鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

源氏車に夕顔図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2020-03-11 | 鍔の歴史
源氏車に夕顔図鐔 赤文


源氏車に夕顔図鐔 赤文

 『源氏物語』の夕顔の場面を文様表現したものであろうか。櫃穴部分を源氏車に意匠して透かしているところが面白い。だがさらに面白いことに、車にカマキリを添え描いている。カマキリがあると、意味がずいぶん異なってくる(下写真)。「蟷螂の斧」の語があるように、カマキリは巨大な相手(車など)にも自らの手(鎌)を振り上げて向かってゆく。自らの能力を考えることなく無暗に歯向かうことを意味する。この赤文の鐔にはそのような意味も含まれているのであろうか、それとも夏の風景としてカマキリを添えたのであろうか。


車に蟷螂図鍔 赤坂

源氏車に桜図鐔 Tsuba

2020-03-10 | 鍔の歴史
源氏車に桜図鐔


源氏車に桜図鐔

 野に打ち捨てられたような車に桜が舞い散っているのであろうか、洒落た構成の鐔。車だけでも文様の題材とされていることは、平安時代の片輪車文手箱などで遍く知られている。車は高貴な人々の利用する牛車(源氏車)といった印象がある。例えば牛車に夕顔の絡んでいる図は『源氏物語』を思い浮かべる。古い瓦に桜の花が散りかかっている図なども雅な風情があり、それに通じる趣を楽しんだものであろうか。

水車図鐔 明珎宗輝 Muneteru Tsuba

2020-03-09 | 鍔の歴史
水車図鐔 明珎宗輝


水車図鐔 明珎宗輝

 造り込み、耳の打返し、地面の表情、表現の主体であるところの文様美、全てにおいて信家を手本とした鐔。地面には川の流れを毛彫で表現し、水車と関連付けている。そもそも信家の鐔には、図柄とは無関係に地面に文様を打ち込んだ作が多い。亀甲文や花文などがその例。この鐔では、信家を手本にしながら、透かしとの組み合わせで鄙びた風景を描き出したようだ。
下の鐔も同じ意味合いから製作された信家写し。水辺の植物が毛彫で表されており、捨て置かれたような瓢が印象的。


水車図鐔 宗長

車透図鐔 長曽祢才市 Saiichi Tsuba

2020-03-07 | 鍔の歴史
車透図鐔 長曽祢才市


車透図鐔 長曽祢才市

 水の流れに車。水車小屋に違いない。ここまで簡略化し、しかも陰の透かしで表現しているとは…。唐草と野菊のような植物が金布目象嵌で添えられているところが説明的だ。でも、表と裏で印象が異なるのはなぜなんだろう。一方は唐草、一方は野菊。その違いだけなんだが。面白いところだ。

破れ扇図鐔 阿波正阿弥 Shoami Tsuba

2020-03-04 | 鍔の歴史
破れ扇図鐔 阿波正阿弥


破れ扇図鐔 阿波正阿弥

川面に落ちた扇は、その流れによって次第に破れてゆく。儚い、言わば瞬間の美なのだが、それを絵画によって別の美しさに変質させた。着物の文様にも採られていることから良く知られている図で、鐔にもままみられる。殊に透かしとの組み合わせからなるこの図は独特の空間を創出して魅力的だ。この鐔では、扇の上部が水に侵食されているようでもあり、あるいは骨だけになったものか、とすれば下は骨からはずれた地紙か。背景には水草が金布目象嵌で文様描写されている。そんな説明は不要ですと言われるかもしれない。陰に透かされた扇が際立っている。江戸時代の京の正阿弥派、この流れを汲む阿波正阿弥などが得意とした表現方法である。


近江八景図鐔 京正阿弥

 風景を陽に表してその周囲を透かし去る手法はままみられる。透かしだけでは主題が不明瞭になるため、金布目象嵌で細かなところを描き込む。その線描写が、濃密な金を用いて華やかであったところが受けた。透かしが文様表現された主題を浮かび上がらせている例である。

地紙散図大小鐔 伊藤正乗 Seijo Tsuba

2020-03-03 | 鍔の歴史
地紙散図大小鐔 伊藤正乗


地紙散図大小鐔 伊藤正乗

 これも素敵な意匠の鐔。扇や団扇の絵が描かれている部分の紙片を地紙という。これを屏風や襖に散らし配して文様とした。地紙散しという。さらにそのように表現された屏風を鐔の意匠としたものであろう。高彫に金布目象嵌が活きている。雪輪文を透かして印象を高め、さらに下方に屏風の縁を想わせる屈折した線を透かしている。これがまた印象的である。ゆったりとした穏やかな雪輪模様の高彫処理も素敵だ。文様に加えられた透かしの効果が見事に活かされた作品である。


歳寒三友図鐔 正阿弥重春 Shigeharu Tsuba

2020-03-02 | 鍔の歴史
歳寒三友図鐔 正阿弥重春


歳寒三友図鐔 正阿弥重春

 文様と透かしを組み合わせた鐔を紹介している。松竹に梅を加えて歳寒三友、あるいは松竹梅でお目出たい図柄とされるが、ここでは梅を酢漿草紋に代えている。この鐔の所有者の家の家紋であろう。これらを素銅地に高彫赤銅色絵としており、これだけでも巧みに構成された絵になっているのだが、櫃穴に雪輪を意匠して季節が冬ということの印象を高めている。歳寒三友とはまさに冬に存在感を示す植物が題材。雪そのものを描き加えるのではないところがいい。