです。ぽっとりと笠に落ちる音を感じました。鳥の気配はありませんから、鳥が糞を落としたわけではありません。自然と手が笠に伸びます。<o:p></o:p>
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いただいて足りて一人の箸をおく<o:p></o:p>
物語です。舞台は質素な百姓家、素朴な人柄の男と山頭火が無言で対しています。昼か夕暮れか、お接待を受けて山頭火黙々と箸を進めました。感謝でお腹はもちろん心まで一杯となって、手を合わせて箸を置きます。<o:p></o:p>
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しぐるる土をふみしめてゆく <o:p></o:p>
今日の山頭火、颯爽としております。気分も爽やか、体力も充実しております。降りかかる難儀など、ものともしない気概に満ち満ちています。<o:p></o:p>