鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

大森彦七図鐔 Tsuba

2011-06-08 | 
大森彦七図鐔


大森彦七図鐔

 大森彦七は、湊川の戦いでは楠木正成軍を壊滅させる功績をあげ、戦後は伊予国正木に領地を賜っている。この伝説は、南北朝の騒乱の後に起きたこと。とある夕刻、大森彦七が能楽の宴に出かける最中、矢取川にさしかかったとき、川を渉れずに難儀している一人の女に出合った。そこで彦七は女を背負うことになる。ところが川の中ほどにさしかかったとき、女は鬼に変化して彦七に襲いかかった。目的は腰にしている太刀を奪うこと。この太刀こそ戦功による恩賞、正成の所持していた太刀であり、鬼は正成の怨霊であった。
 この伝説は幾つかの意味を内包している。その一つは能楽の流行である。人が鬼に変化する話は能楽、謡曲という創作の舞台が生み出したもの。『平家物語』に描かれている初期の鬼は、最初から鬼として登場している。羅城門の鬼から創作された『茨木』の鬼も老婆に変化して渡辺綱に迫っている。大きな違いである。
 もちろんこの伝説にも太刀、名刀伝説がある。


大森彦七図小柄