『妊娠カレンダー』 小川洋子
『麦ふみクーツェ』を読んでから、ずっと、主人公のお父さんのことが気になってしかたがなかった。この世界のすべてを数字を通して理解し、数字を通して愛する彼。数字でしか、自分を表現できない彼。そんな、数学者の世界をのぞいてみたい。そう思ったとき、小川洋子著の『博士の愛した数式』を思い出しました。
映画になったことで、ちょっと、読む気持ちが萎えていたのだけれど、きっと、今こそ読むべき時!と、勝手に運命を感じています。
ところが、この本は、とてもとても人気があるらしく、図書館では、予約の列。仕方ないので、同著作者の『妊娠カレンダー』という本を借りてきました。著者は、この本で芥川賞をとったとのこと。うむむ。最初に、こっちに挑戦だ!
不思議で怖い短編が三つ。中でも、『妊娠カレンダー』は、強烈だ。
美しく、我がままな姉。姉の我がままに翻弄されながらも、姉が結婚してからもなお、一緒に暮らしている妹。奇妙な共同生活だ。
その姉が、妊娠した。ひどいツワリ。そして、ツワリの後に訪れた恐ろしい程の食欲。どんどん変わっていく姉を、妹は、どんな風に見つめていたのだろう?
姉の中の赤ん坊を、「遺伝子」としてしか考えることができない妹は、なんと、ジャムが食べたいという姉に、農薬づけのグレープフルーツのジャムを作り続け、赤ん坊を壊したいと思うようになる。
いよいよ、赤ちゃんが生まれるという日。病院に運ばれた姉を追い、病院に入った妹の、壊れた遺伝子を見に行こうという言葉が、すごい。
ジャムによって破壊し続けることで、生まれてくる「遺伝子」は、姉夫婦だけのものではなく、妹のものにもなるというのだろうか(考えすぎかな?)。妹の異常な心理状態が、ジワジワと伝わってきて、背筋が寒くなる物語でした。
私が気に入ったのは、2話目に収録された『ドミトリイ』。主人公の女性が、かつて自分の入っていた学生寮を、いとこの男の子に紹介するという話だ。
寮の管理人である、両手・左足の無い「老人」との再会。
寮から忽然と消えた大学生は、どこに行ったのか?どうして、主人公の女性は、寮に引越しした「いとこ」に、それ以降、会うことができないのか?
管理人が、すべての鍵を握っているようで、握っていないようで・・・そんな不気味さのまま、物語は終わる。桐野夏生の『柔らかな頬』を思い出した。これは、最後まで犯人不在のサスペンス。いやいや、事件が、本当に起こったのかもわからないサスペンス。不思議な不気味さだった。
『麦ふみクーツェ』を読んでから、ずっと、主人公のお父さんのことが気になってしかたがなかった。この世界のすべてを数字を通して理解し、数字を通して愛する彼。数字でしか、自分を表現できない彼。そんな、数学者の世界をのぞいてみたい。そう思ったとき、小川洋子著の『博士の愛した数式』を思い出しました。
映画になったことで、ちょっと、読む気持ちが萎えていたのだけれど、きっと、今こそ読むべき時!と、勝手に運命を感じています。
ところが、この本は、とてもとても人気があるらしく、図書館では、予約の列。仕方ないので、同著作者の『妊娠カレンダー』という本を借りてきました。著者は、この本で芥川賞をとったとのこと。うむむ。最初に、こっちに挑戦だ!
不思議で怖い短編が三つ。中でも、『妊娠カレンダー』は、強烈だ。
美しく、我がままな姉。姉の我がままに翻弄されながらも、姉が結婚してからもなお、一緒に暮らしている妹。奇妙な共同生活だ。
その姉が、妊娠した。ひどいツワリ。そして、ツワリの後に訪れた恐ろしい程の食欲。どんどん変わっていく姉を、妹は、どんな風に見つめていたのだろう?
姉の中の赤ん坊を、「遺伝子」としてしか考えることができない妹は、なんと、ジャムが食べたいという姉に、農薬づけのグレープフルーツのジャムを作り続け、赤ん坊を壊したいと思うようになる。
いよいよ、赤ちゃんが生まれるという日。病院に運ばれた姉を追い、病院に入った妹の、壊れた遺伝子を見に行こうという言葉が、すごい。
ジャムによって破壊し続けることで、生まれてくる「遺伝子」は、姉夫婦だけのものではなく、妹のものにもなるというのだろうか(考えすぎかな?)。妹の異常な心理状態が、ジワジワと伝わってきて、背筋が寒くなる物語でした。
私が気に入ったのは、2話目に収録された『ドミトリイ』。主人公の女性が、かつて自分の入っていた学生寮を、いとこの男の子に紹介するという話だ。
寮の管理人である、両手・左足の無い「老人」との再会。
寮から忽然と消えた大学生は、どこに行ったのか?どうして、主人公の女性は、寮に引越しした「いとこ」に、それ以降、会うことができないのか?
管理人が、すべての鍵を握っているようで、握っていないようで・・・そんな不気味さのまま、物語は終わる。桐野夏生の『柔らかな頬』を思い出した。これは、最後まで犯人不在のサスペンス。いやいや、事件が、本当に起こったのかもわからないサスペンス。不思議な不気味さだった。