春. 夏. 秋. 冬. 河童の散歩

八王子の与太郎河童、
つまづき、すべって転んで、たちあがり・・。
明日も、滑って、転んで・・。

(29)ミツ・節三に命令

2016-03-07 12:21:25 | 節三・Memo
何よりねぇちゃんのほうがみんなよりはるかに、黙っていこうと思っていました。でも、悩んだのですよ・・・・・
節三は胡坐をかいたまま電灯の真下まですり寄った。{(28)ミツの手紙、節三は}

姉ちゃんはお嫁に行かないと決めていました。
腰から下の火傷の痕をあなたも、見たことがあるでしょう。
あなたを背負って、どうして竈の上に煮え湯があったのか,
ねぇちゃん、蓋をあけた途端、ひっくり返しました。
その時のあなたも今では大事な足も火傷をしたのです。
あとで
俺の足なんでこうなったと、母さんに聞いたとき、
ねぇちゃんは、息が止まりそうでした。
母さん
お前が悪さして、お湯をかぶったと、私をかばいました。
その時から、ねぇちゃんは、節三が大人になるまでは、
お嫁に行かない。そう決めました。
どうせお嫁の貰いてもない、と、あきらめてもいました。
でも、くじける時もありました。
ウメねぇちゃんと、ヤエねえちゃんがお嫁に行くときは、
部屋の中でいつまでも泣いていました。
もっといやだったのは
戍太郎兄さんに、南部出の偉いお嬢さんがお嫁に来た日でした。
体のことは知られたくない、
どんなことがあっても、火傷の痕は見せたくない。
そればかりでした。
節三、知っていましたか。
節三の足を見るたびに、
ねぇちゃんは、どんなお転婆をしていても、
おとなしくなっていたのを」

節三は幼い頃が走馬灯に鮮明に浮かんでいた。走馬灯はミツの思いを鮮明に浮かび上がらせていた。

「七滝ので、俺は柔道をやると叫んだそうですね、小作さんが教えてくれました。
何をバカなことをしている、どこまで馬鹿なことをする男なのだ。
私なら滝に行かなくても、決めたらそこで、実行するのに、なんて暇人だと思いました。
でも、どんな決め方でも、節三は今日の今日まで、柔道だけを考える人になりました。
ねぇちゃんはそんな節三を偉いと思いました。
新聞の記事は、切り抜いて大事にとってありますよ。
仲良くしてくれた、節三に打ち明けるか、どうか。
あなたは今、大事な柔道の時でしょう。
ねぇちゃんは決めました。
あなたには挨拶をしないでこの家を出る事にしょう。
身内だけのお披露目は明日ですが、
あなただけには、言いたくない。言いたくありません。
どうしてか言えません。
明日は盛岡で試合ですね。怪我をしないようにしてください。

嫁ぎ先を探してくれた、父さんと戍太郎兄さんは大変だったでしょう。
有難く思わなければなりません。
ねぇちゃんは、黙って嫁いで行く事を節三が解ってもらえるかどうか、それだけが心残りです。

最後にねぇちゃんから命令です。
節三、お前は誰にも負けない強い柔道家になれるのだから、わき目を振ってはいけません。
ねえちゃんはいつでもお前ことを思っています。
私が離縁されたらお前が私を養うのです。
解りましたか。
解からなかったら解るまで、滝に打たれなさい。

さようなら
                      ミツより
 節三へ                      」  

節三は小刻みに震える手で引いた建付けの悪い障子が、
「ピシッ」と大田の家に響いた。               

{(28)ミツの手紙、節三は}の書き出しに・・・・
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