鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

猛禽に葡萄図鐔 光忠 Mitsutada Tsuba

2014-10-09 | 鍔の歴史
猛禽に葡萄図鐔 光忠


猛禽に葡萄図鐔 銘光忠

 光忠は、埋忠明壽に近い金工であると考えられている一人。明壽に比較してさらに時代の上がる風情を示していることから、先行しているのではないだろうかともみられている。確かに明壽は、似たような地造りや、仕立てをしているが、光忠のような布目象嵌があるものの、さらにここから洗練された平象嵌へと進化させている。逆に見ると光忠の魅力は素朴さに溢れている点にある。真鍮地を拡大観察してほしい。以前に光忠の似た作風になる塩屋図鐔を紹介したことがある。その地造りと全く同じ。何年か前までは、この地文様は鑢目の一種であると考えられていた。即ち作者が文様として切り施したものであると。近年、研究が進んで金属組織であることが確認されたものである。実は筆者は、以前からこれは鑢目ではなく、合金からなる金属の自然な肌文様であることは認識していた。子供の頃、鉛などを加熱して融かし遊んだことがある。その作業の中で、金属が固化する際、その表面に微妙な皺が生ずることを確認していた。それは、あたかも金属が結晶面を示しているかのような、方向性が顕著なもので、また、合金がうまく混合されていない場合には、固化した表面に異風な皺が現れることも認識していた。だから、この種の鐔を見たとき、鑢目ではない、頗る面白い表情を巧みに採り入れていることに感心したものだが、それが金属の組織であることが確認され、一般に理解されるまでにはずいぶんと時間がかかったようだ。