人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

HJリムのピアノでベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴・月光・ヴァルトシュタイン・熱情」を聴く

2014年11月23日 07時27分49秒 | 日記

23日(日)。わが家に来てから57日目を迎えた食いしん坊のモコタロです 

 

          

            食事中にカメラを向けないでおくれよ 落ち着いて食べられないじゃん

 

  閑話休題  

 

昨日、第一生命ホールで韓国のピアニスト、HJリムのピアノ・リサイタルを聴きました ベートーヴェン・チクルスで、①ソナタ第14番嬰ハ短調”月光”、②ソナタ第8番ハ短調”悲愴”、③ソナタ第21番ハ長調”ヴァルトシュタイン”、④ソナタ第23番ヘ短調”熱情”。プログラムに載っていたのはこの順番です

 

          

 

会場入り口で音楽評論家・宇野巧芳氏を見かけました。そもそも私が最初にHJリムのピアノ・リサイタルを聴きたいと思ったのは、昨年、彼の書いた”リム激賞文”を新聞で読んだのがきっかけでした その意味では宇野氏に感謝しなければなりません

自席は1階7列14番、センターブロック左から2つ目の席です。会場後方にかなりの空席があります。すごくもったいないです ステージ中央にはヤマハのグランドピアノCFXがデンと構えています。リムはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集をこのヤマハを弾いて録音しています

長い黒髪をなびかせてHJリムが上下黒の衣装で颯爽と登場、ピアノに向かいます 1曲目の出だしを聴いて、あれっと思いました。プログラムに記載された順番では最初に第14番”月光”が演奏されるはずでした。しかし、聴こえてきたのは第8番”悲愴”でした。急きょ、演奏順を変えたのか本当のところは分かりませんが、リムのことですから何があっても不思議ではありません

HJリムの弾くベートーヴェンの激しさはどう表現したら良いのか・・・・ベートーヴェンが今まさに作曲したばかりの曲をベートーヴェン自身が初めて演奏したかのように新鮮に聴こえます 教科書的な”お上手な”演奏とは対極にあるガムシャラと言っても良いような、ひたすら前に突き進む演奏です

プログラムに挟みこまれた1枚の紙に、ベートーヴェンを演奏するに当たってのHJリムのメッセージが書かれています。エッセンスの部分を抜粋すると次の通りです

「1曲ごとのソナタが、ベートーヴェンの同時代人たちが感じたのと同じ瑞々しさおよび革新的なインスピレーションとともに伝えられるべきだろう。ベートーヴェンの情熱、心の動き、影響力、衝撃という、曲が当時にもたらしたものを、あらためて現代のものとすることは、当然のことながら演奏家にとって第一の責務といえよう」

まさに、いま目の前で弾いているHJリムはその責務を果たしている 彼女にはピアノ・コンクールでの入賞歴がまったくない(もっとも、あの演奏ではどこのコンクールでも予選落ち間違いないでしょうが)。しかし、自分の力を信じ、自分自身の演奏方針に不動の自信を持ってベートーヴェンに対峙している

 

          

 

1曲目のソナタが終わると、満場の拍手を受けて聴衆に向かって一礼し、すぐにピアノに向かいます 2曲目は第21番”ヴァルトシュタイン”です。この曲はエラールから新しいピアノを贈られて作曲したソナタです。低音の和音の連打から開始されますが、この曲でもリムの強い”主張”は変わりません。ピアノの領域を十分に使いこなして圧倒的な迫力で弾き切ります

リムはプログラムに『クラシック音楽』に対するメッセージを寄せています。彼女の主張を超約すると以下の通りです

「今日、『クラシック』という言葉は、まじめで厳粛で、遠いところにあり、エリートの人達のための、近寄りがたく、刺激的なインパクトのないもの、音楽教育を受けた限られた人のためのものか、エレベーター内やレストランでかかる害のない、ただ美しいだけのBGMとして使われている ベートーヴェンは『クラシック』の作曲家だろうか?絶対に違う 彼は当時の音楽の重要なルールでさえ、破っている。”美のため”に、ルールを破ってはいけないという決まりなどない。18世紀、19世紀の人気作曲家たちは、現在の私たちの世界におけるアイドル、ポップ・スターのような存在だった 当時のクラシック音楽は、私たちが現代において、日常的に生まれて来るポップ・ミュージックから受けるような刺激そのものだった。・・・・・・なぜこの、飛び跳ねたくなるような、エキサイティングで革新的で、魔法のような、偉大で美しい音楽を、”クラシック音楽”だからという理由だけで、地球の人口の大半の人が退屈なものとして無視してしまうのか 私には答えがない。けれど、この状態を変えなくてはならないことだけは分かっている。今、この瞬間に、一緒に始めよう。皆さんがここに一緒にいてくれることを感謝している」

そう、この会場に居合わせてたわれわれ聴衆は、彼女の実験に、あるいは挑戦に立ち会っているのだ 楽譜通りに、お行儀よく、ミスのないように、無難に弾くことが良いのではない。特にベートーヴェンの曲は、多少のミスタッチがあろうが、そんなことは些細なことだ。要はベートーヴェンの精神が生きた演奏が出来るかどうかだ。HJリムの演奏はその回答だ

 

          

 

休憩後はソナタ第14番”月光”です。今まで何度もこの曲を生で聴いてきましたが、これほど”ロマンティック”とかけ離れた演奏に接したことは一度もありません 今までの”月光ソナタ”に対する”甘くてロマンティックな曲”というイメージを覆す挑戦的な演奏です。第3楽章に至っては、これ以上速く弾けないのではないかと思うほど、超スピードで駆け抜けます

さて、最後は第23番”熱情”です。ベートーヴェンが自信作として自己評価していた傑作です 第1楽章の低音部で何度も鳴り響くのは第5交響曲の”運命”の動機 この曲でも、リムによってベートーヴェンの激しい感情の発露が表出されます。第3楽章のフィナーレはまさに”疾風怒濤”の快進撃です

 

          

 

会場一杯の拍手にアンコールを演奏しました。彼女はベートーヴェンのソナタは全曲暗譜で弾けるのでベートーヴェンの曲かな、と思ったのですが、どうも違う、途中からバッハの曲ではないか、と気が付きました バッハとは思えない新鮮なバッハでした あとでロビーの掲示で確かめたらバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻からBWV848、BWV847とありました。最後にプロコフィエフらしき超絶技巧曲を弾きましたが、これは当たりで、掲示によるとプロコフィエフの「トッカータ作品11」でした

アンコール曲のうちバッハの平均律は12月12日(金)にヤマハホールで弾くことになっています アンコールのバッハがあまりにも鮮やかだったので、これは全曲聴かないと一生後悔するぞと思い、ロビーの片隅で売っていた前売り券を買いました

前にもブログで書きましたが、12月12日はトッパンホールに「フォーレ四重奏団」のコンサートを聴きに行く予定があるのです フォーレ四重奏団は好きなクァルテットで、今度来日したら是非聴きたいと思っていたのです。プログラムも①マーラー「四重奏曲断章」②R.シュトラウス「ピアノ四重奏曲」③ブラームス「ピアノ四重奏曲第1番」と魅力的なラインナップです それでもなお、あのアンコール演奏を聴いてしまった後では、HJリムの演奏の魅力には勝てません

 

          

 

これでHJリムを聴くために、前もって買っていたチケットを諦めたコンサートが3つ目になりました。昨日のピアノ・リサイタルは「藝大クリスマス・オラトリオ」を諦めたもの。今月30日(日)にリムがチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を弾く「都響プロムナード・コンサート」は、東京交響楽団オペラシティシリーズ定期公演を諦めたもの。そして今度の12月12日のコンサートです

12月12日のHJリムによるバッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」のコンサートは、今年のクラシック音楽界の”事件”になると思います

終演後ロビーの行列に並んで、自宅から持参したベートーヴェンのCDにサインをもらいました 昨年6月21日に浜離宮朝日ホールでのリサイタルの時にもらって以来、2度目です

 

          

            (2014年11月22日 第一生命ホールでのサイン)

 

          

            (2013年6月21日 浜離宮朝日ホールでのサイン)

コメント (2)
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