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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」135

2016年02月16日 | 物語「水辺ノ夢」

「圭、おつかい頼まれてちょうだい」

母親に呼ばれて
圭は立ち上がる。

「これ、向かいのお家に持っていって」

母親に渡された容器には
食べ物が入っている。
豆が混ぜてあるご飯。
南一族の郷土料理だろう。

「お祝いの食べ物だから。
 おめでとうございますって
 挨拶もしてきてね」

持たされた容器を抱え家を出る。

「お祝いって何の?」

圭は首をひねる。

南一族は土地が広く少し歩く。

向かいと言っても数件ある。
名前を聞いてきたがうろ覚えだ、と
圭は少し考えたが
その家には沢山の人が出入りしているのですぐ分かった。

皆におめでとうと言われ
囲まれているのが家主だろう。

「あの、これ」

圭は人波をくぐり抜けて
その男に歩み寄る。

「ありがとう。
 子供の顔見ていってくれ」

嬉しそうに言う男の言葉で
子供が生まれたのだと
気がつく。

つまり圭が持たされたのは
出産祝いだ。

「どうだ?」
「いや」

圭は首を横に振る。

「風邪気味だから
 子供にうつしては」

「ああ、そっか
 それは残念。
 また来てくれよ」

圭は頷き
預かった容器を手渡し
足早にその場を後にする。

きちんと表情を崩さずに
出てこられただろうか。

ふと振り帰ると
その父親は次々と人に囲まれていて
幸せそうに返事を返している。

風邪なんてひいていないのに。

「あんな嘘、
 よく出てきたもんだ」

自分でも呆れると
ため息をつく。

無意識に逃げ出してしまった。
どうして、なんて
考えなくても分かる。


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