その日。
杏子は起きる。
支度をする。
自身の身支度をし、朝食を作る。
真都葉のお昼ごはんも。
その匂いで、真都葉が目を覚ます。
「とう! あさだよ~」
真都葉はいつも通り、元気だ。
自分で飛び起き、そのまま、母親のいる台所へと行く。
「かあ、あさだよ~」
「おはよう、真都葉。ほら、卵焼きね」
「あさだよ~だまぉやきよ~」
「卵焼き、ね」
杏子は笑う。
真都葉は自分で着替えようと、奮闘している。
杏子は食卓を準備する。
料理を並べ、
皿を並べ、
飲みものを用意し、
真都葉が使っているスプーンを、見る。
見つめる。
「おはよう」
圭も支度を終え、居間へとやってくる。
「とう~。これ、ぬげないよ~」
「真都葉、順番にやらないと」
「とう~」
杏子は真都葉の服を準備する。
それも、そっと見つめる。
真都葉の支度が出来ると、朝食をとる。
朝食が終わると、杏子は食卓を片付ける。
出かける準備を、する。
「杏子、その服・・・」
「ああ、これ?」
杏子は、東一族の衣装を着ている。
棄てたのかと思っていた。
けれども、しまっていただけだったのか。
「久しぶりに」
杏子が云う。
「だって、誰かに会うわけじゃないんだものね」
「うん・・・」
「かあ!」
真都葉が色紙やおもちゃを抱えてやってくる。
「さわこいつくるの?」
「もうすぐよ」
真都葉は机に、それらを並べだす。
沢子と遊ぶつもりなのだろう。
やがて、
沢子がやってきて、杏子は準備してある食事を説明する。
「じゃあ真都葉」
圭が先に家を出る。
杏子は振り返り、真都葉を見る。
「行ってくるわね」
「かあ」
「なあに?」
「まつばもいきたいよー」
「今日は、真都葉はお留守番」
「かあ~」
杏子は、真都葉に云う。
「台所に夕ご飯が準備してあるの」
「ゆうごはん?」
「沢子と準備していてくれる?」
真都葉は少し、考える。
考えて、云う。
「まつば、おかあさんするね!」
そして、手を振る。
「とう、かあ。行ってらっしゃい!」
「行ってきます」
「かあー!」
真都葉はニコニコと、手を振る。
杏子は、・・・真都葉を抱きしめない。
扉が閉められる。
杏子はその扉を見る。
「杏子・・・」
「・・・・・・」
中から、
沢子に「遊ぼう!」と云っている、真都葉の声が聞こえる。
「真都葉・・・」
杏子が呟く。
圭は、杏子の後ろ姿を見る。
東一族に戻った、杏子の姿を。
杏子は、わかっているのだ。
圭も、わかっている。
杏子はもう、ここへは戻ってこない。
西一族から、杏子を棄てるよう
命じられたのだから。
「さあ、圭」
杏子が圭に向く。
「行きましょう」
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