時代の上がる太刀師鐔を想わせる、無銘ながら平戸國重(ひらどくにしげ)の特徴が示された鐔。真鍮地を五ツ木瓜形に造り込み、地面には石目地を、肉厚の耳際には唐草文を廻らし、耳は額状に鋤き下げた部分に松、蘭、龍などの文様を浮彫表現している。時を重ねて独特の錆が生じ、漆処理も加わっているのであろうか渋い色合いとなって味わい格別である。
鎖国の江戸時代とはいえ、肥前国平戸は海外の文化に容易に接することのできた地域であり、西洋の文様を手本とした金工が多々知られている。その中でも國重は、南蛮と汎称される西洋風の意匠と造り込みを得意とし、時にアルファベットをデザインした鐔を製作している。
南蛮鐔と汎称される作中には、南蛮様式の剣に装着されていた鐔を手本とした複雑に入り組んだ彫刻が施された例がある。それらは名品と呼ぶに相応しい高級なものから、安易に製作したと想像されるものまで多々あり、遺例の異様なまでの多さから江戸時代を通じて広く流行していたことが想像される。