2020年4月、全国各地で回覧板を取りやめる動きが広まりました。回覧版に、新型コロナウイルスが付いているのではないかと不安があったようです。このコロナ禍は、町内会の運営にも大きな影響を与えています。町内会の人々が楽しみにしていた芋煮会や運動会など、多くの行事が中止に追い込まれました。三密の伴う町会の総会も、通常通りに開催することが難しくなりました。市町村の方から、総会の代替手法として、書面評決を用いた開催方法や関係書式のモデルを提供されるありさまです。もっとも、町会の総会を取り仕切る役員のなり手を探すことが、最大の課題になっている町会もあるのです。今回のコロナ騒動は、多く時間を提供してくれました。このような環境の中で、今後の町内会を考える人たちが増えているようです。否応なく家庭で過ごす時間が多くなり、身近な町内を見直す雰囲気がでてきたのかしれません。そこで、町内会について、考えてみました。
町内会の本来の目的は、様々な地域課題に対し住民の相互協力によって解決を図ることにあります。内閣府の調査によると1970年の町内会の加入率は9割を超えていました。でも、昭和から平成へ、そして令和の時代へと移るにしたがって、地域の課題や住民のニーズに変化が現れてきています。町内の各種行事への参加者は、年々減少しています。参加者が減少しているにもかかわらず、役員の負担は増えていくという不思議な現象も出てきています。町内会の役員を、輪番で仕方なくやらされているケースもあります。役員の輪番制が崩れると、人の良い人が、心ならず何年も続けるという弊害も出てきています。良心的な方は、町内会の10年とか20年と続いた事業を、自分の代で止めることもなかなかできないと思い詰めてしまいます。町内会が活気を失い、慣習として仕方なくやる活動になっているケースも増えてきています。
町内会の仕事が増えている理由には、市町村からの委託業務やその説明会、そして研修などの要請があるからです。ある町会の会長さんは、町会の行事を含めて年間100件以上の会議や出張の要請がありました。町内会が、「行政の下請け」のような組織になりつつあるのです。町内会の多くの仕事は、こうした市町村の委託業務が活動の主流となりつつあります。行政の下請けの業務が町内の役員に負担をかけるために、役員のなり手不足や未加入、退会の要因になっているという方もいます。町内会に対して、市町村は指導監督権限がありません。でも、町内会が市町村からの委託業務を引き受け、委託料をもらう限りは、責任を負うことになります。市町村からの委託業務は負担ばかりで意味がないと思えば、委託を受けない選択肢も町内会にはあります。行政に頼らず、自立して地域ができることは地域でやることも、町会の運営としては成立する考え方です。
すべての町内会が、疲弊しているわけではありません。ある町内会では、2004年以降、孤立死ゼロの記録を続けています。活動は週に何回訪問しましようとか、声かけしましょうかとの義務付けをしていないことに特徴があります。昨日から洗濯物が干しっぱなしとか、ポストに新聞がたまっているとかを、役員に知らせだけというシンプルなものです。少し、裕福な町内会では、所有する会館を会員に無料で提供しています。パソコンやコピーも無料で利用できるため、会員による多様な活動が生まれています。もっと、積極的な町内会では、自主財源を作り出したところもあります。遊休地を活用したさつまいもの栽培で、町内会の自主財源を5000万円以上作り出したのです。これをもとに、IT器機を整備し、子ども達のITのスキルの向上を図っているということです。町内会活動は、「継続的」な活動で、「共通した趣味や目的」を持ち、そして、何より「楽しいこと」が求められるようです。もっとも、反対する人は必ず現れます。そんな場合、提案したことを徐々に実現し、その成果を示して、賛同する人を増やしていく手法を取ることが有効のようです。
そもそも町内会は何のためにあるのかを、伝えることが必要になります。宣伝とか広報と言われるものの重要性です。広報紙は町内によって様式や内容、発行の頻度などが異なります。配布方法は市区町村の場合、一般的に町内会などを通じて各班から各戸配布されます。ある町には回覧板がなく、班長さんからの伝達か、町内に9ケ所ある掲示板で行っていた町会もあるようです。市町村の配布物ならば、役所や公共施設、主要駅、スーパーやコンビニなどからの配布もできます。そこに、便乗することも可能でしょう。多くの町内会の役員は高齢者が中心で、l Tに不慣れな方が多いようです。小学生のインターネット利用率は85%を超え、電気や水道に匹敵する社会インフラになっています。小学生や中学生に、広報紙を作成してもらうことも選択肢になります。でも、若い人材を町内会に入れれば、この問題は意外と容易に解決するかもしれません。
総務省によると、2018年の企業のテレワーク導入率は19%でした。このコロナ過は、テレワーク導入を引き上げています。テレワーク導入率は、緊急事態宣言後の導入率は7割近くになっています。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、移住を考える人も増えているのです。地方移住に関心を持つ人は、三大都市圏に住む20代と30代で2割に達しています。満員電車の通勤に、感染の危機感を持っているのかもしれません。地方移住の関心は、東京23区に住む20代では3割を超えているのです。彼らは、ITスキルを持っています。高齢者の多い地方に移住してもらい、彼らのI Tスキルを町内会で活用してもらうチャンスになります。地方の町内会では、役員間の連絡も電話やファックスを使用していたので手間暇がかかりました。従来の通信機器では、町民のニーズを吸い上げることが難しかったのです。ITスキルのある若者やテレワーク経験者が地方に移住すれば、地域の活性化に繋がります。もっとも、町内に彼らを受け入れ、彼らの生活を充実させるインフラの整備も必要になります。都市から地方への移住の心理的要因には、南海地震など危機感があるようです。災害に対するハードとソフトの備えが、彼らが求める受け皿になります。
最後に、災害の備えについて考えてみました。阪神淡路大震災の時、警察・消防・自衛隊などの公助によって,救助された人は約8千人になります。一方、家族や近隣住民による共助によって救助された人は約2万7千人になったのです。この大地震で、共助が公助の3倍以上に上ったことはよく知られています。地域のつながりが、災害に果たした役割は大きかったということです。阪神淡路大震災から東日本大震災、大型台風、そして熊本地震にいたるまで、少なくない災害を日本国民は経験してきました。熊本地震では、水道やガスは完全復旧までに2週間以上、通信は固定電話の復旧に約10日かかりました。その間、避難生活した方は、かなりのストレスを味わっています。そんな中で、国民の意識は変化してきています。自分の身は自分で守るという人の割合が、2割から4割に倍増しています。さらに、分散避難が原則だということも、明確になりつつあります。まずは、自宅で安全を確保することです。次に、自宅が危ないとなれば、知人宅やホテルなどの自宅以外の避難を選択することになります。最後の手段として、指定された避難所を選ぶということになります。近年の災害から学んだことは、避難生活がパン一つもらうのに長い時間並び、トイレにも長い順番まちの列の中で生活するということでした。公助に頼る前に、自助があり、自助でカバーできないところを共助が支えるという仕組みができれば、合格のようです。この合格した町内会で生活できれば、ハッピーです。