鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

家紋図鐔 阿波正阿弥 Awa-shoami Tsuba

2014-10-23 | 鍔の歴史
家紋図鐔 阿波正阿弥


家紋図鐔 阿波正阿弥

色揚げについて。総ての装剣金工作品は色揚げが行われている。色揚げを行われなければ、赤銅も、素銅も、山銅も、朧銀もほとんど見分けがつかないような新鮮な10円玉のような色合いである。金工による秘伝であるところの色揚げ作業により、赤銅は真黒、素銅はくすんだ赤褐色、山銅は黄色を帯びた灰褐色、朧銀は緑色を帯びた灰色となる。作品上に見えている金や銀の色も、実は色揚げによる色調であり、実際はもっと色味に乏しいものである。ただし、色揚げによって色合いが変質しているのはごくごく表面近傍のみである。
筆者がこの世界に入った直後、大きな失敗をした。赤銅の作品の表面の汚れを落とすように社長から指示されたのだが、こするほどに赤銅の黒い色が落ち、ついには赤味を帯びた金属光沢が現れてしまった。その間、社長は何も言わずに筆者の作業を見ていた。社長は筆者に赤銅の性質を体感させるためにこの作業を指示したのであろう。
古い作品も色揚げがされていると考えて良いのだろうか疑問である。だが、赤銅地などは長い間空気中に晒しておくと黒く変化する。空気中の硫黄分と容易に反応する銀などは、瞬く間に黒くなることがある。色揚げとは、こうした自然界で起こる色調の変化を、金工の秘伝によって促進させ、あるいは特徴のある色調へと向かわせることに他ならない。だから、上の家紋図鐔や下の埋忠明壽のこのような作などは、色揚げが施されていなければ絵柄がほとんどわからない。

九年母図鐔 埋忠明壽