人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

イーメル(Tr)衝撃のデビュー~METライブビューイング、ベルリオーズ「トロイアの人々」を観る

2013年01月27日 07時00分52秒 | 日記

27日(日)。昨日、新宿ピカデリーでMETライブビューイング、ベルリオーズ「トロイアの人々」を観ました。これは今年1月5日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場での公演のライブ映像です 自席はJ-4番で、左サイド通路側です。

「トロイアの人々」はベルリオーズが1856~58年にかけて作曲した全2部・5幕からなる上演時間5時間を超えるオペラです 19世紀半ばには、この壮大なオペラを上演できる劇場がなかったため、作曲者が生存中には上演されず、フランス語による全幕上演は20世紀半ばまで待たなければなりませんでした なにしろ、歌手、合唱、演出、衣裳、大道具、小道具等のスタッフはMETで1,000人規模になるといいます 滅多に上演の機会はありません。METでの前回の上演は2003年だったそうですから、ちょうど10年ぶりの再演ということになります

キャストは、トロイアの王女で預言者であるカサンドラにデボラ・ヴォイト(ソプラノ)、コロエプスにドゥウェイン・クロフト(バリトン)、トロイア軍の大将アエネアスにブライアン・イーメル(テノール)、その息子アスカ二ウスにジュリー・ブ―リアンヌ(メゾソプラノ)、パントゥスにリチャード・バーンスティーン(バス)、カルタゴの女王ディド―にスーザン・グラハム(メゾソプラノ)、その妹アンナにカレン・カ―ギル(メゾソプラノ)、ナルバルにクワンチュル・ユン(バス)、イオパスにエリッカ・カトラー(テノール)ほか、ファビオ・ルイ―ジ指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団、演出はフランチェスカ・ザンベッロです

物語の第1部は「トロイアの陥落」で、トロイアの王女で預言者であるカサンドラは、ギリシア軍が巨大な木馬を残して突然撤退したことに国の滅亡を予感します しかし、アエネアスのもと戦勝に沸く民衆は木馬を城内に引き入れてしまいます。英雄エクトールの亡霊がアエネアスに「トロイは崩壊する。イタリアに行き、帝国を築け」と告げます。木馬から現れたギリシア兵が火を放ちトロイアは崩壊します。絶望したカサンドラと女たちは自害します

第2部は「カルタゴのトロイア人」です。女王ディド―のもと平和に過ごしているカルタゴに、イタリアに向かうトロイア人たちの船がやってきます。ちょうど戦いが起こり、劣勢なカルタゴに対しアエネアス率いるトロイア軍が助太刀を申し出てディド―は感謝します それをきっかけにアエネアスとディド―は愛し合うようになります しかし、亡霊たちが現われアエネアスに「イタリアへ」と促します。引きとめるディド―を振り切って出帆したアエネアスに失望したディド―は、自分は灰になって復讐者ハンニバルとして蘇る、と予言して自害して息を引き取ります

 

          

 

幕間に歌手へのインタビューがありますが、同じMETのソプラノ歌手ジョイス・ディドナートがスーザン・グラハムに「このオペラはイタリア・オペラではなく、フランスのベルリオーズが書いたのでフランス語で歌うことになるけど、イタリア・オペラやドイツ・オペラと違ってどう取り組むの?」と訊くと「ベルリオーズはとにかく革新的です。冒頭から難しいアリアが待っています 自分の声はソプラノとメゾソプラノとのちょうど中間の声だと思うけど、女王ディド―の役には合っていると思うわ」と答えていました。その通り、スーザンの声はぴったりです。ソロでもデュオでも伸びのある美しい声です

今回の公演で、これを書かなければ片手落ちだと思えるのは、アエネアスを歌ったブライアン・イーメルの突出した素晴らしさです 当初アエネアスはMETの看板テノール、マルチェッロ・ジョルダー二が歌う予定だったのが、出演できなくなり(理由は不明)、急きょ代役を務めることになったのです 幕間のインタビューで「いつMETから代役の依頼があったの?」と訊かれ、イーメルは「クリスマス・イブの日に電話をもらいました。クリスマスは取りやめで、すぐにMETに駈け付けてリハーサルをやって本番に漕ぎつけたのです」と答えていました。

以前にもこの役で歌ったことがあるそうですが、それにしてもほとんど練習時間が取れない悪条件の中で、立派に代役を務めただけでなく、他の歌手を圧倒するまでの見事な歌唱力を見せてくれました イーメルが歌うとなぜか説得力があるのです。彼の歌うアリアは人を感動させる力を持っています この公演がMETデビューということですが、何という度胸でしょうか 最後のカーテンコールでは一際大きな拍手とブラボーを一身に浴びていました 次のMETをしょって立つ一人になる可能性は極めて高いと言えるでしょう

いつも思うのは合唱の素晴らしさです。「トロイアの人々」は合唱がほとんど出ずっぱりと言えるほど出番が多いのですが、MET合唱指揮者のパランポがインタビューに答え「このオペラでは総勢110名の合唱陣が出演しています ある時はトロイア人として、ある時はカルタゴ人としてというように幕によって役割が違うのです。自分が今誰を演じているかを意識しながら歌うことが求められます また、歌っていない時には舞台裏で着替えをしたりしていて、休むヒマがありません」と言っていました。コーラス陣も大変ですが、それをまとめるパランボはもっと大変ですね

もう一人、指揮者のファビオ・ルイージを挙げないわけにはいきません インタビューで「マエストロはここ数週間、METだけで”仮面舞踏会”、”アイーダ”、そして”トロイアの人々”と、たった一人で指揮をしていらっしゃいますが、毎回どう切り替えて取り組んでいるのでしょうか?」と訊かれ「メトのオケは優秀なので、集中して取り組むことができます メトのオケを指揮できることは光栄です」と答えていました。

それと、スケールの大きな舞台作りと、途切れることなく続く音楽の中で、観客を飽きさせないようバレエを取り入れるなど工夫を凝らしたフランチェスカ・ザンベッロの演出の素晴らしさは特筆に値します

そういえば、第2幕の前のインタビュー映像が流れている時に、暗い会場の中を老夫婦がやってきて「ああ、ここだ、ここだ、すみません」と言って私の隣に座りました。すると「この映画変ねえ?」「ウーン、おかしいなあ」「会場間違えたんじゃないですか?」「でも、7階って言ってたよね?」「そうだけど、違う映画みたいですよ」「出ようか」「そうしましょう」という会話があって、すごすごと退場して行かれました その後、休憩時間に表に出て隣の会場(No2スクリーン)を確かめると山田洋次監督「東京家族」を上映していました お二人はトロイアではなく東京に行くべきだったのですね 長丁場のオペラを観ている中、一幅の清涼剤になりました。癒されますねえ、こういう人たちは お二人が無事に「東京家族」をご覧になったことを祈念しております

METライブビューイング「トロイアの人々」は休憩2回を含め上映時間5時間17分の超長編オペラです新宿ピカデリー、東銀座の東劇ほかで2月1日(金)まで上映されます。長時間拘束に対する覚悟を決めて出かけましょう

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