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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」197

2017年04月11日 | 物語「水辺ノ夢」

テーブルを挟んで3人。
いつものように夕食を取る。

僅かな肉に、野菜のスープ。
真都葉は好物の豆ご飯を食べている。

まだ危なっかしく、零すこともあるが
スプーンを握り、一人で食べている。

「上手になったでしょう」

杏子が圭に言う。

「そうだな」

以前、どちらかが早く食べ終え
真都葉に食べさせていた事が
懐かしく思える。

「まつば、じょうず?」

真都葉が首を傾げる。
そうよ、と杏子が笑い
圭が頭を撫でる。

「ごはん、おいしいね、
 あしたもこれがいいな」

明日。

圭は、杏子を見る。

杏子は真都葉に言う。

「そうね。
 でも毎日同じだと飽きちゃうわよ。
 また、今度ね」

食事を終え、
ゆったりとした時間が過ぎる。
食器を片付けた杏子が居間に戻ってくる。

「真都葉をありがとう。
 あら、眠そうね」

真都葉は圭と遊んでいたが
今は腕の中で眠そうに頭をゆらしている。
杏子は真都葉を受け取ると、
寝室に連れて行こうとする。

「杏子」

その背に、圭が呼びかける。

「明日、……出かけよう」

狩りの翌日は、獣達の数が減る。
警戒して出てこないから。
逆に、気が立っている時期でもあるが
圭はそこにかけるしかない。

少しでも、可能性があるなら。

杏子は振り返り頷く。

「わかったわ。
 真都葉はどうしましょう、留守番よね」
「あ」

そうだ、そこまで考えが及ばなかった、と
圭は慌てる。
一人、家に残していく事になる。

「大丈夫よ、沢子に頼んであるから」
「杏子」
「でかけるかなって、そんな気がしていたから」

日が暮れる。

真都葉を挟んで3人で眠る。
枕元の仄かな灯りの中
真都葉を起こさないように、圭と杏子は小さな声で話す。

「ねぇ、どうして真都葉にしたの?」
「え?」
「名前」

えっと、と、圭は躊躇いがちに答える。

「南一族で【真】という字が人気で」
「そうなのね」
「この子の名前をと言われて、
 思わず口にした名だったから」

改めて聞かれると、と
圭は恥ずかしくなる。

「もう少し、ちゃんと考えれば良かった、な」

圭の言葉に、杏子が首を振る。

「よい名前だと思うわ。
 西一族と東一族の間に生まれた子」

そうでしょう真都葉、と
杏子は寝ている我が子に話しかける。

ねぇ、と杏子は更に問いかける。

「もし男の子だったら、なんて付けていたの?」
「え、男の子」

圭は、ふと、宙を見つめ、
そうだな、としばらく考える。

「……陸(りく)、かな」

「陸」

ふふ、と杏子が笑う。

「何かおかしかった?」
「いいえ、素敵だなって」

杏子は言う。

「男の子が生まれたら
 陸と名付けましょう」

この先もこの生活が続いて
二人の間にまた子どもが出来て
いつまでも、

いつまでも暮らして行けたら。

「明日は早いのよね。
 もう、寝ましょう、おやすみなさい」

あぁ、と圭は答える。

「おやすみ、杏子」

やがて、夜が明け、朝が来る。


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