鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桐樹図鐔 久法 Hisanori Tsuba

2020-03-17 | 鍔の歴史
桐樹図鐔 久法


桐樹図鐔 久法

 埋忠明寿に近しい金工であろうかと思う。作風は明寿そのもの。真鍮地に赤銅平象嵌の手法で墨絵の如く桐を描いている。風景の文様表現を試みた作と言えようか。
風景の文様表現というと、以前にも紹介したことがあるように琳派の美観が思い浮かぶ。鐔において琳派の美観を求めた工には、本作のような鐔を遺した埋忠明寿があり、江戸後期になると、絵画でいうところの江戸琳派の美観を求めた作品が頗る多くなる。さて、鐔において風景の文様表現とは言ったが、どこまでを指すのであろうか。実用の道具として限られた、小さな空域に何かを表現する場合、少なからず写実から離れて彫り描かざるを得ないだろう。先に紹介した蘭、月にススキ、梅樹にしても、完全なる写実の追求は難しく、どこか省略したり、強調したりして、画面を作り出している。写実でないのであれば草体化した図になり、それが進むと文様のようになる。また、風景の文様化とは、図案化だけでなく心象表現や抽象表現も含められるだろう。確かなことは図の背後に実景があるということ。にもかかわらず意図して写実を求めていないこと。いずれも現代の我々は、遠い昔の作者の頭の中までは窺い知ることができない。今、我々自身が見た感じで捉えても構わないのだろうと思う。