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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」75

2014年06月10日 | 物語「水辺ノ夢」

「ごちそうさま、もうお腹いっぱいだよ」

祖母の声に圭は顔をしかめる。

「ばぁちゃん、半分しか食べてないじゃないか
 栄養が付かないよ」

食事を介助していた圭は匙をすくう。
ほら、と言うが祖母は首を横に振る。

「もったいないけれど、本当に入らないんだよ」
「……でも」
「お前もお昼はまだだろう。行ってきなさい」

「……」

わかった、と、圭は立ち上がる。

「俺もお昼を食べてくるから
 何かあったらすぐ先生を呼ぶんだよ」

圭は病室を出る。
祖母は相変わらずベットからは動けない。
それでも、
起き上がり、口から食事が出来るようになった。
食が細いのは気になるが
ひとまずは安心だ。

「あれ?圭」

呼び止められて圭は振り向く。

「沢子」

西一族の沢子が病院の廊下を歩いてくる。
狩りで同じ班になって以来だ。

「なんで、ここに?」

病弱な自分と違い、病院は沢子には縁遠い場所だ。

「予防接種に来たの。年に一度でも面倒よね」
「……あったっけ、そんなの」
「圭はマメに病院に来ているから違うのかな?
 ほら、動物の菌を防ぐのに」

あ、とそこまで言いかけて沢子は言葉を止める。

「ごめん」

あぁ、と圭は気付く。
恐らく狩りに行く若者には義務づけられているのだろう。
狩りに行かない圭には必要とされない事だ。

「ねぇ、圭。
 広司はあんな風に言ったけれど、
 狩りに行けそうならまたおいでよ」

「うん」

その言葉だけでもありがたいと圭は思う。
沢子は、西一族の中でも圭に良く接してくれる方だ。

「ところで圭はどうしたの?
 具合悪くなった?」
「あぁ、俺は相変わらずだけど
 今は祖母の付き添いで来ているだけ」
「そうなの?大丈夫?」
「体調を崩してさ。
 でも、持ちなおしたから大丈夫だよ」
「それで、泊まり込んでいるの?大変ね」

圭を毛嫌いしている人も多い中、
相変わらず誰にでも分け隔て無く話してくれる。

「でも、そうしたら東一族の人、
 今は家で1人なのね」

仕方ないけど、寂しいよね、と言った沢子の言葉に
杏子には負担をかけていると改めて思う。
と同時に圭ははっとする。

そうだ。

「沢子、少しだけで良いんだけど」
「うん?」
「杏子の様子を見に行ってもらえないか。
 俺がこっちにかかりっきりで
 ずっと1人にしてるから、ちょっと心配で」

「……あんず……ええっと、東一族の人?」

あ、と圭はためらう。
東一族は西一族にとっては敵の一族だ。
そう簡単にはいかないか。

「うん。……無理なら遠くから見てくるだけでも」

諦めかけた圭に沢子が言う。

「良いよ。私も一度話してみたかったんだ。
 突然行って、びっくりしないかな」

良かった、と圭は胸をなで下ろす。

「少し驚くかもしれないけど、
 俺から聞いてきたって言えば大丈夫だと思う」



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