人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

筑紫哲也著「旅の途中~ジャーナリストとしての私をつくった39人との出会い」を読む

2013年01月29日 06時59分10秒 | 日記

29日(火)。入院中の母の様態が思わしくなく、個室に移されたという連絡を受けて、昨日、急きょ会社を休んで、狭山の病院に見舞いに行きました 幸い呼吸も安定していて顔色も良かったので一安心しました

西武新宿線狭山市駅から歩いて坂を下りる途中、市立中央公民館が解体工事の真っ最中でした ここは思い出の場所です

今から30年以上前のことですが、公民館の前で「レコード・コンサートへのお誘い」のチラシを配っていました 確か1か月に一度、ここの会議室を会場にしてクラシック音楽のLPレコードをかけるコンサートを開いているという内容でした 興味本位で参加してみると6~7人の人が新発売のLPレコードに耳を傾けていました。その時かかっていたのが誰の何の曲だったのか全く覚えていません 主催者は地元のNさんという私より1つか2つ年上のN自動車狭山工場に勤める青年とその奥さんで、公民館の許可を得て自分のスピーカーを持ち込んでレコード・コンサートを開いているという話でした 相当数のチラシを配ったらしいのですが、それを見てコンサートに参加したのは私ひとりだけだった、とNさんから聞きました。”少数派”のクラシック人口って昔も今もそれほど変わらないのかもしれません

それをきっかけに、個人的にお互いの家を行き来してクラシック音楽の情報交換をするようになりました。急にロリン・マゼール=クリーヴランド管弦楽団のコンサートに行けなくなったので代わりに聴きに行ってくれと言われて東京文化会館に出かけたのもいい思い出です その後、私が東京で暮らすようになってから、Nさんはどこでどうしているのか、消息は定かでありません そんな出会いのきっかけを作ってくれた公民館が目の前で解体されているのを見て、複雑な思いがしました

 

          

 

  閑話休題  

 

筑紫哲也著「旅の途中~ジャーナリストとしての私をつくった39人との出会い」(朝日文庫)を読み終わりました これは、新聞記者(朝日新聞)の時代、テレビ・キャスター(TBS”筑紫哲也 NEWS23”)の時代、雑誌編集者(朝日ジャーナル編集長)の時代を振り返って、出会った人々との交流を描きながら自分の半生をたどった自叙伝です

新聞記者時代で意外だと思ったのはジャズのMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)のピアニスト、ジョン・ルイスとの交流です

「私ほどMJQの生の演奏を聴いた者はいないだろう」と断言しています。筑紫氏は特派員などで3度アメリカ暮らしをしていますが、その間に”追っかけ”に近いことをやっていたようです。ジャズに関して彼は相当詳しいようです 私もMJQのレコードは名曲「ジャンゴ」を収録した2枚組を持っており、よく聴いたものです ジョン・ルイスはバッハへの傾倒が半端ではありません。彼の音楽は限りなくクラシックに近いジャズと言ってもいいでしょう

もう一人は小説家の阿佐田哲也との交流です

彼は色川武大の名前で書いた「黒い布」で中央公論新人賞を受賞し、その後、阿佐田哲也名義で「麻雀放浪記」などの麻雀小説を執筆し「離婚」で直木賞を受賞しています 何と筑紫氏は阿佐田哲也と「話の特集」編集長の矢崎泰久と歌手の井上陽水と何度か卓を囲んだことがあるというのです しかも、書かれたことを見る限り筑紫氏は相当な腕前であるようです。新聞記者に”麻雀”はつきものと言ってしまえばそれまでですが、”プロ”の阿佐田哲也を相手に戦うのですから相当な度胸だと思います

そして、面白いのは何と言っても長嶋茂雄です

「伝説によれば、この学生(長嶋)は英語の授業で、現在形を過去形に直す練習をこうやって切り抜けたという。問題: I live in Tokyo.(私は東京に住んでいる)。これを過去形に直しなさい。彼の答え: I live in Edo.(私は江戸に住んでいる)。なるほど、東京の過去名は江戸である。が、英語の授業でこんな答えを思い付く者はおそらく空前絶後であろう

このほかにも、長男の一茂が小さい頃、球場に連れて行ったのに試合後、忘れて置いたまま帰宅してしまった話とか、試合用にストッキングを左右とも同じ足に履いて、もう片方がないと大騒ぎした話とか、ピンチヒッターを審判に告げる時に自分でバントのジェスチャーをしてしまい作戦がばれた話とか、面白いエピソードが満載です

テレビ・キャスター時代では、音楽家として3大テノール(パバロッティ、ドミンゴ、カレーラス)が取り上げられています 普段あまり上演される機会のないオペラの発掘に熱心なドミンゴが「ABCDオペラ」という名言を吐いたというくだりがあります。オペラファンなら誰でも、それぞれの頭文字で思い浮かべることができる定番演目のことで、その繰り返しだけではオペラの発展はない、という批判を込めた表現だとのことです その「ABCD」とは「アイーダ」「ボエーム」「カルメン」「ドン・ジョバンニ」の頭文字とのこと。これについて、筑紫氏は、名曲だから繰り返し上演されるのだから、必ずしも批判には当たらないのでは、と疑問を呈しています

また、小澤征爾、黒澤明といったその道を極めたアーティストの知られざる姿も紹介されています

本書の「解説」を昨年”最も読まれた本ベストテン”の第1位「聞く力」の著者であり「筑紫哲也 NEWS23」のアシスタントを務めた阿川佐和子さんが次のように書いています

「フレームの中にどれほど不愉快そうな顔が現われようとも、どんな困難が待ち受けていようとも、自分が面白いと思ったらとことん食らいつく・・・・しかもデヘデヘと笑いながら その素直で果敢で愛嬌ある精神こそがジャーナリストの本質だと、本書を読み終わったとき、私はしみじみと理解するのである

まさに、そのようにしみじみ理解するような話が詰まった本です

筑紫哲也と言えば、学生時代には朝日ジャーナルを買って読んだ(ふりをしていた)し、1970年代後半のテレビ朝日系の日曜夕方の番組「こちらデスク」をよく観ていました。筑紫氏はサファリルックのようなカジュアルな服装で、腕まくりをして、理路整然と事件の本質を解説していました 彼が言った言葉で、今でも忘れられない言葉が一つあります。何かの事件を報道した時のコメントなのですが、”法律的、あるいは理論的には正しくても、人の気持ちとして納得できないまま解決を図るべきではない”という意味で、「理に適い、情に適う」解決をすべきではないか、という趣旨のコメントしたのです この言葉は、その後の私の、解決すべき問題に直面した時の大事な判断指針になっています。今は亡き筑紫氏に感謝しています

 

          

 

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