とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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失踪日記

2006年05月29日 20時56分55秒 | 書評
周りの人たちが「面白い」と薦めるものだから、ついに読んでしまいました「吾妻ひでお著『失踪日記』」。

このマンガ。
実は発売当初からかなり気になってはいたのですが、「ななこSOS」や「ふたりと5人」などで有名な吾妻ひでおというマンガ家の作品にも関わらず、購入を躊躇していたのでした。
というのも「失踪」という、どちらかというと暗いテーマのマンガ。しかも実話に基づいているということは、日頃の自分自身の「暗い部分」に潜んでいる「恐ろしい心理」の蓋を開けてしまうのではないか、と恐れたからでもあります。

実は私には失踪し、20年以上も行方不明になっていた肉親がいました。
それは父の兄弟の長兄でした。つまり叔父です。
叔父は戦前、日本海軍で職業軍人をしており戦中は横須賀に勤務していました。
戦後、海上自衛隊への入隊を勧められましたがそれを断り保険会社に就職します。
いくつかの支店を勤務の後、大阪郊外の支店を任せられ支店長を務めますが、ある日忽然と姿を消したそうです。
その時、私と親子ほど歳の離れた従兄が一人と叔父の奥さん、つまり叔母が残されました。
失踪事件発生当時、私はまだ生まれておらず、物心がついた時「どうして、あの○○兄ちゃんのところは、おっちゃんおらへんの?」と無遠慮に訊いたそうですが、失踪の理由はだれも説明できませんでした。

20数年後、暇があれば探していたのでしょう、私の父が浮浪者然とした叔父を大阪の新世界で発見しました。
叔父は放浪の将棋士として生活していたようで、ある小説にも実名で登場していることが後に分りました。
発見の報に従兄も喜んだのですが、20数年のブランクはいかんともしがたく、叔父が亡くなるまで従兄は、その父と孫たちとを一緒に住まわせようとはしませんでした。

そのような肉親を持つためか、私にも「失踪願望」や「自殺願望」が時おり沸き起こりそうになる時があります。
夜、静かになると「死んだら楽だろうな~」というような漠然としたダークサイドな感情がさざ波のように寄せてくる時があり、いつも「これはいかん」と振り払うのですが、それを振り払えない時が万一来ると恐ろしいと思います。
また東南アジアを旅していても、旅行中に少なくと一回は必ず「このまま日本に帰らず、家族や友人と音信不通になってもいいかな」と真剣に考えてしまうことがあります。
これもまた恐ろしいことです。

ということで「失踪日記」は読むのが怖いマンガでした。
実際マンガの中身は、失踪中の生活やアル中になって入院した時の病院生活がかなり明るくディフォルメされて描かれており、シリアスだけど「ふ~ん」という感じで読めるマンガ、というよりも読み物のようなコミックでした。
マンガという分野である程度の地位を獲得している著者が失踪してしまった理由も、なんとなく分らなくないだけに、私のダークサイドが納まっているパンドラの箱を開けることもなく、楽しく読むことができました。
中身を読む限り、作者は最悪の事態は回避したようで、まずは安心。

ともかくホームレスの生活、家族を切り離した生活というのは「無責任」以外のなにものでもない、ということだけははっきりしているようで。

~「失踪日記」吾妻ひでお著 イースト・プレス刊~


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2 コメント

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Unknown (Admiral)
2006-05-30 21:02:12
「ブログを書いていると、段々自分が裸になっていく様な気がする」と言う話を聞きましたが、なかなかシリアスな内容ですね。



「失踪願望」は誰にでもあると思います。DNAのせいにする必要は無いと思いますよ。



1件「重箱隅」の補足。お父上のお兄様の場合は「叔父」ではなく「伯父」ですね。
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DNA (ちょっと鬱ぎみ@監督)
2006-05-30 21:29:55
励ましのお言葉ありがとうございます。

「失踪願望」は誰にでもある、ということで安心しました。



で、文字の間違いを指摘戴きありがとうございます。

提督に限らず船長さんも度々誤字をしてきなさいますが、これって「とりがら」のDNAなんでしょうか?(笑)
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