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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」199

2017年04月18日 | 物語「水辺ノ夢」

「こっちだ」

圭は杏子の手を引く。
道を選んでいるのか
村人とは出会わない。

「明るい時間に見ると、こうなのね」

出歩くなと言われている杏子が
やっと外に出られる。
それが、こんなタイミングとは。

「行こう」

二人は山に入る。

西一族が狩りで立ち入る事が多いため、
狩り場に行くまでの道のりは
人工の獣道が出来ている。

分かれ道にさしかかる度
圭は枝を折り、印を付ける。

帰るときに困らないように、と。

少し開けた場所に出る。
そこからは、西一族の村を見下ろすことが出来る。

「よい、眺めね」

杏子にとっては、初めて見る眺め。
圭は指を指す。

「あの辺りが、家だよ」
「………」

先を急ごう、と圭は歩く。
狩りの翌日だからか、
山はいつも以上に静まりかえっている。

岩場が見える。

いつだか、圭が狩りに来た場所。
あの時は家族のためにと来ていたのに。

「杏子」

圭は言う。

「ここで、待っていてくれるか。
 すぐ、戻ってくるから」
「分かったわ」

杏子が微笑む。

「これを」

身を守るため、と
圭は杏子に小刀を握らせる。

杏子は刀を受け取る際に、
圭の手を握り返す。

ほんの一瞬の事。

どこで、間違えたのだろう、と
圭は思う。

悟への、村人への反論だろうか。

鳥と話すことで疑われていると
気付くのが遅れた事だろうか。

圭が西一族の村へ帰ってきた事だろうか。

杏子との間に子どもを作ったことだろうか。

杏子の面倒を見ろと言われた時だろうか。

それとも、

圭が村を出て、
東一族の村の水辺で、杏子と出会ってしまった事だろうか。

あの時、出会わなければ。

「圭」

杏子が、言う。

「私、圭に出会えて良かったわ」
「……俺もだよ」

気がついたときにはもう、手は離れている。

「行くのでしょう。さぁ」

杏子が言い、圭は、今来た道へ振り返る。

「   」

呼ばれた気がして圭が振り返ると、
杏子は岩に腰掛けている。

「待っているから、気をつけてね」

圭は走り出す。
杏子は見えなくなった背中に言う。


「真都葉を、よろしくね」



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