声を捨て、毎日をただ生きているだけの蒼。ある日、不慮の事故で視力を失い絶望の中でもがく音大生・美夏と出会う。何があってもピアニストになるという夢を諦めない美夏に心を奪われた蒼は、彼女をすべての危険から守ろうとする。だが、美夏に想いを伝える方法は、そっと触れる人差し指とガムランボールの音色だけ。蒼の不器用すぎる優しさが、ようやく美夏の傷ついた心に届き始めた時、運命の濁流がふたりをのみこんでいく─。 |
ロミオとジュリエット
ウエスト・サイド・ストーリー
オレンジデイズ
Taglineを読んでこの三つの作品がうかんだ。
山田涼介 as 蒼(あおい)
終映後パンフレットを見ると、蒼は当て書きとのこと。スクリーンに最初に登場した時の蒼は、山田涼介とは思えないほどの荒みぶり。目線を下げ、背中を丸めた様は世捨て人のよう。その彼が美夏の命を救う。
蒼は話さないのではない。話せないのだ。高校生の時にのどにケガをした。そのケガがもとで、彼の人生は狂う。罪を犯し、学校をやめた。彼は横浜音楽大学に校務員として勤めている。植栽の管理、清掃をしている彼を見ても、音大生たちは気にもとめない。空気のような、透明な存在である。でも、必死に生きている。
山田さんをスクリーンで見るのは、暗殺教室2作品(「暗殺教室」と「暗殺教室 ~卒業編~」)以来だが、大人の役の彼を見るのは本作が初めて。Hey! Say! JUMPの山田涼介のまとうものを全部捨てた感じ。ビックリした。別人である。
浜辺美波 as 美夏
ピアニストになることを目指していた美夏。蒼との接点はないはずの《別世界》の人である。
交通事故により視力を失い、自暴自棄になっていたところを、その場にいた蒼に助けられる。後日、旧倉庫でのピアノを弾いていたときに、偶然蒼と再会する。彼女は彼を同じ大学のピアノ専攻学生と間違える。ここから2人の奇妙な関係が始まる。
希望にすがらなければ、自分が壊れてしまう。美夏はその恐怖とたたかい、あらがう。
これまでに「思い、思われ、ふり、ふられ」「約束のネバーランド」「やがて海へと届く」「シン・仮面ライダー」「ゴジラ-1.0」の主演・ヒロイン役の浜辺さんを劇場で見ている。本作は一番泥臭くさいキャラクターである。
誤解からの破局
夏美はあることから蒼の正体を知る。蒼はそのことから傷つく。それでも美夏を守るという蒼の想いは実るが、失うものも大きすぎた。
蒼...気の毒過ぎる。
ロミオとジュリエット、ウエスト・サイド・ストーリーほど破局的ではない。でも、オレンジデイズのような未来も見えない。蒼の行動が、そのまま通ると思えないところもあるが、美夏への真っ直ぐな想いは、強烈に伝わる。伝わるけど... 二人の人生が後に交差することはない。二人は住む世界が違うのだ。そんな作品だと思う。なんとなくだが、「愛と誠」的な部分もあるかと考えた。
山田・浜辺ファンはMUST SEEの作品だ。(文中敬称略)