goo blog サービス終了のお知らせ 
不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(547)今こそ私たちはアメリカから独立すべきだ!

2012年09月22日 08時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です(20120922 08:00)

このところ、アメリカによる東京大空襲や原爆投下が正されてこなかったこと、だから今こそ、正さねばならないことを論じてきました。またそのためには私たち自身が、自分たちの国の侵略の歴史も正さなければいけないということも論じ、旧日本軍性奴隷問題にも触れてきました。

今日はその続きを書こうと思っているのですが、重大なニュースが飛び込んできたので、先にそれを論じておこうと思います。今朝の東京新聞が一面トップで報じていることです。記事のタイトルは「原発ゼロ「変更余地残せ」閣議決定回避 米が要求」です。

ご存知のようにこの間、野田内閣は「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」をうたいだしました。これは度重なる首相官邸前行動など、広範囲に広がった「原発再稼働反対」の動きに耐えられなくなったが故の譲歩としてなされたものです。民意が政府を動かしだしたのです。

もちろんこの「原発稼働ゼロ」宣言は、随分、怪しいシロモノです。何より原発を止めても再処理は続けるのだと言っている。再稼働は、通常の原発よりももっと危険で、なおかつ実用化のめどなどまったく立っていない高速増殖炉の燃料(プルトニウム)を使用済み燃料から抽出する作業です。

どう考えてみても、「原発稼働ゼロ」と「再処理継続」は論理的に整合しません。その意味で「原発稼働ゼロ」宣言には真実味がないし、誠意がありません。しかもかりに本気でこれが目指されているのだとしても、三〇年代では遅すぎる。今すぐ、大飯原発を止め、すべての原発を廃炉にすべきです。

その点を踏まえて、しかしそれでも政府に、原発稼働ゼロを目指すべき目標として掲げさせたことは、私たちの度重なる行動が作り出した成果であり、未来にむけた展望が少し拓けだしたことを物語るものでもあります。さらに政府にすべての原発の即時廃炉を求めていく必要があります。


ところがこれになんとアメリカがいちゃもんをつけてきたというのです。それで野田政権が折れてしまい、「原発稼働ゼロ」の閣議決定が見送られてしまった。アメリカに脱原発の道が捻じ曲げられたのです。このアメリカの横暴をゆることはできません。

東京新聞によれば、アメリカは一つに「将来の内閣を含めて日本が原発稼働ゼロの戦略を変える余地を残すよう求めた」のだそうです。また「核技術の衰退による安全保障上の懸念なども表明した」とも報じられています。アメリカの意図ははっきりとしています。核戦略を守り抜くことです。

そのために日本政府に圧力をかけてきた。そうして政府はたやすく屈してしまった。繰り返し言いますが、僕は右翼ではないけれども、こういうのは「屈辱的」というのだと思います。これらからはっきりとしたことは、こうした横暴なアメリカの傘下にいる限り、私たちは平和と安全のための自主決定ができないということです。

ではどうしたらいいのか。今こそ、まさに、真の意味で、アメリカから独立することです。では独立するとは何を意味するのか。ほかならぬ私たち民衆がもっとパワーをつけ、政府をアメリカに屈させなくすることです。いやそれだけでは足りない。アメリカの嫌がる方向に私たちは歩む必要がある。

嫌がる方向とは脱核戦略の道です。そのためにはアジアをはじめとした近隣諸国との友好関係を私たちは自ら推し進めていく必要があります。だからアジア侵略の真摯な捉え返しも必要になるのです。そしてそれをしながらアメリカの戦争犯罪を訴えること、原爆投下や都市空襲、沖縄地上戦による無差別殺戮の非を問うことが必要です。

いや、それだけではない。タリバン政権に、証拠も示さずに「アサマビンラディン」を差し出せと迫り、それが拒否されただけで全面侵攻を行ったアフガニスタン侵略戦争、さらに「大量破壊兵器」など何もなかったのに、その「破壊」を名目に行ったイラク侵略戦争、その非も問わなくてはいけません。

大事なのはそのイニシアチブを握る民衆的力をさらに育て上げることです。まさにPower to the people!です。僕はそれで何も政権をとらなくたっていいと思う。どんな政権が登場しようが、民衆の力を無視できなくさせること、それだけの力を持つことです。今、私たちが示している力を育てれば絶対にそれは可能です。

先に変わるのは議会ではありません。議員とは民衆の後ろからついてくる人たちです。同じように大新聞の紙面を変えるのが先ではない。大新聞もまた民衆の後ろからついてくるのです。それを雄弁に物語っているのがこの間の首相官邸前動です。国会議員の誰があれを呼びかけたでしょうか。どの新聞が呼びかけたでしょうか?

呼びかけるどころか、大新聞は、首相官邸前行動が数万人に膨れ上がるまで報道すらしなかったのです。10万人を超えたぐらいからやっと報道し始め、さらに20万近くになると、例えば朝日新聞が、「なぜ首相はこの声を聞かないのか」とか書き出した。自分たちもつい数週間前まで無視していたことを忘れてです。

いわんや国会議員など、何の役にもたちはしなかった。民衆の力が強まって初めて声をあげられたのです。だからももうそれはいいのです。国会議員や大新聞に何かができるのなら、この国はとっくに良くなっていたのです。国会の場から、マスコミの場から世の中が変わるなんてことはありえない。世の中が変わる中で変わるのが国会とマスコミです。

だから私たちは、私たちの側からのさまざまな行動を重視しましょう。もちろん、その中に議員や、マスコミを動かすということはあります。またこの問題を一面トップで掲げた東京新聞のように、大新聞の狭間で頑張っているマスコミもある。それは私たちの仲間です。マスコミの内部で奮闘している記者さんたちもそうです。

横に、横にと手を広げ、手をつなぎ、私たちの足元のパワーを強めましょう。あらゆる意味でアメリカの横暴に負けない力を培いましょう。大地を耕し、農の営みをたくましくして、アメリカ流の市場万能主義に負けてしまわないのも大事なことです。地に根をはり、心を強くし、そうして私たちを逞しくしましょう。

まさに今こそ、アメリカからの独立を!暴力がはばをきかせる野蛮で理不尽な世、暴力の世紀を終わらせる可能性が大きく開けつつあると僕は思うのです!

 

以下、東京新聞を引用しておきます。

*****


原発ゼロ「変更余地残せ」 閣議決定回避 米が要求
 
2012年9月22日 07時07分 東京新聞
 
野田内閣が「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」を目指す戦略の閣議決定の是非を判断する直前、米政府側が閣議決定を見送るよう要求していたことが二十一日、政府内部への取材で分かった。米高官は日本側による事前説明の場で「法律にしたり、閣議決定して政策をしばり、見直せなくなることを懸念する」と述べ、将来の内閣を含めて日本が原発稼働ゼロの戦略を変える余地を残すよう求めていた。

政府は「革新的エネルギー・環境(エネ環)戦略」の決定が大詰めを迎えた九月初め以降、在米日本大使館や、訪米した大串博志内閣府政務官、長島昭久首相補佐官らが戦略の内容説明を米側に繰り返した。

十四日の会談で、米高官の国家安全保障会議(NSC)のフロマン補佐官はエネ環戦略を閣議決定することを「懸念する」と表明。この時点では、大串氏は「エネ戦略は閣議決定したい」と説明したという。

さらに米側は「二〇三〇年代」という期限を設けた目標も問題視した。米民主党政権に強い影響力があるシンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のクローニン上級顧問は十三日、「具体的な行程もなく、目標時期を示す政策は危うい」と指摘した。これに対して、長島氏は「目標の時期なしで原発を再稼働した場合、国民は政府が原発推進に突き進むと受け止めてしまう」との趣旨で、ゼロ目標を入れた内閣の立場を伝えていた。また交渉で米側は、核技術の衰退による安全保障上の懸念なども表明したという。

エネ環戦略は十四日に決めたが、野田内閣は米側の意向をくみ取り、「エネ環政策は、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という短い一文だけを閣議決定。「原発稼働ゼロ」を明記した戦略そのものの閣議決定は見送った。

大串、長島両氏は帰国後、官邸で野田佳彦首相に訪米内容を報告している。

政府関係者は「事前に米側に報告して『原発稼働ゼロ』決定への理解を求めようとしたが、米側は日本が原発や核燃サイクルから撤退し、安全保障上の協力関係が薄れることを恐れ、閣議決定の回避を要請したのではないか」と指摘している。

◆「判断変えてない」大串政務官

原発ゼロをめぐる米国との協議について、大串博志内閣府政務官は二十一日、本紙の取材に対し「個別のやりとりの内容は申し上げられないが、米側からはさまざまな論点、課題の指摘があった。米側からの指摘で日本政府が判断を変えたということはない」と話した。

◆骨抜き背景に米圧力

<解説> 「原発ゼロ」を求める多数の国民の声を無視し、日本政府が米国側の「原発ゼロ政策の固定化につながる閣議決定は回避せよ」との要求を受け、結果的に圧力に屈していた実態が明らかになった。「原発ゼロ」を掲げた新戦略を事実上、骨抜きにした野田内閣の判断は、国民を巻き込んだこれまでの議論を踏みにじる行為で到底、許されるものではない。

意見交換の中で米側は、日本の主権を尊重すると説明しながらも、米側の要求の根拠として「日本の核技術の衰退は、米国の原子力産業にも悪影響を与える」「再処理施設を稼働し続けたまま原発ゼロになるなら、プルトニウムが日本国内に蓄積され、軍事転用が可能な状況を生んでしまう」などと指摘。再三、米側の「国益」に反すると強調したという。

当初は、「原発稼働ゼロ」を求める国内世論を米側に説明していた野田内閣。しかし、米側は「政策をしばることなく、選挙で選ばれた人がいつでも政策を変えられる可能性を残すように」と揺さぶりを続けた。

放射能汚染の影響により現在でも十六万人の避難民が故郷に戻れず、風評被害は農業や漁業を衰退させた。多くの国民の切実な思いを置き去りに、閣議での決定という極めて重い判断を見送った理由について、政府は説明責任を果たす義務がある。 (望月衣塑子)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012092290070744.html

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(546)福島原発事故は戦争の負の遺産とつながっている(上)

2012年09月21日 17時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です。(20120921 17:00)

昨日、東京大空襲のことを書いたところ、幾人の方から共感のメッセージが届けられてありがたい気がしました。それでもう少しこの点について述べたいと思います。その際、長野県千代田湖で行われた「ちいさないのちのまつり」での自分の発言を紹介することにしました。

この発言は、まつりの主催者の田村寿満子さんに「触れて欲しい」と頼まれて挿入したものです。もちろん僕にとっても強く訴えたい点です。またこの中にも出てきますが、実は9月24日から27日に緊急に台湾に行くことになりました。旧日本軍性奴隷問題の被害女性を見舞うためです。

台湾から戻るのが27日で、そのまま兵庫県篠山市に向い、丹波市、舞鶴市と連続講演を行うことになりますが、なぜこの時期に台湾に行くのかについても発言に続いてみなさんに紹介しておきたいと思います。

まずは9月9日の「ちいさないのちのまつり」での僕の発言を掲載します。なおタイトルは、掲載に合わせてつけたものです。

*********

福島原発事故は戦争の負の遺産とつながっている
~「ちいさないのちのまつり」での発言から~

1、核兵器開発から生まれた原子力発電

放射線の問題を辿っていくと、どうしても軍事問題にいきあたります。放射線学自身に非常に強い圧力が入っています。政治によって、軍事によって歪められています。それはなぜか。放射線を使ったものが兵器から発展してきたからです。原子炉もそうです。もともと原子炉はプルトニウムを作る装置です。

核分裂はウランに中性子があたって行われますが、自然界の中のウランで核分裂するのは0.6%しかない。あとは核分裂しないウランです。ところがそこに中性子が取り込まれると、新しい物質が生まれます。それがプルトニウムなのです。プルトニウムの方がウランよりも核分裂性が高い。

そのためプルトニウムで作った原子爆弾の方が性能が高い。それでプルトニウムを作るためにできた装置が原子炉なのです。アメリカでは発電所と軍事工場を分けています。そして軍事工場のことはちゃんと「プルトニウム生産炉」と言っています。

ところがこのプルトニウムを作るときに、さきほど述べたように自然界の中には、核分裂するウランは0.6%しかありません。この0.6%のままでは核分裂を連続で起こさせることが難しい。なので比率を上げなくてはいけない。これがウランの濃縮です。

「北朝鮮が濃縮ウランの製造に成功」などというニュースが流れたことがありますが、なぜこれがニュースになるのかというと、濃縮に成功すると、それを原子炉にいれて回転させれば、プルトニウムができるからです。しかし濃縮はなかなか難しい。300ぐらいの工程を経るそうです。

こういう技術的に難しいものは、ごく少量だけを作るのも難しい。いったん工場を立ち上げて回してしまうと、そのまま運転しないと大きなロスを生むことになるのです。運転を止めて、また立ち上げるのに随分時間がかかるからです。1950年代の技術だと3ヶ月ぐらいかかってしまっていた。

そのため、核戦争体制を継続するためには、工場を経常運転するのが理想なのです。ところがそうすると濃縮ウランが膨大にできてします。とても全部を核兵器では使いきれない。だからその需要先が欲しかったのです。それででてきたのが「原子力の平和利用」です。それが原子力発電なのです。

しかも原子力発電を一番最初に搭載したのは潜水艦です。核ミサイルを搭載したものです。当時、アメリカとソ連はどういうことでしのぎを削っていたのか。相手の核ミサイルがどこにあるかを把握することです。先にそれを叩けば有利になるからです。

そうなると発射地点を相手に察知されないことが大事になる。理想的なのは潜水艦だったのです。海の中にいるとどこにあるのか分からない。ところがそれまでの潜水艦は重油で走っていたので、油がなくなるとすぐに浮上してきます。そのときに見つかってしまう。

そのためにごく少数のウラン燃料を搭載して、ずっと浮上しないで潜っていられる原子力潜水艦の開発が重要になったのです。つまり原子炉は核戦略の中で生まれたわけですが、最初の原子力発電も、核兵器体系の開発の中で生まれたのです。そしてそれを応用した原子炉がマーク1型だといいます。福島の原発に投入されたものです。

なので原子炉の由来自身も、核戦略のもとづくものだし、原子力発電も、ウラン濃縮を支えるために普及が目指されたのです。しかもアメリカにとって、それを日本で広げることが重要だったのです。なぜか。日本が被爆国だからです。被爆者のたくさんいる日本が、原発を進めることが「原子力の平和利用」の一番いい象徴になるからです。

したがってもともと原子炉は、採算など度外視の産物なのです。軍事ほど、採算を考えないものはありません。さらに環境のことなどまったく考えていません。みなさん、「環境に優しい戦闘機」とか聞いたことがあるでしょうか。「環境に優しい基地」とかありえないですよね。一番、環境を度外視しているのが軍事です。

そのように作られてきたのが原子力発電なのだということを、みなさん、ぜひ押さえてください。


2、戦争犯罪が見過ごされてきた

さらにですね、僕は実はアメリカのことを訴えなければいけないとずっと思っているのです。あのような原爆を落として、未だにアメリカは悪いことをしたとは言っていません。僕はアメリカ軍の原爆投下は、日本軍の南京虐殺と同じ戦争犯罪だと思っています。ところが南京虐殺に対しては右翼の人たちは、そんなことはなかったとけしからんことを言います。

そんなことはまったくの嘘ですが、しかし右翼の人々でも、南京虐殺を正しかったとは言わないのです。ところが原爆はどうか。あったかなかったかなど、論争になっていませんよね。あって当然、落として当然、それでアメリカ兵士50万人を救ったのだといまでもいい続けています。

右翼の人は何の反論もしませんが、僕はこれは絶対にひっくり返さないといけないと思っています。日本全土で行われた大空襲もそうです。80以上の無防備な都市がやられたのです。僕の母は東京深川の生まれで、310大空襲の爆心地にいて、本当に奇跡的に助かっているのですね。

みなさん、寅さんの映画を見たことがありますか。あの映画の登場人物の話す言葉を思い出してください。江戸っ子弁です。ああいう言葉をしゃべっている下町の人々の頭の上に、アメリカは焼夷弾をばら撒いたのです。しかも最初にマグネシウムの入った焼夷弾を落として消防車を集結させたのです。それで消防車をやっつける。

その次に行なったのは、焼夷弾で火の壁を作ることでした。それを幾つも作っていく。そうするとその間は火炎地獄になるのです。それで母が言いました。「火の玉が機関車のように転がっていった」。つまり燃え移るのではないのです。火の玉が飛び移るのです。それで一晩で十万人が焼き殺されました。

広島・長崎とどちらが酷いか。それはもう究極の選択の問題ですね。ただし一晩の死者の数では東京大空襲の方が多いのです。しかしどちらが酷いとかいっても意味のないことだと思います。

こうした数々の空襲に対して、アメリカは何も詫びてないのですよ。しかもこれは行なったのは、カーチス・ルメイという将軍です。彼の前の将軍は、市街地は爆撃してはいけないとこだわって、工場だけを爆撃しようとしたのです。兵士の安全も考えて、高高度から爆撃していた。

カーチス・ルメイはそのやり方は手ぬるいと言って、低空で市街地に侵入して焼夷弾を徹底してばら撒きました。彼はそれで出世しました。それでその後に何をしたのか。原爆の投下、さらに朝鮮戦争における北朝鮮の爆撃、そして北ベトナムの爆撃です。

しかもこのカーチス・ルメイに日本政府は旭日大勲章という最高の勲章を送っているのです。まあ、別に僕が「最高」と思っているのではありませんが、なぜそれを送ったのかというと、日本の航空自衛隊の育成に貢献したからだそうです。日本本土空襲の最高責任者カーチス・ルメイに対して、私たちの国は勲章を送っているのです。

僕は右翼ではないですが、国辱という言葉を使うのだったら、こういうときではないかと思うのですね。

そういうことがずっとないがしろにされてきました。そしてこの戦争犯罪を反省しなかったアメリカが、次々と同じ戦争犯罪を犯してきたのです。今でもアフガニスタンやイラクで続いています。私たちはだからそういうことを止めることを本気になって考えなくてはいけません。

そして止めることを考えるときに、同時に私たちの国の側も、侵略戦争を行ってきたことを考えることがとても大事だと思うのですね。僕はいわゆる軍隊慰安婦問題(旧日本軍性奴隷問題)にずっと関わって、多くの被害者のおばあさんたちと親しくしてきました。今、台湾で96歳のおばあさんが非常にしんどくなっているので急きょ、24日から台湾にお見舞いに行くことにしました。

彼女たちは、僕が日本人として、「おばあさん、ごめんね」と言うと、「なんであんたが謝らなければいけないの。悪いのは日本の軍人だよ。あんたは謝る必要はない。あんたは好きだよ」と言ってくれるのです。「日本人は大好きだよ」と必ず言ってくれるのです。「だから二度と若い人たちに苦しい思いをして欲しくない」とそう言っているのです。

だからみなさん、私たちが糾弾されているのではないのですよ。当時の軍人と罪を認めない政府が糾弾されているのです。だから彼女たちは私たちの味方なのです。日本人が権利をきちんと言えなかった政府に抗議を行ってくれている唯一の方たちなのです。そこを理解して欲しいのですね。

日本の軍人、兵士も本当に酷い目に合わされました。ゴミのように扱われました。漫画家の水木しげるさんが、『総員玉砕せよ』という作品を書いています。ラバウルで玉砕を強いられた兵士たちの話です。名著なのでぜひ読んでください。その冒頭が慰安所のシーンから始まっています。

日本軍の兵士たちにも人権などありませんでした。酷い状態でした。だけれどもその兵士たちの間にたまった矛盾をはらすために、彼らは慰安所に連れていかれたのですね。慰安所はもともとなぜ作られたのかというと、兵士が、普段、ものすごい虐待を受けているので、野に放つと凶暴化して、略奪や殺人、レイプを頻発させたからです。

このレイプの頻発に対して日本軍は困ったのです。何を困ったのだと思いますか。レイプをすることで性病にかかる兵士が多かったのです。兵士として使い物にならなくなる。それで兵士が性病にかからないように作ったのが慰安所だったのです。だから慰安所には処女の女性たち、女の子達が連れてこられたのです。

そうした歴史の流れ、その中で正されてこなかったものの流れ、アメリカの今も止まらない横暴、その流れが、僕は原子力発電所に集中していると思います。ある意味では福島原発事故はその象徴だと思うのですね。

だからこの事故の問題を何とかしていくということの中に、私たちが歪んだ過去をただし、本当に幸せで豊かな世の中を作ることを考えなくてはいけないし、そのために、広島・長崎に原爆が投下されて以降、被爆者の方たちがどんな立場に置かれたのかも見つめ直さなくてはいけないと思います。

これがきちんとできなければ、福島の人々、いや大なり小なり被曝を強いられている私たち全体が同じ目に合うので、二度とそういうことはさせないということを、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

****

発言はここまでです。
これに引き続いて、次回に台湾のことをもう少しお話したいと思います。

続く

 

 


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(545)丹後半島与謝野町と、舞鶴「復興ミーティング」を訪れて

2012年09月20日 16時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です。(20120920 16:00)

9月16日に京都府北部丹後半島の与謝野町にお招きいただき、お話してきました。講演に先立って、今回の講演会の準備で動いてくださった吉田真理子さんとそのお友だちのかたに案内していただいて、天橋立を歩いてくることができました。

日本三大景勝地といわれる天橋立は、松並木が海の中にえんえん3キロも続いているところで本当に美しく、歩いていて気持ちのいいところです。その半分ほどをいろいろなお話をしながら歩きました。その中で、吉田さんと僕に大きな共通点があることが分かりました。なんと吉田さんのお母さんが先の戦争のときに東京におられて310大空襲に遭遇されているのです。子どもの頃から何度もその悲惨さをお母さんからお聞きになったそうです。

僕の母も東京深川の生まれで、310大空襲の爆心地にいました。僕も何度となく話を聞きましたが、今にして思えば、あの業火の中を母が生き延びたのはほとんど奇跡でした。その母から僕が生まれたわけで、吉田さんも僕も東京大空襲のサバイバーだというわけです。僕の場合、父も広島に原爆が投下されたときに、四国の善通寺に駐屯していた陸軍部隊にいて、広島の呉まで救援に向かいました。しかし偵察隊以外、市内に入らなかった。そのため深刻な被曝はまぬがれました。(偵察隊の方は亡くなったそうです)僕はその意味で、東京大空襲と広島原爆の狭間から生まれた命です。

東京大空襲に関してはいろいろな書籍が残されていますが、その中でぜひ読んでいただきたいと思うのは、岩波新書の『東京大空襲』早乙女勝元著です。この中で早乙女さんは、東京大空襲が、用意周到に計画された大量殺戮作戦であったことを告発しています。作戦の指揮をとったのはカーチス・ルメイ将軍。彼はそれまでの高高度から軍事工場を狙って行っていた空襲戦略を一変し、東京の市街地に低空で侵入して、住宅地に焼夷弾を雨あられと落とす作戦を採用しました。

しかも初めマグネシウムを仕込んだ焼夷弾を落として東京の消防車を集結させ、それを航空攻撃によって壊滅させてから本格的な空襲を始めました。カーチスがとったのは、焼夷弾を線上に落としていき、業火の壁を作ること。これに挟まれた地帯は火炎地獄となり、あたり一体が高温化したため、火は延焼することなく、飛び移るように広がっていったといいます。母も、「火の玉が機関車のようになって通っていった」と語っていました。

こうした東京市民焼き殺し作戦に対し、日本軍部が、バケツリレーによる消火という、まったく無意味な「抵抗」を指示していたこともあり、逃げ遅れた人も続出して、東京では一晩に10万人が焼死させられました。これは史上空前の空襲被害です。一晩での殺害では広島・長崎を上回ります。最もそんな比較など意味ないかもしれませんが。

ちなみにこの東京大殺戮を指揮したカーチス・ルメイはその後、米空軍の要となり、原爆投下はもちろん、朝鮮戦争で北朝鮮への空襲を指揮、ベトナム戦争でもB52による北爆の総指揮をとりました。空からの非戦闘員の虐殺を延々と行い続けたわけですが、なんと私たちの国は、このカーチス・ルメイに「旭日大勲章」を与えています。航空自衛隊の育成に功績があったからだそうです。僕は右翼思想は持ち合わせていませんが、「国辱」という言葉を使うのであれば、こういうときにこそ使えばよいではないかと思います。


さて当日はそんなお話しから、戦争と平和の問題と、原発の問題が重なっていることに触れて話をさせていだきましたが、もう一つ、この日の講演会で印象的だったのは、与謝野町町長がこの企画に丁寧なメッセージを寄せてくださっていたことでした。これまで150回ぐらいの講演に出向いてきましたが、首長さんからメッセージを頂いた企画はこれが初めてだったように思います。なんというか、規模の小さい町は、行政や首長と町の人々の距離が近いように感じられていいなと思いまいた。せっかくですので、僕も町長さんのメッセージへの返信を心を込めて書かさせていただこうと思います。

与謝野町は、高浜原発からほぼ30キロの地点。天橋立も高浜で何かあれば被曝してしまいます。それだけにここは当事者性の強い町です。古くから伝えられてきた天橋立も、被曝をしてしまえば、人が憩うことのできない場になってしまう。三大景勝地の一つが失われるのです。えいえいと続いてきた美しい場を私たちの代で絶ってしまってはいけない。だから福井原発銀座は・・・他のすべての原発と同じように・・・動かしてはいけないし、止めなくてはいけないのです。

当日の講演には50名以上の方が参加して下さり、盛況なうちに企画を終えることができました。


その後、「舞鶴復興ミーティング」の方がお迎えに来てくださっていて、車で舞鶴市に向かいました。ちょうど夕方のラッシュ時で少し予定より遅くなりましたが、無事に舞鶴市内の会場につきました。そこには舞鶴の方たちだけではなく、南丹市、京丹波あるいは福井県嶺北地域の人たちもかけつけてくださいました。課題は、高浜と敦賀に急きょ、押し付けられようとしている震災遺物(がれき)の焼却と埋め立て処理反対についてです。高浜の方も参加してくださいました。

ミーティングでそれぞれからさまざまな意見が出されました。また高浜町が非常に声があげにくい地域であること、昔から原発反対で動いてきたからも、高浜町民との連携がとても難しいことなどが語られました。これをどうやって突破するのか。細かい戦術のようなことは紹介できませんが、僕は考え方としては、「地元」という枠組みを私たち自身が見直す必要があるのではという話をしました。

これはどこの原発にも言えることですが、一度原発事故が起こったときに、被害は非常に広範囲に及びます。その意味で、誰もが「地元」であり、「当事者」なのです。にもかかわらずこの国は、ごく小さい行政単位を「地元」とし、そこに巨額のお金をつぎ込むと同時に、地縁血縁をフル動員し、場合によってはヤクザの暴力をを使って、「地元」から反対の声が出ることを押しつぶしてきました。そのことが「現場」で声を出しにくい状況を作り出してきた。

これを真っ向から打ち破っている祝島の例もあり、それは本当に立派で素晴らしことですが、しかしすでに原発が作られてしまい、雇用も発生し、たくさんの利権が出来上がってしまった地域で、同じ「地元」での反対運動を作り上げることは難しい。そのため、「地元」が声をあげ、周りが「応援」「支援」に入るという他の住民運動に多くあるパターンは作りにくいのが現実です。だからこそ、近隣の人々がまさに「地元」として声をあげることが大事なのではないか。その声を大きくする中で、直近の人々もそれにあわせて声をあげられるような運動を作り上げるのがいいのではと思いました。


それにしてもあらためて思ったのは、脱原発の声、あるいは震災遺物(がれき)広域処理の声の広がりの強さ、深さです。本当にあちこちの地域の人が、それぞれに必死になって自ら勉強し、データを調べ、あちこちの会合に顔を出し、それぞれで人脈を広げながら歩んでいる。そうしてそれぞれが触手を伸ばして、関係を広めています。そうしてだんだんと大きなネットワークが形成されてきている。とくに関西から北陸にかけての日本海側、丹波山塊から北陸に連なる地域の人々が、明日に向けて連携を強めていることに感動しました。

ちなみに丹波という名の由来に僕は格別な思いを持っています。といっても、幾つかの由来が考えられ、決まった定説はないのですが、僕が山の中でさる人から聞いたのは、丹はもともと谷であったという説です。谷(たに)は古くから「たん」とも発音されてきました。今も、沖縄県の読谷村(よみたんそん)にその発音が残されています。ちなみに沖縄には大和古語の発音が今でも残っています。那覇をNAFAと発音するなどです。それらから、丹波は、谷波であり、まさに谷が波のようにどこまでも続く丹波山塊を意味していると言うのです。

実はこの日のミーティングのあとも、僕は舞鶴にある「雲の上のゲストハウス」に泊めていただき、夜に満点の星空をご馳走になってしまったのですが、朝おきたら、今度はどこまでも続く山と谷の波が僕の目を楽しませてくれました。そんなときに胸に熱く去来するのは、「この山々に放射能を降らせたくない。降ることなどあってはならない」という思いです。この美しい山並み、日本の原風景と呼べるようなはるか遠くまで次々と続いていく波のような山々の美しさを、何世代もあとの人々にきちんと送りたいとそう切実に思うのです。

丹波そして若狭には、9月27日、28日にも伺います。27日篠山市、28日丹波市、舞鶴市で講演します。この地域での温かく豊な輪の広がりに貢献していきたいです。

*******

なおこの篠山・丹波を含む、今後の講演予定を示しておきます。

明日は京都市北白川いずみ保育園で講演します。

以下、フェイスブックでの紹介から
http://www.facebook.com/groups/125195297587402/permalink/302337139873216/

***

左京区、北白川いずみ保育園での企画です。
保護者からの紹介でしたら、どなたでも御参加いただけます。(参加費300円)
ご希望の方は、詳細を送りますのでメッセージをお願いいたします。

知りたい、放射能のこと。守りたい、こどもたち」
?内部被曝とは?食べ物は大丈夫?できることは何??

お話:フリージャーナリスト 守田敏也さん
とき:2012年9月21日(金曜日)18:00?20:00(質疑応答含む)

守田敏也氏
同志社大学社会的共通資本研究センター客員フェローなどを経て、現在フリーライターとして取材活動を続けながら、社会的共通資本に関する研究を進めている。311以降は原発事故問題をおいかけている。2012年3月に物理学者の矢ヶ克馬氏とともに岩波ブックレットから『内部被曝』を上梓。

***

9月27日28日

兵庫県篠山市・丹波市にて講演

日時:9月27日(木)午後7時半~
場所:篠山市民センター 1F多目的ルーム

日時:9月28日(金)午前10時~
場所:柏原住民センター 2F会議室

主催 「どろんこキャラバン☆たんば」
http://doronkocaravantanba.seesaa.net/

チラシ
http://doronkocaravantanba.seesaa.net/upload/detail/image/E5AE88E794B0E6958FE4B99FE6B08FE8AC9BE6BC94EFBC88E8A1A8EFBC89-thumbnail2.jpg.html

***

9月28日

京都府舞鶴市にて講演
詳細未定

***

9月30日

京都市梅小路公園 ベジタリアンフェスティバルで講演

午前10時から午後5時まで開催

トークショーに参加
放射能よろず相談所を終日開設

スケジュール
10:40~11:10 守田 敏也氏「放射能の時代を生き抜くために」
11:50~12:05 長谷川 羽衣子氏「これからのエネルギーと私たち」
12:45~13:00 木下黄太氏「放射能被害の今と今後」
13:00~13:15 平氏 X 長谷川氏 X 木下氏 トークセッション
15:30~16:00 小山 直美氏「人間と生きものと地球」
16:30~16:50 平 智之議員 「放射能汚染と今後の日本。エネルギーシフトを京都から」
同ステージにてパフォーマンスライブもあります。時間は多少前後します。
隣接する 雅なイベントホール「緑の館」でも、平氏 X 長谷川氏 X 木下氏 トークセッションを行います。(完全予約制)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(544)内部被曝と被爆者差別(下)

2012年09月16日 08時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です(20120916 08:00)

今朝はこれから京都府北部に出発します。与謝野町でお話し、その後、舞鶴市に移って市民の方たちと懇談します。今宵は舞鶴宿泊です。舞鶴でも景勝地にちょっと連れて行ってもらいます。こんな美しいところが奪われてはいけない・・と本当にそう思いながらですが、なんとも役得を続けてしまいます。

その前に、「内部被曝と被爆者差別」の(下)、完結編をお届けしておこうと思います。今回は核心部分、差別の問題に切り込んでいます。その際、取り上げたものに「ダウン症児の出生前診断」の問題があります。9月以降、「共同臨床研究」の名のもとに、国立成育医療研究センターをはじめ、10施設が参加して行われようとしているものです。

僕はこの間、放射線被曝と差別の問題を一番深く話し合ってきた小寺さんという女性からこれを教えられました。ちなみに小寺さんの息子さん、アキト君もダウン症児です。それでこのことを一緒に掘り下げて考えてきたのですが、9月8日の大阪梅田教会のお話のときは、主催者の中のお一人で、自らも障がいをお持ちの方が、これを報じた新聞記事を、当日資料の中にコピーして挟み込んでくださったのでした。

当日、配られたのは朝日新聞でしたが、ネットでは全文を読めないので、毎日新聞の記事を紹介しておきます。

ダウン症の出生前診断:来月から妊婦血液検査を試行
<ダウン症の出生前診断>来月から妊婦血液検査を試行 | ゲキセンYahoo!ニュース (jugem.jp)

問題のポイントは次の点にあります。ダウン症に関する出生前診断はこれまでも行われてきており、中絶が選択されたり、妊婦さんが事実上、中絶を迫られたりしてきたのですが、今回、大きく事態が変わったのが、診断の精度が格段にアップしたとされていることです。99%の確率だといいます。そのためこれまでは、ダウン症の可能性もあるけれど、そうでないかもしれないという中での「選択」だったものが、99%の可能性の中でのそれに変わる。そのため実際には、中絶が促進される可能性がきわめて強いということです。

私たちの国の法律では、障がいを理由に中絶することは認められていません。それが当然なのですが、実際には黙認されているのが現実です。命が障がいを理由に選別されているのです。新技術はこの選別を促進する意味を持ち、障がい者は生まれないほうがいいという暗黙の強制力を強めるものになりえるので、僕はその採用に反対です。

とくになぜ放射線被曝が深刻にひろがったこの時期に始めるのかという点に、深い疑義を抱かざるを得ないのですが、発言にあたって、この記事のコピーがあったおかげで、話をスムーズに進めることができました。感謝したいと思いますが、その方自身が後で、「今日は守田さんが僕の言いたいことをみんな言ってくれました」とおっしゃってくれたので、なんだか嬉しい気がしました。

以上を、前提として、発言の終盤部分をご紹介したいと思います。

****

内部被曝と被爆者差別(下)

今日のシンポジウムでは「差別」ということが大きな課題として掲げられています。放射線の被害は先ほど述べたように、激しく細胞分裂をしている子どもの方が、被害が大きく出ます。もっと被害を受けやすいのは胎児です。胎児の場合は、細胞分裂だけではなくて、細胞分化もしています。細胞がいろいろなものに分化することです。当たり前ですね。最初の受精卵がただ分裂を繰り返すだけでは人間の体になっていきません。

その分化する前の細胞を、幹(みき)の細胞と書いて、幹細胞(かんさいぼう)と呼びます。分化は大方は胎児のときになされますが、生まれてからも続くものがあります。血液がそうです。この場合は、血の元を造る造血幹細胞というものがあって、その細胞から赤血球、白血球、血小板が造られます。なのでこの造血幹細胞がやられてしまうと、赤血球、白血球、血小板が造られるときにあやまったものが出てきてしまいます。そうすると免疫上の問題などいろいろな深刻なことが起こります。放射線傷害が引き起こす白血病はその典型です。

となると胎児が放射線に被曝した場合、受ける影響は大変深刻だということが分かると思います。まず流産、死産の可能性が高まります。次に障害が発生する確率が高まります。障害者が生まれてくるわけですが、この問題をいかに捉えるのかがとても重要です。

その点で、今日は主催のみなさんが作ってくださった資料の中に非常に重要なコピーを入れていただいています。ご覧になってください。ダウン症児の出生前診断をめぐる記事です。今、この時期に、この臨床試験が合法化されたのです。非常に高い確率で、ダウン症児を発見できるというのですが、なぜよりによってこの時期にこれを推し進めようとするのか、僕は強い疑いを持っています。

なぜかというと、放射線被曝の影響で、ダウン症児の出生の確率が高まることは、これまでの核実験や原発事故後のデータで確認されています。それに対して新たな精度が高いとされる出生前診断をこの時期に始めたら、ダウン症児だったら中絶しなさいということにしかならないのではないでしょうか。

ここは非常に重要な点です。僕は放射線被曝の危険性を説いています。とくに胎児が被曝することの危うさを強調しています。しかし「放射線に胎児が被曝すると障がい者が生まれてくる。だから原発は怖い」と言ってしまったらどうなるでしょうか。それは障がい者の尊厳を踏みしだくことであり、間違いです。そこの問題に関して、僕は踏み込んでいかなくてはいけないと思っています。

ではどう踏み込んでいくべきなのか。これだけの被曝がある限り、私たちの社会には病気を持った方、障がいを持った方が増えます。間違いないです。否定のできないことです。何せ避難すべきところに今もなおたくさんの方がおられ、日々、被曝が進行しているのですから。しかも食べ物に混入した放射能が、全国に出回っているわけですから。そうした影響はどこで出てくるかわかりません。ならばもはやそうした病気や障がいを持った方が、少しでもよりよく生きれる社会に、今の世の中を変えていくこと、そうした方たちの尊厳がより守られるための社会的整備そ進めていくこと、その方たちと一緒に生きれる世の中の創出を、私たちは目指さなければなりません。

僕は放射線防護を強調していますが、もうそれだけでは足りない。防護できなかった面がたくさんある。被曝が進んでいる。だからこそその結果と正面から向かい合うことが必要なのです。腹をくくって、みんなで進んでいく必要があります。

それでこの間、実際に、ダウン症児のお母さんとこうした話をずっとしています。その方はこの出生前診断の問題が出てきてから、本当にブルーになってしまって、「うちの子どもは存在が許されない社会になっていくのだろうか」と嘆かれているのですが、そのお母さんに、では「実際にダウン症児を育てていてどうなの?」と話を聞きました。すると彼女が語ったのは「ダウン症の子どもがいることが、一概に不幸だとは思わないで欲しい」ということです。「私たちには私たちの幸せがある。ダウン症の子どもがいることは楽しいことなんだ」と。

僕は「どこがどう楽しいの?」と聞きました。そうしたらこう言っていました。彼女はアキト君というダウン症の息子さんがいて、今は小学校の高学年なのですが、アキト君が学校に入ると、子どもはすぐによってきてアキト君と親しみだすのだそうです。でもそれで「おばちゃん、俺、アキトの言うてること、ようわかれへん」とか言ってくる。

そうしたら「しめた!」と思うのだそうです。「アキトはな、こうこうこういうことでな、言葉がうまくないねん。だからよく面倒みたってな」などと説明してあげる。大人がいると「そんなこと、聞いちゃいけません」と子どもをたしなめてしまうそうですが、実はこんなときこと、アキト君と周りの子の関係が進むチャンスなのです。

そしてそこがつながって半年も経つと、「おばちゃん、おれな、アキトの言うこと、分かるようになってきたわ」と言い出し、そんな子が、大人たち、学校の先生に、アキト君のいいたいことを通訳してくれるのだそうです。そうやって子どもたちはアキト君を囲んだ素晴らしい関係をすぐにも作り、育てていってしまう。そうしてみんなで豊かに成長していくのです。もちろん、アキト君もそのうちの一人としてそこにいます。

さらにそのお母さんが言っていたのは、「言葉がうまくつながらない分だけ、愛情が深くなります」ということでした。いろいろなことが言葉にならない分だけ、より愛情を細やかに伝えようとしあう。だから「あの子と私の間の愛情で凄いんですよ」と彼女はニコッと笑って言うのですね。僕は、ああ、素晴らしいことだなと思いました。

しかしそういうことが知らされないまま、ダウン症のお子さんと生きていることがどういうことなのかを知らないままに、何かそれが「不幸だ、欠落したものだ」と決めつけられて、中絶を迫られてしまう。命の尊厳が選択されていく。そんなことはあってはならないわけです。

もちろん、だからと言って、すべての人に病気をもたらし、障がいをもたらす放射線の害はとめなければいけないと思います。ここは非常に難しいことですが、僕が思うのは人間の自然なあり方として、ある一定の数の方が今は「障がい」と言われる特徴を持って生まれてきているわけです。僕はそこには、それこそ神様が与えた役割があると思うのです。誰にも役割があるのです。それが人間存在そのものだとも言えると思います。だからそうした障がい児のまわりにいくと、「あの子がいることによって、特別な幸せを得ることができた」と、そう話される方がたくさんおられます。その子を通じてしか結ばれない素敵な縁がそこに存在しています。

でもそのことと、人為的に自然の摂理が捻じ曲げられ、人体に害のあるものがばら撒かれていく。その結果、流産・死産が多発する。生まれ前に奪われてしまう命が発生する。これは許すことができないことで、とめなければならないと思います。僕はとりあえずはそのように整理しています。

その上で強調したいことですが、僕はあちこちで、内部被曝の危険性を説いています。これからも説きます。さきほど、西山さんが、福島の中で「そういう怖がらせることを言うのはやめてくれ」という声があることが紹介されましたが、しかしそれは事実なので、僕は話し続けなければいけないと思っています。ところがその部分だけを聞かれてしまって、「障がい者がいっぱい生まれてくるから危険なんだ」と、逆にその話から差別的な見方が出てきてしまう可能性があることととも、闘わないといけないと思うのです。

放射線被曝から人々を守るということが大事なことの一つですが、でももう大変な被曝をしてしまったのです。だから被曝の結果に対して、手厚い対処をしていかなくてはいけない。どういう形であろうとも、多くの、多様な方と共生していける方向を目指すことがもう一つの大事なことなのです。

国はまったく逆を向いています。みなさん、ご存知でしょうか。この4月から介護保険がきり縮められてしまいました。1時間の枠が45分に削減されてしまいました。僕は明らかに厚生官僚は、これから医療費が跳ね上がることを理解しているのだと思います。放射線被曝のためにです。理解して、彼らが突き進むのは、医療費のカットです。

この出生前診断についても、その中で出てきた可能性があると思います。つまり国は障がい児が生まれない方がいいと思っているのだと思います。障がい児が増えると、原発の危険性が表面化するし、社会的費用もよりかかるようになる。だから障がい児はその前に殺してしまえということですよ、これは。こんなことは絶対に許せない。

そうではなくて、障がいを持った方、ハンディキャップを持った方が、それを障がいやハンディキャップと感じなくていいような世の中に近づいたほうが、全ての人が、生きやすくて、幸せな世の中になるのです。また誰もがいつどこでどのようにハンディキャップを負うことになるかも分からないわけで、そのことからも、こうした世の中こそが、私たちにとってより良い世の中なのです。そのことを頭に入れて、放射線被曝とたたかいながら、同時に差別を越える豊かな世の中をみなさんと一緒に作っていきたいと思います。どうもありがとうございました!

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(543)丹後半島、与謝野町でお話します。(9月16日です!)

2012年09月15日 23時30分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です。(20120915 23:30)

京都に向かう新幹線の中で書いています。投稿するのは、京都市内の自宅に戻ってからですが。今日(15日)は、福島県いわき市で行われていた高木仁三郎基金主催の測定室講習会にオブザーバー参加してきました。全国から15箇所ぐらいの測定所が集まり、中身の濃い討議が重ねられていました。今後のさまざまな測定室へのかかわりに役立たせていただこうと思っています。

さていったん家に帰って、明日は朝から京都府北部、日本海側の与謝野町に向かいます。天橋立のそばで講演なので、少し前にこの日本有数の名勝を見学してしまおうと思っています。この天橋立も、高浜原発から直線で20数キロに位置しています。ここで深刻な事故があれば放棄しなければいけなくなってしまう。そうしたところが他にも日本中にたくさんあるわけで、それはこれらの景勝地をえいえいと私たちの代まで伝えてきてくれたご先祖様方への冒涜であると思えます。

さらにこのところ腹が立って仕方がないのが、なんとこの高浜町に、西日本各地で押し返された震災遺物(いわゆるガレキ)が押し付けられようとしていることです。焼却灰の埋め立てが寝られれてます。これは本当にひどい!高浜町ばかりでなく、敦賀市も候補にあがっています。なんというか、結局ここに持ってくるのか・・・という感じです。与謝野町は京都府、高浜町は福井県、それだけに僕は与謝野町の方が、声を上げやすい面もあるのではないかと思い、ぜひ、高浜町と与謝野町のために、震災遺物広域処理反対の声をあげて欲しいと訴えてこようと思っています。

さらになんとも言えないのは、この高浜に持ち込まれようとしているものが、岩手県大槌町の震災遺物だということです。京都OHANAプロジェクトで中古自転車を届けた町です。その後のフォローでこの7月にも大槌に行ってきましたが、津波で大きく流されてしまった町を見渡して、震災遺物が積み上げられているのはほんのわずかなところであり、広大な地域が復興の手などまったく入らないままに放置されていることが分かりました。震災遺物が復興を妨げているなどというのはまったくの嘘です。

またほかならぬ大槌町の人たち自身、自分たちの住まいなどでもあったこれら震災遺物の移動処理などのぞんでいないのです。壊れたままにされている防波堤を直すために、そこに遺物を積み上げ、鎮魂の森を作りたいというのが地元の願いなのです。そのためには実は大槌のものだけでは足りない。周辺自治体のものを大槌でひきとってもいいという声もあるほどです。

この場合は焼却処理を経ません。震災遺物をしっかりと固めてその上に盛り土すれは、放射性物質も閉じ込めることができます。森の作り方には慎重を要しますが、その点をクリアし、地下水への漏れ出しを防止すれば、これは震災遺物の合理的な処理方法になりえると僕にも思えます。そのために、放射性物質の遮蔽のあり方を研究し、放射性物質があるところまで根をはることのない植物の移植の方法など研究して、安全で、心のこもった鎮魂の森を作ることは可能だと思います。またそのためにこそ予算を投入してその可能性を拓くべきです。

にもかかわらず、人々がここに鎮魂のためにおいておいて欲しいというものを奪い去って移動し、これまで原発を受け入れてきた高浜町、敦賀市に押し付けようとするこの国の政府、高官たちのモラルはいったいどうなっているのでしょうか。心の中に本当に温かい血が流れているのでしょうか・・・。そう考えざるを得ません。こうしたことをこの日本海に面して町でお話してこようと思います。

直前のお知らせで恐縮ですが、以下、案内を貼り付けます。

*****

原発を考える会講演会「放射能(内部被ばく)に向き合う~子どもたちの未来を守るために」

9月16日(日)14時、生涯学習センター知遊館(京都府与謝郡与謝野町字岩滝2271。KTR「岩滝口」より徒歩23分)TEL0772・46・2451。

ストロンチウム90が10都県で検出されました。子どもたちの安全を守るために、内部被ばくについて、今しっかりとした知識が必要になってきています。

講師=守田敏也(フリーライター)。

無料。

問い合わせTEL0772・46・5048(宮津与謝九条の会:吉田)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(542)内部被曝と被爆者差別(中)

2012年09月14日 22時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です。(20120914 22:00)

東京のホテルからです。今日は内部被曝問題研のある委員会の会議で出向いてきました。明日はここから福島県いわき市に向かい、ある測定室に全国の測定室のメンバーが集って行われる測定室講習会に参加してきます。その後、夜中にいったん京都市に戻り、明後日は京都府北部、丹後半島の与謝野町にいってお話します。旅から旅ですが、特有の楽しさを味わっています。

さて、今回は「内部被曝と被爆者差別」の(中)をお届けします。内容としては、内部被曝のメカニズムについてのお話です。なんだ、まだ差別のことは出てこないではないかとお思いかもしれませんが、放射線の人体に及ぼす影響が深刻であるがゆえに、それに続いて、その結果といかに向かい合うべきなのかということも導き出されることになります。なのでまずはしっかりと放射線の作用について耳を傾けていただきたいのです。

岩波ブックレット『内部被曝』でまとめた内容を短い発言の中にこめることができたように思いますので、ぜひお読みください。活用もしていただけたらと思います。

***

内部被曝と被爆者差別(中)

3,隠されてきた内部被曝の脅威

それではなぜこれほどの放射線の評価に対する違いというものが出てくるのでしょうか。それは放射線と人間の関係がどこでどのように調べられたのかということに帰着します。どこの何か。広島・長崎の原爆です。では誰が調べたのか。アメリカ軍、およびそれが組織した機関です。ではなぜアメリカ軍が調べたのか。一つは兵器としての性能を知りたいからですね。落とした側ですから。もう一つ、決定的なことは、徹底して、原爆の非人道性を隠したかったということがあります。では非人道性を隠す核心は何だったのかというと、内部被曝を全くなかったことにすることです。

外部被曝と内部被曝、これはもうポピュラーになった言葉ですね。外部被曝は外からの被曝です。内部被曝は放射性物質を食べたり飲み込んだりして、そこから被曝することです。では原爆ではどう言われているのか。原爆が破裂した時に、中性子線とガンマー線という放射線が飛んできます。これに当たるのが外部被曝です。プラス、キノコ雲があがって、その中に放射性物質がたくさん含まれていました。それが数十キロにわたって、広島・長崎を汚染しています。そこから降下してきたものを多くの方が、黒い雨に当たったり、埃と一緒に吸い込むなどして内部被曝してしまったのですね。

これをアメリカは一切、認めてこなかったのです。ないということになっているのです、これが。正確に言うと「認めてこなかった」のではなく、現在進行形で、今なお、認めていないのです。そして日本政府はこれに完全に追随してきたのです。だから内部被曝という言葉は日本政府は使ったことすらありませんでした。一番最初に使ったのは、昨年の3月11日以降の、枝野さんの会見においてでした。それが日本政府高官が、内部被曝という言葉を使った初めてのことだったのです。内部被曝は全く隠されてきた、そして現在も隠されているのです。そのことをおさえてください。

4,放射線による電離作用

続いて内部被曝のメカニズムについてお話したいと思います。放射線の害というものはどのように出るのかですが、これは物理学の領域になります。みなさんの大好きな物理学ですので聞いてください。わりと単純です。私たちの物理的世界は原子から成りたっています。原子には真ん中に原子核があり、その周りを電子が回っています。ただ原子として存在しているものはまれで、原子と原子がくっついて分子の形で存在しているのですね。その場合、どのようにして原子がくっつくのかというと、電子が軌道を共有化し、相互作用を及ぶぼすことによってくっつきます。

それに対して放射線の作用はシンプルです。放射線が分子に飛んでくると、そのうちのあるものが電子にあたり、軌道からはじきだしてしまうのです。そうすると電子の相互作用によってつながっていた分子が切れてしまいます。分子切断が起こるのです。それが放射線が物質に与える影響の基礎になります。電離作用といいますが、これがまた副次的な要素を作り出していくことになります。

5,DNAが切断される

これが生物に対してはどういう影響を与えるのか。私たちの体の細胞の中にはDNAがあります。一番大事な遺伝子情報が入っています。ここに放射線が飛んでくるとどうなるかというと、分子切断が起こりますので、生命の鎖が切れてしまいます。ところが、DNAは二重の螺旋になっていて、そのことで自分を守っています。さらに生物の体には驚異の修復力があって、二重の鎖のうちの一本が切られたぐらいだったら、何とかつなぎなおすのです。

ところがこの二重の螺旋が解けるときがきます。それぞれが一本になり、自分を複製してもう一度、二重になる。これが細胞分裂です。今、私たちの体の中で激しく起こっていることです。なので細胞分裂中のDNAというのは、放射線に弱いわけです。一本になっているときだからです。ではどういうところが弱いのかというと、細胞分裂が激しいところで、例えば粘膜ですね。だから粘膜はやられやすくて、例えば鼻血が出る。下痢や口内炎が起こります。腸の上皮細胞の粘膜が細胞分裂が激しいからです。あるいは細胞分裂が激しいのは毛根です。抗がん剤治療で髪の毛が抜けるのもそのためです。抗がん剤は、がんという激しく分裂増殖を繰り返している細胞を攻撃するので、副作用として毛根もやられるのです。

その考えからいくと、細胞分裂を激しくしている人ほど、放射線に弱いことになります。誰かという子どもです。そのため大人より子どものほうが放射線の影響を受けやすいのです。ただし、高齢者は放射線に強いのかというと、そんなことはありません。高齢者の場合は、一般的に言って、免疫力が落ちていますし、いろいろな病気を抱えていますから、その病気に対して放射線は促進するものとして働きます。だから高齢者も、放射線に対しては弱者です。そのことを知っておいてください。

さらにDNAに飛んでくる放射線が増えるとどうなるのか。そうなると二重切断が起こります。その場合でもDNAはつなぎなおしをしようとしますが、それができないとDNAは死んでしまいます。DNAが死ぬと、それが入ってる染色体が、そして細胞が死にます。これが全身に起こると、いわゆる放射線急性症状を起こして、ひどい場合にはその方が亡くなってしまいます。

ところがこの段階でも、DNAはつなぎ直しを試みるのですね。試みてどうなるのかというと、二重切断で情報がめちゃめちゃになっているので、何とかつなぎなおすのですが、異常再結合することが多くなる。それが染色体異常をもたらします。そしてその異常再結合したDNAが、さきほど説明したように細胞分裂していくのです。細胞分裂してあやまった自己をコピーして増やしてしまいます。そのためある程度の時間が経つと、異常再結合したものの数が体の中で増えていって、病気などをもたらします。これが「にわかに健康に被害はない」ということの正体です。気をつけてくださいね。あれは「健康に害はない」とは言っていませんからね。

6,放射線の違いによる物質への作用の違い

ここで内部被曝の核心問題を話します。注目してほしいのは放射線の種類です。原発からでてきた放射性物質の中から飛び出してくるのは、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線です。一番、強いのはα線、次にβ線、γ線です。α線は空気中では45ミリぐらい飛びます。β線は1メートルぐらい。γ線は体も通り抜けていきます。この言い方は間違いがないのですが、これがしばしば誤解を生みます。この点は物理学者さんがもっときちんと説明すべきだと思うのですけれども、次のような説明もされます。「α線は紙1枚で止まります。β線は金属板で止まります。γ線は厚いコンクリートでないと止まりません。」こう言われると、γ線が一番強く見えてきてしまいます。

これは一体、どういうことなのか。ここでもう一度、注目してほしいのは放射線が電子を弾き飛ばして、分子切断をする場面です。比ゆ的な言い方になりますが、α線は一番大きいのです。大きいので、飛んでいくと、自分の行く先にある分子にことごとく衝突するのです。α線がなぜ空気中で45ミリで止まるのかといえば、45ミリの中にあるたくさんの分子を切断して、エネルギーを失うからです。人体の中では100分の4ミリしか進みません。それでも細胞の世界では大きな単位ですが、ともあれその間にある分子をことごとく切断し、そこでエネルギーを使い果たして止まってしまう。それだけ密集した被曝をもたらすのです。

それに対してγ線が体を通り抜けていくというのは、分子の中の原子核と電子の間をスカッと抜けていくからです。α線に比べると、電子にあたる確率が非常に小さい。そのため物質との相互作用が少ないので、エネルギーを使いきらず、人体を通り抜けてもまだ遠くまで飛んでいくのです。

そもそも分子の世界は私たちの日常感覚とはずいぶん違う世界です。原子核が米粒ぐらいだとすると、電子は学校の校庭の周りぐらいのところを回っています。内部はスカスカなのです。そしてそのスカスカなところを、γ線は通り抜けていきます。突き抜けるのではありません。γ線はα線と比べたら、物質とあたりにくい放射線なのです。

7,内部被曝の核心問題

そこから核心問題が導きだされます。外部被曝では当たるのはほとんどγ線に限られるということです。β線も1メートルぐらいは飛んできますが、そこにいるともうエネルギーを失うので体に入ってくることはありません。50センチではどうか。エネルギーが四分の一は残っていますから、体に入ってはきますが、数ミリで止まります。直近からなら1センチは入ってきますが、内臓レベルでみたらほとんど届くことはない。なので外部被曝はほぼγ線だけで起こると言ってよいのです。

対して内部被曝は、この3種類の放射線を出す物質を、吸い込んだり食べたり飲み込んだりして体内に取り込んでしまうことですから、すべての放射線に被曝します。しかもα線とβ線の被曝はγ線の被曝に比べて局所に密集して行われます。なので内部被曝は外部被曝とは比較できないほどに強烈なのです。これはなかなか数値化できないのですが、ヨーロッパ放射線リスク委員会の科学者たちは、あえて数値化するなら数百倍の危険と見積もるべきだと主張しています。バスビーさんは、平均すれば600倍ぐらいではないかと語っています。なので内部被曝の方が圧倒的に怖いのです。

ところが今の日本政府は、「この人は1ミリシーベルトの内部被曝をしました、1ミリの外部被曝もしました、したがって被曝は2ミリシーベルトです」・・・という言い方をしています。つまり外部被曝と内部被曝を同じに扱っている。すべて外部被曝に相当するものとして扱っているのです。内部被曝の特有性、圧倒的に密集して行われる被曝の恐ろしさが何ら考慮されていないのです。それで食料の許容値なども導き出しているのです。だからそのまま鵜呑みにして食べたら、大変深刻な内部被曝を被ってしまうことになります。

続く

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(541)内部被曝と被爆者差別(上)

2012年09月13日 22時30分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)

守田です。(20120913 22:30)

このところ、尾道、大阪、長野と連続する中で、僕なりに、内部被曝と食べ物の問題、差別の問題、戦争の問題をより深く掘り下げることができたように思います。それをそれぞれの現場の発言で表現しましたが、順次、その発言を起こしてここにも反映させていこうと思い立ちました。

今回は9月8日に日本カトリック差別人権委員会のお招きで、大阪梅田教会でのシンポジウムで発言した「内部被曝と被爆者差別」について取り上げます。僕に先立って、福島から京都に避難されてきている西山祐子さん(避難者と支援者を結ぶ京都ネットワークみんなの手)が、「いのちを守るために~福島から京都に自主避難して」というタイトルでお話くださり、それを前提に話すことができました。

そのことを紹介して、発言の前半部を掲載します。読みやすいように小見出しをつけます。


内部被曝と被爆者差別

みなさん。こんにちは。守田敏也です。今日はカトリック教会にお呼びいただきありがとうございます。

1,避難権利区域、強制避難区域に該当する福島や東北・関東の現実

僕は内部被曝の危険性についてあちこちでお話しているのですけれども、一定のまとまった時間を頂いてお話するときは、必ず前半で福島のこと、東北のことをお話するのですね。写真などもお見せして、実際の被爆状況の話をします。なぜかというと、その現実があるというところからこの問題は始めなければいけないと考えているからですが、今日はその点をすでに西山さんが話してくださったので、それを前提に話を進めたいと思います。

ただ一点だけ付け加えることがあるとすると、チェルノブイリでは今、避難のあり方はどうなっているのかというと、年間での線量が1ミリシーベルトを超えると、避難準備区域に該当することになります。この区域はその方が避難をしたいと言って手をあげたら、政府が全面的に責任をもって避難をさせなければいけないと決められている地域です。

さらに年間5ミリシーベルトを超えると強制避難区域になります。では西山さんのお家のあるところはどうなのでしょう。1時間あたり1マイクロシーベルトを超えているそうですから、年間では8から9ミリシーベルトになってしまうので、強制避難区域にあたります。その周りの多くの地域が避難権利区域になります。その強制避難区域に値する西山さんの地域が、「線量が低いから除染は待ってね」と言われているのです。そういう状況ですよ。

それでは除染活動自身はどうなのか。飯舘村でかなり大規模な除染が行われました。多くのところでほとんど線量が下がっていません。やっても無駄なところが多いのですね。無駄なお金を使って、それが全部、ゼネコンに入っているだけです。なおかつ、作業者がものすごく被曝してしまいます。本当に危ないのですよ。除染活動とは何かと言うと、放射能があるところに行って、除去する活動ですよね。そこにそれがあったら人が住めない状況のところで行うわけではないですか。だから本来これは、専門業者でしかできない仕事なのです。

ところがそんな専門業者はどこにいるのか。いないのです。こんな事故は起こったことがなかったのですね。そして実際の状況は、原発の中の危険な労働が、外に出てきているのと同じなのです。しかもそれを一般の方、何らまともな防護もしてない方が行ってしまっています。だから僕は、除染活動における被曝は大変なことになっていると思います。すでに除染活動中に、作業員の方が亡くなっています。だけれどもこれは、放射能の被害とはカウントされていません。どう亡くなったのかというと、作業中の休憩時に車の中で休んでいる時に、心不全で亡くなられました。

このように心臓の病で亡くなられている方が多いです。この点でも、放射線の被害は何かガンにしかならないようなことが言われてきたのですが、ベラルーシのゴメリ大学のバンダジェフスキーさんとお医者さんが、チェルノブイリ事故の犠牲者のたくさんの遺体解剖を行いました。そして驚いたことに、心臓にセシウムがたくさん入っていたのです。それが心筋に影響して、心筋梗塞や心不全を引き起こしていました。このためバンダジェフスキーさんは死亡要因はガンよりも心臓疾患の方が多いのではないかとおっしゃっています。遺体解剖を200例以上、なさっているので、かなり有力なデータだと思います。

実際にどうなのかというと、私が東北に行っても、心不全などによる突然死の話を非常によく耳にします。もちろんこれは有意なデータになっているのではありません。政府がデータにさせないようにもしていると思います。だからデータとしての科学的な裏付けがあるとは言えないのですけれども、話を聞いているときの「リアル感」というものがあるのです。

例えばこういうことがありました。岩手県でのことですが、あるお寺さんで私が話をさせていただくことになり、前日に和尚さんと打ち合わせも兼ねた話をしました。和尚さんが、「放射能の害でやはりガンなどになるのですか」とおっしゃるので、今、ここで行った話をしました。「心不全などによる突然死も多いのですよ」と語ったのですが、そうしたら和尚さんが、「なるほど、それでこの頃、突然死の葬式ばかりが出るのですね」とおっしゃいました。

その話を近くの仮設住宅に行って話したら、高齢のおばあさんが来てくださっていたのですけれども、この話をしたら、おばあさんが途中で手を挙げて、「うちのとうちゃんです。3ヶ月前に前日まで元気に仮設住宅の周りを歩いていたのに、朝、死んでいました。自分は放射能を疑っているのだけれども、お役人は全然そうは思ってくれません。それで今日は話を聴きに来ました」とおっしゃられました。

この一つ一つが実際にどうなのかは、わからないのですが、おそらく僕は、津波を受けたストレスや、避難のストレスなども、間違いなくあったのだと思います。その上に、放射能の被害が重なってきたのだと思います。人間が亡くなるとき、その要因は一つではありません。ガンにしても、それをもたらす要素はたくさんあります。放射線だけではなくて、化学物質や生活の不摂生、さまざまな精神的ストレスなど、それらが全部重なってなりますから、そのようにもともと身体が悪かったり、ダメージを受けているところに、放射線を浴びて、寿命が短くなってしまう事態が頻発しているのではないかと思えます。

本当に大変なことです。そういう事態の中にあるのは福島だけではありません。東北・関東のかなりのところが、さきほど言った避難権利区域に該当します。あるいは強制避難区域に該当するところもあります。そういうところの方々を助け出さないといけない。そうでないと、大変なことになります。というか、大変なことが進行中だと思います。


2,チェルノブイリ事故の死者数をめぐる「世紀の大嘘」

ここから放射線と人間の関係について、お話をしたいと思うのですが、その前にみなさん、ちょっと考えてみていただきたいと思います。チェルノブイリ原発事故で犠牲になられた方の数は何人だと思いますか。あるいは何人と聞いたことがありますか?これが実は、数が、まったく違って語られているのです。どういうことなのかというと、2005年にIAEA(国際原子力機関)という組織が、それまでに研究してきた成果として、2004年までに亡くなったのが約60人、今後、亡くなるのが3940人、従って最終的な死者は4000人という数を出しました。

これに対してすぐに共同研究者だったベラルーシ共和国政府が即刻、抗議の脱退を行いました。「そんなはずはない。そんなに少ないはずがない。ふざけている」と。それに対して、IAEAと非常に親しい組織にWHO(世界保健機構)があります。ここがいわば仲裁に乗り出してきて、訂正を行いました。そこでは今後亡くなる数は9000人とされたのですね。ところがこれでいよいよおかしいという批判が高まりました。半年前に4000人と言われたものが、なんですぐに9000人になるのか。

こうした批判の高まりの中で、科学者50人ぐらいを集めて、並行的に調査を進めてきたグリーンピースが2006年に出した数は、ロシア以外の国々も含めて14万人でした。14万人がチェルノブイリ原発事故の死者数だというのです。

ところがこれをも覆すものが出てきました。2009年に、アメリカのニューヨーク科学アカデミーという、アメリカの中でも科学的な権威の高いところからでた論文なのですが、誰が書いたのかというと、もともと旧ソ連邦時代に、ゴルバチョフ大統領やエリツェン氏などのもとで調査をされた方たちで、ソ連邦が亡くなったあと、アメリカにわたって研究を継続されて出されたものでした。そこで出された数は、今後の推計ではなくて、2004年までに亡くなった数で98万5千人です。

なぜグリーンピースが打ち出した数とこれほどの違いが出たのか。僕はグリーンピースに集った科学者たちは、信頼のおける方たちだと思うのですが、一番の違いは、読んだ文献の言語の違いです。つまりこの旧ソ連の研究者たちが読んだのは、ロシア語の他、ウクライナ語、ベラルーシ語の文献でした。この言葉を話す方たちが一番被害者になったし、あるいはその被害者をそばで診たお医者さんや看護師さん、あるいは家族など、そういう方の証言が西側の方たちはあまり読めなかったのですね。西側の言語圏の文献しか集められなかった。

だからグリーンピースの方たちは、少し遠いところから被害の実態を探って、14万人まで突き止めたと言えると思うのですけれども、それに対して、アメリカから出た文献での犠牲者は98万5千人でした。2004年なので、現在は2012年ですから100万人は軽く突破していると思われます。現在までに亡くなった犠牲者の数です。

ところがですね。これが日本の首相官邸のホームページにはなんて書かれているのか。HPの中に「チェルノブイリ事故と福島との比較」という文書が出てきます。ここに書いてある死者数は約60人です。アメリカで出ている文献では98万5千人ですよ。この60人という数はなんなのかというと、IAEAが最初に出した数です。だから60人という言い方をするのも騙しなのです。IAEAが言ったのは、今、死んでいるのは60人だけれども、あと3940人死ぬということでした。それに対して轟轟の避難が起こって、訂正が行われていったわけですが、日本政府は、この3940人を言わずに60人だけを出しているのです。

これが未だに首相官邸のホームページに載っています。世界の中でも突出した大嘘ですね。本当に。アメリカのカール・グロスマンという方が、IAEAが4000人と言ったことを、「世紀の大嘘の一つ」と言いました。日本政府はこの世紀の大嘘の上を行っているのですね。そんなことを日本政府が行っているのだということを、ぜひみなさん、しっかりとおさえて、とにかくこの政府に騙されないようにしましょう。まずはそのことを訴えたいと思います。

続く

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(540)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(下)

2012年09月09日 08時30分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)
守田です。(20120909 08:30)

9月7日尾道、9月8日大阪市カトリック教会と、素晴らしい時間を過ごしてき
ました。そこでお話したこと、感じたことなど、ぜひ紹介したいのですが、
いかんせん能力が追いつきません。もうしわけなく思いますが、またおいおい
報告させていただきます。尾道のみなさん、カトリック教会のみなさん、どう
もありがとうございました。

さて今日はこれから長野県高遠町の千代田湖キャンプ場に向かいますが、その
前に、(538)でお伝えした、チェルノブイリ事故による死者数についての続
編を書いておこうと思います。今日は、「チェルノブイリ100万人の犠牲者」
と題された、重要なビデオを紹介します。

これは、前回ご紹介した、アメリカ・ニューヨーク科学アカデミーから出され
た著書「チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響」の寄稿者
である、ジャネット・シェルマン博士に対して、カール・グロスマンという
キャスターがインタビューしたものです。本書のエッセンスがコンパクトに紹
介されているので、ぜひ、ご覧になってください。映像をみる時間のない方の
ために、書き起こしも行いました。なお収録は2011年3月5日!なんと、福島原
発事故の直前でした。このことにもご注意ください。

ただしその前に、僕の前回の記事に関する重大な訂正があります!!というの
は、前回の記事の中で僕はの内容について次のようにコメントしました。
「この中でチェルノブイリの犠牲者(1986年から2004年の推計で今後亡くなり
うる数も含めたもの)が98万5千人になることが明らかにされているからです。
衝撃的な数字です。」

ところが、このビデオ番組の中で2人は、98万5千人という数は、2004年までに
すでに亡くなった方の数だと語っています。僕はIAEAや、WHOの報告と同じよう
に、今後、亡くなる人も含めた推計だと理解していたので、翻訳チームの方に
確認をしたのですが、やはりそうではなく、すでに亡くなった方の数だという
ことがわかりました。僕の勘違いでした。申し訳ありません。

この違いはとてつもなく大きいです。IAEAの発表の4000人はすでに亡くなる人
の方が圧倒的に多い数になっています。ところがこの書の発表は、すでに亡く
なった方であり、ということはさらに長く時間が経てば、死者数はもっと増え
ることになるからです。

このように膨大な死者を出したのがチェルノブイリ事故だったのにもかかわら
ず日本政府は首相官邸ホームページに、死者数を62人と掲載し続けています。
カール・グロスマンはインタビューの中で、「チェルノブイリ事故による犠牲
者はわずか数千人とよく引用されて聞きますが、これは史上最大の嘘の一つ
ですよね」とジャネット・シェルマン博士に問いかけているのですが、日本政
府は、その「史上最大の嘘の一つ」のさらに上をいっているのです。

記事内容のあやまりへの訂正とお詫びとともに、この日本政府の大嘘つきをた
だし、罰を与えるために、ともに努力を傾けることを訴えたいと思います。

以上のことを踏まえて、「チェルノブイリ100万人の犠牲者」をご覧ください。

********

チェルノブイリ100万人の犠牲者
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/info/chernobyl-a-million-casualties/

ようこそ。司会のカール・グロスマンです。
2011年4月26日はチェルノブイリ事故よりまる25年になります。
その一歩世界中の原子力産業は再興を図っています。
この重要な本が出版されました。
「チェルノブイリ~大惨事の環境と人々へのその後の影響」について取り
上げていきます。

この本は公開された医学的データに基づき、事件のおきた1986年から2004
年までに98万5千人が亡くなったとしています。そしてその死者数はさら
に増え続けています。

スタジオにはジャネット・シェルマン博士をお迎えしています。ジャネッ
ト博士はこの本の寄稿者です。
共著はベラルーシのアレクシー・ヤブロコフ博士、バシリー・ネステレン
コ博士、そしてアレクシー・ネステレンコ博士です。

G ようこそジャネットさん。チェルノブイリ原発事故の死者は100万人とい
うことですが、死因は何でしょう?

S がん・心臓病・脳障害や甲状腺がんなど、死因はさまざまでした。何より
多くの子どもたちが死にました。胎内死亡、又は生後の先天性傷害です。

G 科学者たちが98万5千という死者数を特定した方法は?

S これは公開された医学データを基にしています。

G 原子力を規制・奨励する国際機関である国際原子力機関(IAEA)はチェル
ノブイリの死者数を約4千人とホームページで発表しています。これは本に
発表されている98万5千人と大きく異なるのはなぜでしょう?

S IAEAが発表したチェルノブイリフォーラムという調査書は350の論文に
基づき英文で公開されている資料でしたが、ヤブロコフ博士とネステレンコ
博士たちは5千以上の論文を基にしています。それは英文の論文に限りません。
また実際に現場にいた人たちの声を基にしています。現場にいたのは医師、
科学者、獣医、保健師など、地域の人々の病状を見ていた人たちです。

G この本によりますと、世界保健機構(WHO)さへ、チェルノブイリの真実
を語っていないと批判していますね。WHOとIAEAは協定を結んでおり、発表
することができないとのことですが、それについて説明していただけますか?

S 1959年に結ばれた協定は、それ以来、変わっていません。一方がもう一
方の承諾を得ることなしに、調査書を発表することを禁じています。WHOは
IAEAの許可なしに調査書を発表できないのです。

G IAEAは世界中の原子力の規制だけではなく、原子力の促進をになう機関
でもありますからね。当然、WHOに「原子力は健康に有害だ」と言われては
困るわけです。

S そのとおりです。こうした協定は終結すべきです。協定は破棄されるべ
きです。

G さて毒物学者として、研究に生涯を捧げておいでのあなたが、今、この
本を編集されている中、あらゆる科学的なデータをみた上で、チェルノブイ
リの犠牲者数は100万人とおっしゃる。これは科学技術による史上最悪の事
故ということですね。

S そのとおりです。

G データを読み取り、本を編纂された時の感想は?

S 事態は私が思っていた以上に深刻でした。人々ががんや心臓病で命を
落とすだけでなく、体中のすべての臓器が害されて、免疫機能、肺、眼内
レンズや皮膚など、すべての器官が放射能の悪影響を受けたのです。しか
も人間だけではありません。調査した全ての生き物、人、魚、木々、鳥、
バクテリア、ウイルス、狼や牛など、生態系のすべてが、例外なく変わっ
てしまいました。

G そのことが本に書かれてあるのですね。

S 人間への影響にとどまらず、鳥や動物にも人間と同様の悪影響がありま
した。

G 今となってはがんと放射能の関係はわかりますが、心臓病はどうし
て起こるのでしょう?

S 私がこの本を編集するときに気づいた重大なことの一つですが、バンダ
ジェフスキーという科学者は研究で、子どもたちの体内に蓄積されたセシ
ウム137の量が、実験動物と同じ値になっていることを発見し、それが
心臓にダメージを与えていることに気づきました。この研究結果を発表し
たことで、彼は刑務所に収監されてしまいました。

G 刑務所に収監されたのですか?

S そうです。

G 彼は動物実験をしたのですか?

S 病理学者だった彼は、まず動物実験を行ってから、子どもへの影響を
調べようとしました。その結果、亡くなった子どもたちの心臓に蓄積され
たセシウムの量は動物の場合と同じでした。これを発表したために逮捕さ
れ刑務所に収監されました。

G チェルノブイリからの放射能によって、ロシア、ベラルーシ、ウクラ
イナは高濃度で汚染されましたが、この本によればそれどころか世界中
に拡散したと書かれていますね。

S そのとおりです。放射能がもっとも集中したのは前述の三国ですが、
最大量の50%以上は北半球全体に行き渡ったのです。特に北はスカンジ
ナビア、東やアジア圏へと。

G 中国までもですね。

S そうです。

G チェルノブイリによる死者は近隣国だけでなく、もっと広いエリア
で見られたということですか。

S もちろんそうです。世界中です。

G この悲劇はいつまで続くのでしょうか?放射性物質が浄化されるには
千年はかかるのでしょう?

S もちろん。セシウム137およびストロンチウム90だけでも半減期は30
年。少なくとも3世紀は残ります。多くの同位体が千年残るはずですので
おっしゃる通りです。

G この本には最大の被害が起きたのは最初の数ヶ月、もしくは数週間と
強調していますが、とてつもない大火事が起きていた時のことですね?

S はい。今でも原子炉から水道へタダ漏れてしています。今も原子炉の
周りの構造も安全ではありません。もし小地震でもあれば建物が崩壊す
る可能性もあります。原子炉は安全に覆われ、漏れていないとは言えま
せん。

G チェルノブイリの真実を語るこの本は、権威あるニューヨーク科学
学会によって発行されましたね。科学の専門機関はこれ以外にもあるわ
けでしょうが、チェルノブイリの情報を外に出すことについて、彼らの
立場はどうなっているのでしょうか?

S 情報を外に出すことに好意的なグループもあり、原子力御用学者と
組み合い、どの様な内容が書かれていたのかは明らかではなかったよう
です。

G 著者のヤブロコフ博士とネストレンコ博士たちは、チェルノブイリ
の影響を調べる為に、あなたとどのように取り組んだのですか?

S 彼らはWHOとIAEAの協定の事を前から知っていました。実はジュネー
ブのWHO本部の前で一日中、協定を抗議するデモを行なっている人々が
います。

G この方たちがデモを行なっている人々ですか?

S そうです。

G この本にはIAEAとWHOの「談合の協定」と呼んでいますね。

S そうです。チェルノブイリの件で、ヤブロコフ博士は、ゴルバチョフ
とエリツィンの補佐を務めていました。事故直後の3年間、ソ連政府は
情報の隠蔽を続けていましたし、一般に真実を知らせまいとデータ収集
もしませんでした。ヤブロコフ博士はそれを知り、情報収集を始めまし
た。出版された論文の数は15万以上でしたが、この本の執筆には5千点
以上が使われました。これらの資料は英語に訳されたことが無く、ほと
んどがウクライナ語、ロシア語、ベラルーシ語の論文でした。こうした
情報が西側世界の眼に触れるのは初めてです。

G 人、動物、植物への影響について、違いはなんでしょうか?

S メカニズムは同じです。放射性同位体に汚染されると、人や鳥や動植
物が受ける影響は、細胞が破壊されダメージを受けるということです。
DNAの損傷がもたらされ、遺伝メカニズムがダメージを受けるという点で
同じです。細胞を破壊するのであればガンにはなりませんが、細胞にダ
メージが与えられるとがんになります。もしくは先天性障害の原因とな
ります。人や鳥だけでなく植物にさえ先天性障害が出ます。チェルノブ
イリのせいで植物にも変異が起こりました。

G 風の影響で北西が被害を受けたとのことですが、チェルノブイリや原
子力とはまったく無縁だったスカンジナビアのラップランドの人々でさえ
も、雨などによる放射性物質拡散で余波を受けました。こうした事後的
影響については?

S 最近の研究によると、チェルノブイリの事故当時に生まれたスカンジ
ナビアの子どもは、高校を卒業する割合が低いようです。知的能力に影響
が出たのではないかと思います。私が知る限りのチェルノブイリの最悪な
影響は健康と言えるベラルーシの子どもは、わずか2割だということです。
つまり8割のベラルーシの子どもたちは、チェルノブイリの事故以前のデ
ータと比べると、健康でない状態だということです。医学的に健康でない
だけでなく、知的にも標準以下となってしまっているのです。

G 知的能力の低下と放射能の関係について教えてください。

S 妊婦たちが食べる物の汚染については、きちんと知らされていない場
合が多かったようです。または汚染されていない食べ物が手に入らなかっ
たのです。妊娠中に放射性同位体が体内に入ると、母体を通じて胎児に届
き、心臓、肺、甲状腺、脳と、すべての細胞、免疫系統にもダメージを与
えたのです。こぷした子どもたちは未熟児で、生まれつき健康状態が悪く、
死産の率も非常に高く、これは被曝がもたらした結果です。人間の文化に
起こりうる最悪の悲劇です。

G チェルノブイリの原発事故があったウクライナは、旧ソ連の一大穀倉
地帯でした。チェルノブイリ原発の3基の原子炉は今でも運転中です。
そこでとれた食べ物はあちらこちらへと出荷されました。

S はい。これは、きわめて深刻な問題です。数百年間も土壌汚染が続く
中、どの様にして人々に食料をまかなっていけばよいのでしょうか?
しかも小麦やライ麦などの穀物だけでなく、マッシュルームも汚染され
ています。重要な食料と思えないかもしれませんが、この地域では広く
流通している食べ物で、非常に高濃度で汚染されています。

G 本は医学的データに基づき、死者数は98万5千人と結論づけました。
けれどもこのデータは1986年から2004年までのもので、番組のはじめに
「100万人の犠牲者」という言葉を使いましたが、やはりチェルノブイリ
の犠牲者の数はその位になりますでしょうか?

S そう思います。やがてその莫大な規模が知られることでしょう。例え
ば「清算人(リクビダートル)」と呼ばれた人たちがいました。近隣諸
国から主に軍より召集された若き男女でした。火災を消化し、問題の原
子炉を封印する仕事をさせられました。その15%が死亡しています。こ
の人たちは18~30歳くらいの若い男女だったのです。

G 原子炉から放出された放射性物質の数量ですが、これにつきましても
本が記す数値と公式に発表された数値に大幅な違いがありますね?

S まったくです。もし放出されたのが少量だったならば、低レベルの
放射性物質は極めて危険だということですし、もしそれが大量に放出さ
れたのだったら、その甚大な被害の規模をみなければなりません。しかし
私たちはいまだに真相を知らないのです。なぜなら原子炉に残されている
ものは何か、地下水に漏れ出しているものは何かを、実際に現場に行って
確かめることができないからです。

G 原子力の安全性はどういうことになりますか?原子力産業、原子力
関係の組織は大抵、政府系の機関だったりするもので、原子力「ルネサン
ス」の再興を押しまくり、原発をもっと建設しようとしていますね。
チェルノブイリ原発事故の教訓は?

S 私が思う教訓とは、技術を促進する前に慎重に考えることだと思いま
す。例えばBP社によるメキシコ湾の石油採掘については、何の問題もない
と私たちは聞かされていました。一つの問題として、技術者たちは技術に
関する事については分かりますが、彼らは生物学をよく理解していません。
彼らは設備周辺にある生物生命に与える影響を理解していません。チェル
ノブイリ事故の最大の教訓は、汚染されたすべての生物に影響を与えた
ことです。例外はないのです。

G 本にはフクロウのことも書かれていましたね。動物への影響について
も少し詳しくお願いします。

S 本のカバーの写真を撮った南カロライナ大学のティム・ウーソールさ
んは、25人以上の科学者をチェルノブイリ現地に連れて行き、昆虫、鳥、
ふくろうとあらゆる動物を調査しました。現地調査をしている時、突然、
ミツバチがいなことに気づき、木の実が落ちていないことにも気づいた
と言っていました。実がないのは花粉を運ぶミツバチがいないからです。
現実になっているかもしれない彼の予想ですが、未だに崩壊し続けてい
る放射性同位体によって、チェルノブイリ周辺の生命体が、すべて失われ
た可能性もあるということです。すべての種を絶滅させるかもしれない
のです。そこは渡り鳥の主な飛行ルートです。渡り鳥が来たあと、どう
なっているかわかりませんから、土壌にある物を何でも食べて、チェルノ
ブイリを飛び立って行きます。食べた小果実が糞となりチェルノブイリ
以外の場所で排便されているはずです。

G 放射能は遺伝子に甚大な影響を与えるのですよね?それについてはど
うお考えですか?

S これは改善する見込みのない話です。一度遺伝子が損傷を受けると、
何世代にも引き継がれます。ですから、こういった損傷が、人、鳥や植
物の遺伝子に起きていて、それぞれの種が増進することは無いでしょう。

G 具体的にどのような遺伝子損傷のことですか?

S 脳や心臓、肺への影響、腕のない子ども、水頭症の赤ちゃんです。
鳥の場合は、羽毛とくちばしの変化、脳の大きさなどがあります。これら
の鳥はあまり利口ではなく、汚染されていない鳥に比べたらそれほどよく
生きていません。植物も永久的に変わったのも分かっています。難しいこ
とではないのです。放射性同位体の行き先は明らかです。ヨウ素は甲状腺
に、ストロンチウムは骨や歯に蓄積します。特に胎児に影響が及びます。
セシウム137は心臓と筋肉に蓄積されます。これは謎などではありません。
これを知っている為、どんな悪影響がでるのかを予測できます。そして
結果はまさに予測通りであり、それを本で証明しました。

G 「チェルノブイリ事故による犠牲者はわずか数千人」とよく引用され
て聞きますが、これは史上最大の嘘の一つですよね。

S はい。追求もされずに逃れています。私たちはWHOと国連に圧力をか
けねばなりません。WHOとIAEAを分離させることです。

G WHOとIAEAのみならず、ここ米国の原子力規制委員会もまた、放射性物
質の影響を過小評価しようとしていますね。

S 全くその通りです。私は原子力規制委員会の前身であった原子力委員会
(AEC)で働いていました。それはカリフォルニア大学内で、1952年のこと
でした。新卒で働いていました。当時の私の限られた教育と経験でも、他
の人が思っているより、放射能は危険だと分かっていました。放射能のも
たらす害については米国民に対しても何十年にもわたり、秘密と嘘で騙さ
れていました。隠蔽及びデータの書き換えが行われ、多少の放射能なんか
大丈夫だと吹聴されました。しかしデービスベッセ原発所ではメンテナン
ス不足の為、炉心が格納容器の中で溶け出すところだったことがわかって
います。米国でなくとも世界のどこかで再び、原発事故が起こるのは時間
の問題だと信じています。

G 50年以上も原子力産業に携わってきたあなたがなぜその様な事を言う
のですか?

S はい

G それはお金のためですか?それとも技術を推進するためですか?
原子力産業の関係者はなぜ嘘やごまかしをするのでしょうか?

S 複合的な要因があるでしょう。金や原子力を促進する企業による支配
ですが、米国の人々はあまりに原子力について無知です。生物学を全く
理解していない学者がいます。町で20人の人を集めて「肝臓に手を当て
て!」と言っても、できる人は半分のいないと私は賭けますよ。放射能の
害についての教育を考えると、現在の米国はあまりにお粗末で、子どもた
ちは生物・物理・化学を学んでいない。原子力が米国の文化、経済に占め
る位置は大きいのに。

G チェルノブイリの影響を表すデータを見る上で、数十年前のご経験は
役に立ちましたか?

S もちろんです。放射能が与える悪影響につきましては、もう何十年に
も渡り広く知られています。ここ数年間で突然明らかになったことではあ
りません。物理を少しでも知っている科学者なら誰でも、放射性同位体が
人体、植物又は鳥のどこに入っていくか位はわかるはずです。謎の科学で
はありません。

G チェルノブイリの犠牲者が100万人というとき、テクノロジーの歴史や、
その現場にとって何を意味しますか?

S 技術だけに頼るのは間違いだということです。それを設計・操作する
人間にも頼るべきでもない。なぜなら、最終的にチェルノブイリ事故の
様なミスを起こすのは人間だからです。健康への影響は大規模ですね。
そのとおりです。北半球全域にわたります。放射性物質の降下地点で人々
は死んでいきます。死ななければ、子どもたちは知的・医学的傷がいを
もって生まれてきています。これがいまだに続いており、まだ終わりでは
ないのです。

G この本はどこで手に入れることができますか?

S 私にメールをください。toxdoc.js@verizon.netです。

G チェルノブイリ事故で何が起きたのか。人々が真実を知ることがとて
も重要だと思います。貴重なお仕事に感謝します。

私、カール・グロスマンがお送りしました。ごらんいただきありがとう
ございました。
www.envirovideo.comにどうぞお越しください。

インタビュー番組終わり


G 収録を行なったのは2011年3月5日でした。日本の福島原発大惨事がは
じまる6日前です。チェルノブイリそしてこの日本の悲劇の教訓は、すべ
ての原発を停止するべきだということです。原発は明らかに地球上の生
命に危険をもたらしています。二度と新たな原発の建設をすべきではあり
ません。原子力への税金を使った補助金をやめにすべきです。効率のよい
エネルギー政策にただちに転換し、すでにある風力・地熱・太陽光など
安全でクリーンな技術を、フルに回転させるべきでしょう。死を招く原子
力は完全に不必要なものです。

以上



























コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(539)尾道市・大阪市・長野県高遠町でお話します。(9月7,8,9日)

2012年09月05日 23時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)
守田です。(20120905 23:00)

今週末の講演の予定をお知らせします。

9月7日尾道市

9月7日に再び尾道市にうかがい、「食・給食の安全と放射能測定」のタイトル
でお話します。午後6時30分から午後8時45分まで。今回は僕が30分ぐらい発話
し、その後はできるだけ質疑応答に答える形をとります。これに向けて、食料
品測定のデータの収集分析をあらためて行なっています。できるだけ最新の
情報をお話したいと思います。

また栄養学についてのお話も準備しておきます。というのは放射能を避けると
いうだけでは「食・給食の安全」ということを十分にみたせないと思うからで
す。そこで僕が紹介したいのは、栄養学の新しい知見を切り開いた故丸元淑生
さんの論考です。少し古い本になりますが、『何を食べるべきか 栄養学は
警告する』などはぜひ読んで欲しい本です。例えば給食に関して、アメリカで
行われた注目すべき実験が次のように紹介されています。

「ニューヨーク市学区が給食用に購入する食品は、米国のなかでは陸軍に次ぐ
膨大な量である。年間1億ドルにも達するのだが、その内容を一挙に変えてし
まうという決然たるもので、栄養学の歴史にエポックを画した研究である。

1年目の1979年には飽和脂肪と砂糖がカットされた。ハンバーガーに使う肉か
らは脂肪の部分がとり除かれ、パンは食物繊維が豊富な無精製の小麦全粒粉で
つくり、食品にふくまれる砂糖の割合は11%を限度とした。それまで、ケチャ
ップには29%、アイスクリームには20%、コーン・フレークなどにシリアル類
には50%も砂糖をふくんだものがあったのだ。

この実験をはじめる前のニューヨーク市学区の標準学力テストの平均点は39点
で、全国平均を11点も下回っていた。食事の内容が脳に影響を与え、行動や学
習能力をも左右すると栄養学者たちは主張していたが、この年の学力テストの
平均点は、いきなり8点もあがって47点になった。

こうした学力テストの学区平均というのは急には上がり下がりしないもので、
何年かして2、3点上がれば上出来と関係者は思っていたから、その結果に
びっくりした。

2年目の1980年には、着色料は合成甘味料の添加してある食品もシャットアウ
トされた。すると成績はさらに上がり51点になった。

3年目の1981年は1980年と同じ食事にしたので学力テストの平均は横ばいのま
まだった。

4年目の1982年には、BHAやBHTなどの保存料の入っている食品が除かれた。す
ると成績は一段と上がって55点になった。食事を変える前と比べて16点も上
がったのだ。実に41%もの上昇である」(講談社+α文庫p37~39)

ここからつかんでいただきたいのは、食べるものが私たちにいかに強い影響
を与えるかです。そのため身体に悪いものを除去し、いいものを取り入れて
いくだけで私たちのパフォーマンスは上がります。もちろんそれは免疫力の
アップに確実に連動していきます。

その点で、放射能を避けるだけでなく、化学物質や、精製されて、ミネラルを
はぎとってしまった糖分、でんぷん質などの大量摂取を避け、反対に身体に
いいものを積極的に取り入れるようにすることで、私たちは総体として汚染と
立ち向かうことができます。栄養学を知ると、できることは無数にあることが
見えてきます。そうした点についてもみなさんと話し合いたいと思います。

以上の観点を踏まえて7日尾道の学習会にのぞみたいです。



9月8日大阪市

9月8日は日本カトリック差別人権委員会のお招きで、大阪梅田教会での
シンポジウムに参加します。シンポジストと演題はいかに紹介されています。

◎西山 祐子(避難者と支援者を結ぶ京都ネットワークみんなの手)
「いのちを守るために~福島から京都に自主避難して」
◎守田敏也(フリーライター)
「内部被曝と被爆者差別」
◎幸田和生(カトリック東京教区補佐司教)
「福島の思いに寄り添う」

それぞれがまず30分お話してから対話となりますが、僕はここで差別の問題と
いかに向かい合うのかについて発話したいと思っています。
というのは僕は内部被曝の恐ろしさをあちこちでお話しています。放射線は
DNAを損傷させますが、α線やβ線が主体となる内部被曝の場合、外部被曝よ
りも密集した被曝がおこるため、危険性が圧倒的に高くなる。そしてそのこと
は細胞分裂が活発な人にほど強く作用するので、子どもの方が危険であること
がわかります。

さらにお腹の中の赤ちゃんの場合、細胞分裂とともに細胞分化が激しく起こっ
ています。ある細胞が機能を別にする細胞に分かれていくことで、分かれる前
の細胞を幹細胞(かんさいぼう)と言いますが、この幹細胞が放射線でダメー
ジを受け、誤った修復が行われると、分化に支障をきたし、先天的な障がいの
発生へとつながることがあります。

だから放射線を避けるべきことを訴えているわけですが、しかしこのことから
放射線被曝を受けた人々を差別し、結婚を避けるなどの人間としての誤った
対応がでてきうるし、現に広島・長崎の被爆者は差別によっても本当に苦しめ
られてきました。このこと正面から向き合う必要があると僕は強く思います。

被曝は日本中に広がっています。したがって放射線によって障がいを持って生
まれてくる人々が増えるのも確実なことであり、そうであるならば、障がいを
持った人々が、よりよく生きれる社会、障がい者の尊厳が強く守られる社会を
作り出すムーブメントをより強めることを、私たちは今、みんなで強く腹に命
じるべきなのです。このことから目を背けたまま、放射線の害と真の意味で社
会的に立ち向かうことはできないのではとも思っています。

実はこうした点について、先日の山水人での中嶌哲演さんとの対談のときに
も話題にあげたのですが、今回はこのテーマを主題としてお話したいと思いま
す。僕なりに腹をくくって、このことに挑戦していこうと思います。


9月9日長野県高遠町

長野県高遠町の千代田湖キャンプ場で行われる「ちいさないのちの祭り」に
参加してお話します。タイトルは「東日本大震災以降の日本で生きるには」
ですが、放射線被曝と戦争の関連、関係についても話をして欲しいとのこと
なので、国家による加害と、国民・住民・市民の被害ということを念頭に
おきながら、福島原発事故と戦争とのつながり、そこで私たち市民に問われ
ることについてお話したいと思います。

私たちは今、大変な被曝状態の中にあって生きることを余儀なくされています。
日本の国土の大きな部分が被曝しており、そこにものすごい数の人々が大嘘の
もとでの安全宣言のもとに住まわされている現状の中にあっては、私たちの
多くが完全な意味での被爆ゼロの生活を行うことができない状態に陥ってい
ます。そのため今後、私たちをさまざまな健康被害が、またそれに起因する社
会問題が襲う可能性が強くあります。

重要なのはそのとき私たちはその被害をどれだけ国家のものと断定し、国家、
ないし責任企業に補償させることができるかですが、これまでの日本のあり方
野放しにしていたらその多くが泣き寝入りを強いられることになるのは確実で
す。被害の多くが、放射線起因とはみなされず、被害者は何の手当も受けられ
ず、むしろ社会的差別を被るだけという最悪の構図が私たちの国を襲う可能性
もあります。

そうならないためにはどうするのか。歴史を見直すこと。とくに第二次世界
大戦のときより未解決のままにきた多くの問題、とくに日本国家の指導者た
ちの戦争責任を問い、ほかならぬ私たち日本国民・住民の踏みにじられた
尊厳を回復していく必要があります。

戦争責任を問うとは、アジア侵略の責任を問うとともに、無謀な戦争に、国
民・住民を動員したことの責任を問うことです。この際、両者ともに、戦争に
動員された国民・住民自身が自己を問うモメントも必要です。しかし戦後の日
本社会はこのモメントが弱かった。そしてそのために、戦争犯罪人たちが生き
伸びてしまい、アジアの人々に対しても、日本の国民・住民に対しても、責任
をあいまいにしたまま逃れさせてきてしまったのです。そうしたことのつけが
今、私たちにのしかかってきているのでもあります。

その際、ぜひ多くのみなさんに気づいて欲しいのは、私たち日本の国民・住民
にとって一番の味方がアジアの被害者たちだということです。なぜか。この被
害者たちこそが日本の戦争責任者の犯罪を一番鋭く、訴えてきてくれたから
です。その被害者たちの声の中には、日本の国民・住民に対する、犯した罪の
告発も入っており、私たちはそれを真剣に受け止める必要があります。しかし
その先にあるのは、日本の民衆をも悲惨な戦争に狩りたてた戦争犯罪人たちを
告発し、裁くことなのです。それをアジアの被害者とともにできたとき、はじ
めて私たち日本の民衆もまた、虐げられた尊厳を回復させることができます。

僕の父は、戦争末期に、陸軍の船舶隊として四国の善通寺で訓練に明け暮れて
いました。広島に原爆が投下されたとき、父の部隊は救援のために呉軍港まで
進軍しました。そこから偵察隊を市内に出しましたが、「何もすることがない」
という報告があって、部隊はそれ以上、進まなかったそうです。その後、偵察
隊に入った方は二次被曝で亡くなりました。

父は呉にとどまったので、被曝はなかったと思っていたのですが、最近になっ
て内部被曝問題研の沢田昭二さんが、呉にもまた放射能が降下していた事実
を教えてくださいました。またその後に、より詳しい話を父より聴いていた兄
より、呉に残存していた部隊の隊員も次々倒れたことを聞かされました。父は
かなり用心していたようで、「被曝はしてないと思うが」と語っていたそうで
すが、その父は59歳の若さで、脳溢血に倒れました。戦後35年目でした。

一方、母は東京大空襲の爆心地にいました。東京深川の材木問屋の娘だった
母は、あの310大空襲の下を、本当に奇跡的に生き延びました。「火のたま
が機関車のように転がっていった」ことを目の当たりにした母が生き残ったの
は本当に偶然の賜物にほかなりません。そんな母は、「玉音放送」を、「ああ、
これで空襲が終わる。嬉しい」と聞いたそうです。

そんな父にも、母にも、国は何の補償もしていません。「国民すべてが苦しん
だのだから」という受忍論が強制されたのですが、残念なことに、長い間、
こうした国家の仕打ちに対する民衆からの追訴の声はおきませんでした。その
後、空襲に国民・住民をさらした政府の罪を問う運動が行われていますが、
僕はこうした日本民衆の尊厳が虐げられてきたことと、アジアへの侵略責任が
十分に明らかにされず、戦争犯罪人の処罰が不徹底に終わったことはセットに
なった問題だと思います。

人の足をふんづけてあまやることのできない人間は、自分の足を踏まれても、
怒りの声すらあげられないのです。

その意味で、この福島の事故に対する政府と東電の責任にどう向かい合うのか
ということは私たちの未来を占うとても大事な問題です。同時にこの問題は
放射線被曝の歴史の全てを明らかにしつつある問題であり、私たちは原爆投下
にさかのぼって、政府とアメリカによる被曝の強制の歴史を今こそ正す必要が
あります。そしてそのとき、侵略を告発するアジアの声は、私たちの味方なの
です。その意味でまさに福島は、広島、長崎と、さらにはアジアと大きくつな
がっています。そうしたことを僕は9日にお話したいと思います。

その意味でこの3回のお話は僕にとって、ずっと考えてきたものではあるけれ
ども、まだそれほどまとまって話してきていない内容であり、チャレンジング
なものになります。いずれもできるだけ事後にきちんとご報告をしたいと
思いますが、お近くの方はどうかお越しくださり、ご意見をお聞かせください。
みんなで一緒に考え、前に進んでいきたいと思います。


***

9月7日 

広島県尾道市にて学習会を主催

「食・給食の安全と放射能測定」
午後6時30分より、尾道市人権文化センター・1階和室にて
参加費無料

主催は「フクシマから考える一歩の会」
お問い合わせ: 090-2002-8667(小林)

***

9月8日

大阪市にてシンポジウム参加

●シンポジウム「福音と差別」
テーマ いのち・原発・差別
日時 2012年9月8日(土)14:00~17:00
会場 サクラファミリア(大阪教区・大阪梅田教会)電話 06-6225-8872
シンポジスト 
◎西山 祐子(避難者と支援者を結ぶ京都ネットワークみんなの手)
「いのちを守るために~福島から京都に自主避難して」
◎守田敏也(フリーライター)
「内部被曝と被爆者差別」
◎幸田和生(カトリック東京教区補佐司教)
「福島の思いに寄り添う」
 主 催 日本カトリック差別人権委員会
http://www5b.biglobe.ne.jp/~catburak/news.html

***

9月9日

長野県高遠町の「小さな命の祭り」で講演
「東日本大震災以降の日本で生きるには」

小さな命の祭り

2012年9月8、9、10、11(土日月火)
入場料 1日500円(20歳以上)
千代田湖キャンプ場
長野県下伊那郡高遠町藤澤

問い合わせ:
0265-39-2350 田村須満子
0265-94-1132盛(もり)
http://lovely-m.jugem.jp/?eid=149
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(538)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(上)

2012年09月03日 17時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)
守田です。(20120903 17:00)

1日に山水人に参加し、小浜の明通寺住職中嶌哲演さんと対談させていただ
きました。中嶌さんの若狭原発今昔物語に聞き惚れてしまいました。このこ
とはまた報告を書きたいです。またそのあと幾つかのライブも聴いてきまし
た。素晴らしいパフォーマンスが多かったですが、とくに夜になって行われ
た、さこよさんのライブがすごかった。講演させていただいて、ライブもき
けてしまって、山水人への参加はいつもとてもお得です。

アーティストのPIKAさん、マーリンさんともお会いして色々とお話ができま
した。非常に意義深い時間を過ごせました。みなさん、山水人にはいろいろ
な出会いがあります。まだまだ宴は続くのでどうぞお越しください。なお
本日9月3日の夕方からは、映画監督の鎌仲ひとみさんが来られます。昨年、
トークでご一緒し、なぜか?気功話で盛り上がってしまったのですが、僕も
これから鎌仲さんにお会いするためにまた山にあがろうと思います!


さて本日の話題に移りたいと思います。今回、記事のタイトルに使ったのは、
2009年にアメリカで出版された書籍の日本語訳の題名です。英語のタイトル
は、“Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the
Environment”です。旧ソ連でゴルバチョフの科学顧問を務めたロシアの科学
者アレクセイ・ヤブロコフ博士を中心とする研究グループがまとめ、ニュー
ヨークアカデミーオブサイエンスから出版されました。目下、日本語訳が進
行中で、僕の友人や、内部被曝問題研で知り合ったお仲間も参加しています。
訳ができたら、岩波書店から刊行されることになっています。

前々からこの書物のことを詳しく紹介したいと思っていました。なぜならこの
中でチェルノブイリの犠牲者(1986年から2004年の推計で今後亡くなりうる数
も含めたもの)が98万5千人になることが明らかにされているからです。衝撃
的な数字です。

これに対して、2006年にIAEAなどが中心になって行ったチェルノブイリ・フォ
ーラムで出されたのは、今後、死亡する数も含めて4000人というとんでもなく
過小評価された数字でした。(これまでの死者60人、今後のがん死者3940人)
もともとこれはIAEAが2005年に発表した数字で、轟々たる抗議がなされ、IAEA
と密接な関係にあるWHOが数ヵ月後に9000人と訂正を行ったいわくつきのもの
でした。

しかしWHOの修正でいよいよその信ぴょう性が危ぶまれるなか、グリーンピー
スが組織した国際的な調査で、ウクライナとベラルーシの合計で14万人が死亡
という発表が同じく2006年になされました。ただしグリーンピースは依然、調
査の継続が必要であり、結論づけるのは早計だとのコメントも付していました。

この間の詳しい経緯を、京都大学の今中哲二さんが書かれているものがあるの
で紹介しておきます。
「チェルノブイリ事故による死者の数」今中哲二(初稿2006年8月)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf

この中で今中さん自身は、推計が非常に難しいことを前置きした上で、「私の
勘では、、最終的な死者の数は10 万人から20 万人くらい、そのうち半分が放
射線被曝によるもので、残りは事故の間接的な影響」と述べています。


ところでIAEAなどと違い、信頼できる組織であるグリーンピースが推計した死
者数が14万人であったことに対し、この2009年の報告が98万5千人と非常に大
きな差異が出てきている理由は、主に扱った原典の違いにあるようです。とい
うのは欧米の科学者が集って行ったグリーンピースの調査に対し、この調査で
は、旧ソ連の多数の科学者の文献が扱われました。その多くがロシア語、ウク
ライナ語、ベラルーシ語で書かれていたため、英語圏の科学者には読めないも
のが多かったのです。しかしその報告こそ、被災者に最も近くで寄り添い、健
康被害とともに向き合ってきた中で書かれたものであって、被害の実相をより
リアルに記したものでした。

そうした文献が15万点以上あると言われ、その中からこの調査では5000点の
文献が使われているそうです。その中の多くのものが英語圏、西側には初めて
紹介されるもので、そのために被害の事実がより克明に明らかにされることに
なったのでした。

なお現在、進行中の日本語訳は、完成した章から「暫定版」としてネットに
アップされています。以下のページから読むことができます。またここから
英語の原点を全文ダウンロードすることもできます。

チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクト
http://chernobyl25.blogspot.jp/

ちなみに、98万5千人と推定されるこの死者数に対し、日本政府はなんと首相
官邸ホームページにとんでもない数字を発表しています。問題のものは、同
HP内の「東電福島原発・放射能関連情報」と題されたページの中の「原子力
災害専門家グループ」にある「チェルノブイリ事故との比較」という文書で
す。「平成23年4月14日」付で出されています。全体として短い文書ですが、
死亡に関して書かれている部分を抜粋します。

「1原発内で被ばくした方 *チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害
が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が
亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」

「2事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく
線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。」

「3周辺住民 チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、
低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、
健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を
無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっ
ている。」
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html


あまりにひどい!絶句してしまうような大うそです。IAEAですら今後の死者
をあわせた犠牲者数は4000人になると発表していたのに、今後予想される死者
数を意図的に除外し、死者数を、原発内にいた47と、子どもたちの15人に限定
してしまっている。合計すると62人ですが、IAEA報告のさらに上をいく大ウソ
です。

ちなみにこの大ウソは次の二人の名のもとに発表されています。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事
(前(独) 放射線医学総合研究所 理事長、前国際放射線防護委員会(ICRP)
主委員会委員)

このお二人の名と、ここに出てくる組織には十分に注意するようにしましょう!
けして騙されてはいけません。

続く



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする