自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

グローバル化の終焉と経世済民

2016-11-17 23:09:10 | 自然と人為
エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(動画)

 エマニュエル・トッドは今の時代をこう説明しています。「今、世界は非常に重要な時期にさしかかっています。グローバル化の夢が終わろうとしているのです。もはや、経済のことばかり強迫観念のように考えるときは、過ぎ去ろうとしています。国家も経済だけにとらわれず、もっと重要なことに目を向ける時代を迎えることでしょう。」
   

 「グローバリズムの理想は、世界中の人々が皆平等になることでした。だが実際にグローバル化がもたらしたのは、社会の分断と格差の拡大でした。昔マルクスは「万国の労働者よ団結せよ」と言いましたが、団結したのはエリートでした。だからそれに対抗して、もっと国という枠組みを意識する必要があります。エリートと大衆の断絶をなくし、同じ国の仲間だという意識を持って、ひとつにまとまるべきです。「国という単位でまとまろう」と主張する私が、日本に対して言えるのはここまでです。あとは日本が決めること。」
   

 「中国はGDPにおける設備投資の割合が極端に高く、個人消費が低い。にも拘らず資本を国外に出そうとしている。これは異常なことです。中国は賃金が低いから、アメリカ、EU、日本が進出した。その結果、各国の賃金も引き下げ消費が抑えられ、中国製品の需要も減少するという悪循環がある。」
 中国は国策として設備投資をしているが、資産家の資本や大学出のエリートが国内の充実に回るのではなく、海外に流出している。
   

 エマニュエル・トッドはアメリカは大卒以上のエリート層と中退した中間層に意識の分断があると言う。日本も1960年代以降に大学進学率が急速に増加し、アメリカと同等の大卒以上のエリート層がいる時代になったが、アメリカは「入るは容易で、出るは難しい」と聞くように中退者が多いことが、分断を生むのかもしれない。
 中国の資本とエリートは国内を充実させることなく海外に出てしまうだけでなく、人口増に歯止めをかけるために不自然な一人っ子政策を国策としたことで、急速な老人社会を迎える可能性があると私は考えるが、トッドは国内問題で中国が崩壊することを心配している。
 日本は少子高齢化社会を迎えている。物質的欲望はコマーシャルで生まれるが、これからはお金で買いたい物への欲望から生まれる不満よりも、お金では買えない幸福を求める時代だ。中国の崩壊は世界を混乱に陥らせるので、軍事的中国脅威論に怯えることなく、お互いに協力し合い悩みを共有して、ともに平和に暮らしたいものだ。
   
   

 日本の政治は輸出力の増加による経済成長を強迫観念のように追い、アメリカの先導に従っているのかと思っていたTPP(多国籍企業によるルール)で国の枠組みを壊す政治を日本が率先して推進している。そのことで格差が拡大しても、それは政治の責任ではなく「競争による自己責任」だとしているかのようだ。トランプの「アメリカ第一主義」も困ったことだが、国内のことを考えない安倍政権も酷いものだ。日本の政治も2代目、3代目と世襲になると、世間から離れた生活と人間関係で、北朝鮮と同じように国民よりも自分たちの権力維持に熱心になるようだ。
 しかし、現場の生活や仕事よりも「限界がある理論」を架空ではなく現実だと認識する訓練を受けたエリート集団が、日本でも現場や地方を崩壊させている。「核や軍事による抑止力」という考え方も、他国との関係を客観的事実では説明できない架空の理屈であり、他国の軍事的脅威を煽れば煽るほど、他国を脅威と思う固定観念が多くの人に身につくものだ。「抑止力」は国民を守るものではなく、いずれの国でもその国の権力者を守るために使われる言葉だ。経済学も然り、農学も然り。現実よりも架空の理論で現場を破壊し続けて、さらに次世代を育てる時代ではもうない!
 参考: 岩上安身氏と孫崎亨氏が語り合うトランプ勝利後の世界と日本

 このブログで「マジですごい仕事をしたスティーブ・ジョブズ」について紹介した。YouTubeで紹介した録画が削除されたのは残念だが、どうも最近、著作権を口実に多くのYouTubeの動画が削除されている。こんな危険な時代を許していては、「ものが言えない時代」になってしまう。専門家ではない我々が、ネットで録画をもとに議論できる時代を真剣に守らねばならない。
 ジョブズの仕事を我々はどう受け止めれば良いのか、と考えていたら、政治、経済、社会の諸々のことが脳裏を駆け巡り、まとめようが無くなり、老化現象も手伝って、締めくくりの部分を何回も書き直すことになった。まだモヤモヤしているが、政治が独裁色を強め、若い世代に殺傷事件が広がり、高齢者の自動車事故が多くなっている現代の問題を、「自然と他者を忘れた自己中心の固定観念」と考えて見た。

 アダムスミスは「真の幸福は心が平静であることだと信じ、人間が真の幸福を得るためには、それほど多くのものを必要としない」(堂目卓生著「アダムスミス」)と考えた。アマゾンの先住民やアメリカに住むアーミッシュの人々の「幸福」を我々の多くは理解しようとしない。彼らは人間が自然の一員であるという原点を守り続けているが、我々は文明の進歩した現代人としての自惚れにより人間が社会的動物であることを忘れ、目の先の利便性を追う「自然と他者を忘れた自己中心の固定観念が生む孤立と欲求不満の時代」と、私は感じている。

 江戸時代は利益を追求する「経済」はなかった。政治も経済も「経世済民」、「世を済(おさめ)民を救う」ことであった。
 世界に誇れる「経世済民」のリーダー・保科正之は家康、秀忠、家光の3代にして、家康の孫として生まれた。60年日米安保条約の岸信介の孫である安倍晋三との違いを考えながら、幕末、明治から日米開戦を経て今日に至る過程で、日本人が尊敬するものの考え方や政治はどう変わったのか、エマニュエル・トッドに啓発されて、私なりに次回から考えてみたい。
 BS歴史館 今いてほしい!?日本を変えたリーダーたち②
 会津藩主・保科正之~知られざる名君”安心の世”を創る~(動画)


初稿 2016.11.17 更新(動画)2020.09.30

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