鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

天球儀に波図鐔 政随 Shozui Tsuba

2020-08-11 | 鍔の歴史
天球儀に波図鐔 政随


天球儀に波図鐔 政随

異国への憧れは、大海に乗り出す勇気を持つことにより、憧れでなく現実のものとなる。まだ見ぬ世界は、危険の彼方にあった。航海術の進歩もその現実の連続する上にある。装剣小道具に羅針盤や天球儀が描かれることは、大海の彼方への憧れに通じているように思われる。


天球儀に羅針盤図鐔 埋忠

 無銘で埋忠と極められている作。政随の鐔によく似ており、作意は全く同じである。鉄地高彫金布目象嵌。円形を組み合わせることによって球体を良く表現している。

韃靼人図目貫 水戸金工 Mito Menuki

2020-08-08 | 鍔の歴史
韃靼人図目貫 水戸金工


韃靼人図目貫 水戸金工

 この目貫の作者は、韃靼人が連れている動物を明確にしている。猟犬と虎。虎はアジア大陸の北部から南部にかけて生息する猛獣。これを手なずけている猟師だ。次第に韃靼人に対するイメージが定まってきたようだが、それで正しいのか。現代の我々からすると、面白いと感じるところでもある。

韃靼人図鐔 鉄元堂正楽 Shoraku Tsuba

2020-08-07 | 鍔の歴史
韃靼人図鐔 鉄元堂正楽


韃靼人図鐔 鉄元堂正楽

 正楽はいくつかの韃靼人図鐔を遺している。そもそも韃靼人についての知識はどの程度のものであったのだろう。韃靼人と題する何らかの絵画があり、それを手本に韃靼人に対してのイメージが広がり伝わったに違いない。桃山時代に盛んに描かれた障壁画にみられる韃靼狩図などを江戸時代の金工が手本としたのであろう。西洋人との混同もあったのではないだろうか。

 これも、弓を肩にしているところを見ると韃靼人のようだ。ラッパのようなものを吹いている。興味深いのは、必ず犬を連れている点。狩犬に違いない。ところが、上の鐔も、前に紹介した目貫も獅子に見える。不明確なところは想像で描いたのだろう。とにかく面白いことは間違いない。

獅子引韃靼人図目貫 蝦夷 Ezo Menuki

2020-08-06 | 鍔の歴史
獅子引韃靼人図目貫 蝦夷



    
獅子引韃靼人図目貫 蝦夷

 江戸の数奇者の視点から考える蝦夷好みは、まだ見ぬ国、知られていない世界、即ち異国情緒を漂わせているところにあるようだ。蝦夷では金工芸術は栄えておらず、多くは江戸や京など我が国内で短刀拵などとして製作されたものが蝦夷地へと運ばれた。この目貫に描かれているのは韃靼人。弓矢を巧みとする狩猟民である。それが獅子を引く図。なんと面白いことであろうか、獅子は明らかに我が国で発展した獅子であり、牡丹の中にいる。蝦夷人が韃靼人と直接のかかわりはなかったであろうが、樺太など北のルートを通じて蝦夷へと文化が伝わり来たことも関連させて眺めると、頗る興味深い図であることが判る。□

秋草に兎図目貫 蝦夷 Ezo Menuki

2020-08-05 | 鍔の歴史
秋草に兎図目貫 蝦夷


秋草に兎図目貫 蝦夷

 蝦夷金具と分類される作がある。古くは古金工の作で、写真のような古式の彫口になるものを蝦夷の人が好んで用いたことからこのように呼ばれ、後に蝦夷地へと輸出された歴史がある。さらに江戸後期、蝦夷好みの作として異風なところが好まれ、逆に江戸の好事家のもとへと持ち込まれたのである。擦り剥がしによって不鮮明になった景色。金色絵が明瞭な、鮮やかな出来よりはるかに面白い。ぼかしに通じる技法のひとつである。
 下の、海に生きる人々を描いた目貫も蝦夷と極められている。先に紹介した牡丹図目貫も、蝦夷好みと言い得る。このような作風が蝦夷人に好まれたようだ。

波龍図小柄 政随 Shozui bKozuka

2020-08-04 | 鍔の歴史
波龍図小柄 政随


波龍図小柄 政随

 金工では難しいぼかしを用いた作品を紹介している。朧銀地高彫に金色絵を施し、その一部を擦り剥がしの手法で金を叢にし、霞んだ空気感を演出している作。古金工の手になる作が時代を経て自然にすり減り、色絵が叢になっている例がある(下写真牡丹図目貫)。これを手本に意図的に擦り剥がしを施した例。古びて見えることから江戸時代に流行している。

牡丹図目貫 古金工