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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

水辺童話:みずうみのばけもののはなし5

2017年07月11日 | 物語

「やった、のか?」

やがて光は収まり。
湖は青空を映したような
青い水面が静かに揺れています。

ギャズンの姿はどこにも見えません。

「倒した、のか」

彼らはお互いに顔を見合わせます。
信じられないと、暫く言葉を無くしていましたが
やがて、隣の人と肩を抱き合い
または疲れた、と船底に座り込んでは
お互いを讃えました。

歓声はだんだんと大きくなっていきます。

「間違い無い、ギャズンは封印した」

封印を担当した、東の一族が言います。

「だが、彼は」

その言葉に、皆が静まりかえります。
南の一族の青年は
その身をギャズンに投げたのです。

彼が居なければ、この勝利はありませんでした。

皆が彼を惜しむなか、
ざばぁっと、突然湖面から腕が伸びてきました。
ぎゃああああ、と
驚いた女性などは卒倒してしまいましたが
今度は湖面から顔が現れます。

「おおい、だれか、縄を投げてくれ。
 俺は泳げないんだ」

それは、南の、青年でした。

泳げないのでおぼれかけていましたが
幽霊ではなく、
紛れもなく、生きた人間でした。

「よかった、よかったよぉ」

今度こそ、人々は
心の底から喜ぶことが出来ました。

そこからは、
もう宴会です。

戦った者達は家族に出迎えられ
各一族それぞれに腕自慢の料理を振る舞います。
皆が勝利を祝います。

ある西の者と東の者は
宴の席から少し離れて
杯を交わしていました。

「あの女の子はどこに行ったのだろう」

ひとりでダメなら、みんなで戦おう、と
そう言った女の子の事でした。

今回の立役者でしたが
どこを探しても居ません。
どの一族の女の子なのか、誰も知りませんでした。

東の者は言います。

「俺には湖に落ちて命を落とした妹が居る。
 年の頃は違うが
 あの女の子によく似ていた気がする」

そうか、と西の者は言います。

「実は俺にも、湖で死んだ知り合いが居る。
 もしかして、
 ギャズンはあいつが化けたのではないだろうか」

仲が悪い一族が居ることで、
つらい思いをして死んでいったからなぁ。

「あいつが死んでから、
 いがみ合っていた者達が
 仲良くすることになるなんて」

と、彼だけは
この宴を心から祝う事が出来ませんでした。

「あのう」

二人に、青年が声をかけます。
南の一族の青年でした。

「俺が湖に飛び込んで、
 おぼれかけて、もうダメだと思ったとき」

青年は言います。

「ヘドロの手が俺を
 湖面まで押し上げてくれました」

だから、助かった、と
青年は言います。

「そうか」

西の者は頷きます。

「そうか、そうか、
 あいつは皆を許したんだなぁ」

そうやって泣きました。

「ギャズンがいたから、
 あの女の子がいたから、
 皆はこうやって協力したんだ」

東の者も頷きます。

むかし、むかしの
ある日の事です。

八つの一族が協力したのは
それが最初で最後になりました。

今でも時々ケンカをする一族も居ます。

でも、だれもが湖を見ると
みずうみのばけものの話を思い出すのです。

そうやって、
ケンカで振り上げた手を
そっと下ろすのかもしれません。

おしまい。

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