自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

里山管理が日本の肉牛生産の原点になる~特殊と普遍。

2017-11-15 22:41:14 | 自然と人為

動画:シルバー世代がつくった里山牧場
    大谷山里山牧場
    自然の力とチームの力~地域を豊かにし次の世代に伝える
    発想の転換~砂漠化を防止し、気候変動を抑える反芻動物
    「自然と地域につながる肉牛生産」について論じる

 大谷山山麓にできた13区集落の人口は、自然発生的に集落ができる大きさです。今では地域外にサラリーマンとして勤務する生活が普通になりましたが、昔は農業を中心にした共同体でした。
 
 この集落の通学路や休耕田は雑草が覆い、マムシやイノシシの棲家になりかけていました。町をきれいにすることは町の人の気持ちをきれいにし、子供を守るだけでなく防犯対策にもなります。しかも日頃会う機会も少なくなったので、町のつながりをつくるために草刈り隊を作りました。

 山林や休耕田を草刈り隊だけで管理することはできませんが、大谷山山麓の南側は放牧適地ですので、牛を放牧すると素晴らしい景観が生まれるでしょう。地域の人々と牛の関係者や公園管理の関係者をつなげば、里山管理のシステム(機能)が生まれます。

 アメリカやオーストリアの広大な土地は砂漠化を防止するために、牛を移動して適度に草を食べさせ糞尿を土地に還元させます。広大な土地ですから牛と人との関係が薄れ、牛は半野生化して捕獲が困難になります。そこで乗馬して牛を移動させ、ロープで牛を捕まえるカーボーイの出現です。しかも広大な土地に放牧されているのは繁殖牛であり、雄牛(去勢牛)はフィードロットで肥育されています。アメリカやオーストリアの肉牛生産の原点は繁殖牛による土地管理なのです。

 日本は雨量が多いので、砂漠化の心配はいりません。放置すれば山に戻ってしまいますので木を少なくとも30%は残し、木陰を作り土砂崩れを防止しながら牛を放牧します。放牧面積もアメリカやオーストリア程広くはなく、昔から牛は家族の一員として飼ってきたので野生化の心配もありません。山がきれいになり牛が放牧されている風景は、人の心を癒す公園ともなるでしょう。

 広島県福山市神村町にある大谷山里山牧場に関連して、これまで紹介してきたものをまとめました。アメリカもオーストラリアも広大な土地の砂漠化防止が肉牛生産の原点でした。日本の里山は草が生い茂り、放置していると人が入れない山になってしまいます。日本では里山を維持管理するための肉牛生産がこれからの原点になるでしょう。

 一方、肉牛は和牛、乳牛は酪農というのが日本の常識です。和牛は市場があるので、これを飼育するには生産から販売までのシステムは必要ありません。酪農と肉牛生産の両方を支援する技術が和牛と乳牛の交雑(F1)ですが、和牛と乳牛をつなぐシステムがないので特殊な生産だと考えられています。また、一般に肉牛というと発育が良い雄牛(去勢牛)の肥育が第一に考えられますが、子牛を生んでくれる雌牛こそ里山を管理してくれる大切な資源です。

 F1雌牛は1産取り肥育の例はありますが、これまで繁殖にあまり利用されていません。ある経営ではF1雌牛の腹のみ借りて和牛の受精卵移植に利用されているようです。和牛=霜降り肉の市場に依存しているとF1雌牛の遺伝的能力は使う必要がないと考えるのでしょう。和牛の受精卵移植で双子を生ませるのが先端技術だと思われているようですが、それは特殊な技術であり里山を雌牛に管理させるという普遍的な技術にはなりません。

 2017年10月21日に開催された畜産システム研究会では、和牛の繁殖牛とF1雌牛による里山管理の例(講演要旨2 ( 安部、岡村 ))を紹介しました。和牛は霜降り肉の生産が目標となっていますが、ハイブリッド牛(F1およびF1雌牛の子牛)では「おいしい赤身肉」の生産が目標です。赤身肉と言ってもモモ肉にサシが入るようなジューシーな肉です。料理の番組で紹介される程おいしい肉の子牛をF1雌牛は生産できるのです。霜降り肉は日本の伝統の和食で重宝されますが、おいしい赤身肉の市場は食生活の変化を考えると将来有望だし、特殊ではなくてむしろ普遍的な肉牛生産だと思います。

 動画:赤身肉の富士山岡村牛
  「牛が笑っている牧場」富士山岡村牧場が、朝日新聞に紹介されました。
  「ごはんジャパン」富士山岡村牛(テレビ朝日系列)の録画
  予告!「富士山岡村牛」の食材の魅力(ごはんジャパン|テレビ朝日)

 ここでハイブリッド生産について、これまでの紹介記事を紹介させていただきます。
  自然と生きるシステムの共創~ハイブリッドデザイン
  畜産のハイブリッドデザイン
  エコロジー的なものの見方が農業と地域を救う
  システムに支配されないで、システムを共創しよう

初稿 2017.11.15