ファンタジアランドのアイデア

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持続的に漁獲量を確保する仕組み アイデア広場 その 591

2020-06-16 18:29:29 | 日記


 総務省の家計調査によると、10年前家庭で最も食べられていた魚介類はイカでした。イカの好きな知人が、この2~3年イカを食べたことがないと漏らしていました。2019年のイカの漁獲量は42000トンと、前年比1割減になり4年連続で過去最低を更新しているのです。漁獲量が少なければ、値段は高騰し、食べられなくなる人も出てくる理屈です。不良の原因は、産卵場所である東シナ海の水温が変化し、成長するイカが減ったことにあるようです。もう一つの原因は、2019年の日本海の対馬海流が韓国側へ強く流れ、本州にいかが寄りつきにくかったことにあるようです。今年は、対馬海流も日本側に流れが変わっています。漁業関係者は、7月以降の漁獲がやや上向くと観測しています。今年、函館で初水揚げされたイカは、観光客や外食需要の減少を反映し卸値は昨年の半値になりました。船で生きたまま運ぶ「生け責イカ」が、l kg 2200円と前年度の半額で取引されているのです。イカが少なくなっても、食べる人がいなければ、値段は下がるようです。知人のところに、イカが届くことを祈っています。
 魚種によっては、絶滅が危慎されています。1950年、カリフオルニア沖のマイワシが絶滅しました。日本の近海で獲れていたニシンも、捕れなくなりました。2019年のサンマ、サケ、スルメイカの漁獲量は、統計開始以来最低だったのです。ピーク時と比較すると、サンマが92%減、サケが80%、減スルメイカは94%減になっています。一般に漁獲量が多ければ多いほど,生態系への影響は大きくなります。海洋生態系は,多様な餌を食べる多くの種で構成されています。餌魚を漁獲して減らせば,食物連鎖の上位に位置する種の餌が少なくなる理屈です。毎洋生態系で魚を餌とする魚介類の主要な餌となる魚のことを餌魚と呼びます。一般的な餌魚は,マイワシ・ニシン・カタクチイワシ・シシャモ・ニシン類の小魚になります。たとえば、海洋生態系を維持する場合、イワシの20%が捕食で失われるとき、20%の新しいイワシを生産し補う必要があります。20%を補わなければ、漁獲は持続的に得られなくなり、減少していくことになります。20%を補うべきところを10%しか補えない場合、イワシの平均サイズが小さくなることが経験則からわかっています。各種の餌魚平均サイズが小さくなることは、資源量が減ってくるという目安になります。それが、日本のいくつかの魚種で起こっているわけです。
 世界の人口は現在の76億人規模から、2050年までに100億人規模になると予想されています。生活水準が向上すると、食生活が穀物や植物中心から肉中心の食事に変化する流れになります。中所得者の増加で、肉食化が進んでいます。肉の需要の急増に、飼料の生産が追いつかない状況が迫っています。家畜による肉の供給が難しくなるにつれて、タンパク質を供給する食材として、魚が世界で人気が急上昇しているのです。世界の天然物の漁獲量は2010年入ってから9000万トン前後で推移しています。現在、世界全体の養殖漁の生産量は1億万トンを超え、存在感を増してきています。天然物だけでは、世界の需要に対応できない状況になってきているのです。養殖魚には、家畜にない利点があります。餌の量が、鶏や豚といった畜産より少なくても、たんぱく質の生産が可能なのです。
 肉の需要が拡大すると、飼料となる穀物の生産はそれを上回るペースにしなければなりません。飼料となる穀物を育てる農地を大幅に広げるには、大規模な森林伐採が必要になります。森林伐採には、環境破壊の面から限界があるのです。ブラジルで実際に森林伐採をしていますが、世界の環境団体からは厳しい批判を受けています。養殖漁業は、餌の量が鶏や豚などの畜産より少なく、コストパフォーマンスが優れているのです。餌の量を最適化することで、世界の食料不足の解消にも貢献する可能性を持っています。少ない資源を効率的に使い、環境負荷を少なくしながら、食料の増産が求められています。その意味でも、養殖を効率化することの重要性は増しているのです。でも、養殖に使用する餌の不足が、養殖経営の課題になっています。
 この餌不足を解決するヒントが、昆虫にあります。福岡市で2016年創業したムスカは、ハエを使って飼料や肥料を作っています。ムスカは、畜産農家から出る家畜の糞や食品工場から出る残りカスを利用して、飼料や肥料を作る仕組みを開発しました。ムスカのイエバエを活用すれば、家畜の糞などが1週間程度で飼料や肥料になります。有機廃棄物1トンに対して、300gのイエバエの卵で、飼料や肥料を生産することができるのです。一般に、家畜の糞などを原料とする堆肥は、麦わらなどを混ぜた上で微生物の活動で作られてきました。この自然の堆肥化には、2~3ケ月程度かかるとされています。イエバエの卵で作った飼料や肥料は、畜産農家や魚の養殖業者に供給されています。家畜の排せつ物は、全国で大量に発生し、その量は毎年8000万トンに上ります。養魚場で使う飼料の材料は、ほぼ無限にあると考えても良いのです。
 人手不足の時代には、生産はできるだけ人手をかけず、コストを安く、持続可能な生産方法が求められています。インドネシアにおいて、情報技術を活用し魚に与える餌の量を最適化するソフトが開発されました。養殖魚は、空腹になると活動的に泳ぎ、波を立てる性質があります。波が一定の闘値を超すと、自動的に餌を蒔くように機械が動く仕様にしたのです。この設定に合わせ、電動の給餌機が養殖池に均等に餌まく仕組みにしたわけです。魚やエビの養殖業者が、餌を与える時間と量をスマホアプリで設定できるのです。魚が満腹になると、波は静まり、自動的に給餌を止やめる仕掛けです。この機械の価格は、監視ソフト込みで、12kgの餌が入る給餌機が約5万6千円です。
 困ったことに、天然物の水産物は、魚の種類によっては枯渇する懸念も出てきています。経済的に貧しい国では、目先の利益が優先されます。イワシの平均サイズが小さい場合でも、持続性を無視して捕獲してしまう傾向があります。イワシなどの特定の餌魚だけを選んで捕獲すると、捕食や競争の魚種の間の関係が崩れます。天然物の漁業には、経済的貧困の問題が関わってきます。養殖の場合にも、問題点はあります。以前は、魚の病気に対して、抗生物質が使われていました。近年では薬事法により、ワクチン投与に切り替わっています。餌料の与え方や薬品の投入記録など、追跡システムの導入が格段に進んでいます。途上国が魚を輸出する場合、これらのハードルを越える負担が出てきています。
 一方、乱獲を止めても、魚が棲むのに適した生息域がなければ、漁場が回復することはないようです。たとえば、瀬戸内海は、排水規制が厳しくなり海の透明度は高まりました。規制が厳しくなった副作用として、栄養塩の供給が絶たれプランクトンの発生が弱まったのです。海の透明度は高まったのですが、魚が捕れなくなったわけです。近年、日本の海には、酸素が乏しい貧酸素海水塊が拡大しています。貧酸素海水塊は、産卵には適していない場所になります。海岸に砂利の補給がないと、海底環境が悪化し、貧酸素海水塊の拡大を促すことになるのです。ダムの開発により、砂利が海に供給されにくくなっています。漁業の安定的持続性を確保するためには、乱獲の防止だけでなく、漁場の環境整備が必要になります。合理的養殖漁業の推進が、望まれているようです。