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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」179

2017年02月07日 | 物語「水辺ノ夢」

悟の側に、猟犬の姿は見えない。
が、圭は一瞬身構える。

「昨日は驚かしてしまって
 悪かったな」

そうして、悟は荷物を差し出す。
圭が畑に置いてきた物。
届けてくれたらしい。

「あ、あぁ」

向かっていこうとしていた圭は混乱する。
あの時とは態度がまるで違う。

今まであまり接点がないにしろ
悟は狩りに行かない圭を責めた事がない。
それぞれに役割がある、と
言って聞かせる方だった。

だから、
今回の件は驚いたし、
圭にも油断があった。

悟が犬をけしかける訳がないと
どこかで思っていた。

「……」

いや、と
圭は考え直す。

真都葉の事は許せないが、
本当に故意ではなく事故だったのでは、と。

「早く捨てたらどうだ?」
「え?」

何を?と首を捻る圭に
仕方ないなと、静かな口調で悟は説明する。

「昨日言ったこと覚えているか?」

「……真都葉が魔法を使ったと」
「そうだ、
 東一族の血が流れているのだから
 可能性は高い」

そうかもしれないが、
悟は誤解をしていると
圭は思う。

早く、その誤解を解いて
いつもの関係に戻らなくては、と
圭は続ける。

「それに、杏子が
 西一族の情報を流している……と」
「今はそちらの方が問題だ」
「違うんだ。
 杏子はそんな事はしていない。
 鳥が住み着いているだけなんだ」
「でも、あの女は鳥に話しかけていた」
「悟だって飼い犬に話しかけることはあるだろう。
 それと同じ。
 家に籠もって過ごしているんだ、
 気分転換ぐらい許して欲しい」

「………」

圭の話にうんうんと悟が頷く。

「その話、
 本当かも知れないが」
「そうなんだよ」

悟は笑顔で圭に言う。

「もう遅い」

「え」
「その姿を他の村人に見られている。
 一度怪しいと思われたらそれで終わり。
 村人の疑心はどんどん広がっていくぞ」

圭には悟の言葉が分からない。
なぜ、こんな話を
悟は穏やかな表情で言っているのか。

「このままじゃ、
 いざというときにお前が巻き込まれるだろう。
 だから早めに捨てておけと言っているんだ」

「だから、何を」

「東一族の女をだよ」

圭は気がつく。

悟は皆に優しい。
ただ、それは
西一族に関しての事。

最初の謝罪は
圭を驚かせたことについて謝ったのであって
真都葉には向いていない。

「お前は他の村で東一族と会う事なんて
 ないだろうから分からないかも知れないが」

悟は圭に言って聞かせるように
優しい口調で言う。

「一度は争いになった程
 考え方や生き方が違う一族だ」

圭は寒気を覚える。

「あの一族とは分かり合えることはない。
 どうして歩み寄らなければならない」



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