モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

植物の知恵と戦略 ③ 開花のメカニズム

2009-02-26 09:12:22 | 植物の知恵と戦略

この項は、『② 植物が“時”を認識する仕組み』の後編です。

花は美しい。
花の美しさの価値が認識され再発見されたのは、ヨーロッパ社会においては16世紀後半からのようだ。日本でもほぼ同じ時期からだが、江戸時代は平和が続いたため庶民レベルまでこの審美眼が浸透したようであり、江戸末期に日本に来た西欧人はこの水準の高さに驚いている。(末尾に抜粋を掲載)

しかし、人間社会の変化がどうであれ植物は花をつけ、この花は、植物にとってのパートナーを求めるサインのあらわれであり、子孫を残す大切なプロセスだ。

花にとってのパートナーは、昆虫であったり風などであり、決して人間ではない。
このパートナーに来てもらい花粉をたっぷりとつけ他の花々に受粉してもらいたいという願いがこめられている。

この呼び込みの看板・ネオンサインが花であり、餌・食料となる蜜や花粉がこれから行われる労働の対価でもある。或いは撒き餌となるチラシ・ティシュなのかもわからない。

(写真)まだ咲いているセミアトラータの花


長日植物・短日植物
開花の準備は、夜の長さの変化を感じ取って始まる。
夏至を境に夜が長く日中が短くなると開花の準備が始まるのが夏から秋咲きなどの短日植物であり、冬至を境に昼が長くなると開花の準備がされるのが春咲きからの長日植物となる。

花が咲くまでの開花の準備には三つのプロセスがあるという。まず最初に「つぼみが出来るプロセス」、第二に「つぼみが生長するプロセス」、第三が「開花」である。

どこがどう違うのかといえば、
最初の「つぼみが出来るプロセス」とは、植物が成長するところは芽の中にある成長点だが、この成長点が葉を作ることをやめ“つぼみ”を作るようにスイッチが切り替わることをさす。そして花芽を形成する。
第二段階はこの花芽がつぼみとして花弁・雌しべ・雄しべを成長させ形を作っていく。
そして、最後の第三段階で開花する。

アサガオの暗黒と開花の実験
小学校の理科実験などでアサガオの栽培観察などがあったが、出題者の先生もわかっていないかもしれない実験がある。内緒で子供・孫達に教えると良さそうだ。

アサガオは単日植物の典型的な植物であり、日中が短くなり夜が長くなると開花の準備に入る。そこで、発芽し双葉になったばかりのアサガオを、人為的に夜を長くしてあげると、一度だけでも敏感にこれを感じ取り開花の準備に入るという。具体的には真っ暗なところに一日(14時間以上)入れておくだけでよい。
アサガオの苗の数が多くあれば、何時間暗くすると開花するかという関係が調べられ、先生も驚く研究発表となる。夏休みの研究テーマとしていけそうだ。

この逆もまたありで、明るい室内でアサガオを育てると開花しないでつると葉だけが育つことになる。明るい街灯の下のアサガオは花を咲かせないということになる。水遣り・肥料が問題ではなかったのだ。

植物の感知センサーは、『葉』
植物の暗黒を感じ取る精度はきわめて高いようで、15分間の違いをも認識するという。
そしてどこでこの暗黒を感知しているかというと『葉』だという。
かなり精度の高いセンサーのようだ。

また、植物によりこのセンサーが作動し開花の準備に入るトリガーが異なるようだ。
短日植物のシソは、暗黒時間8時間以上を7~8回認識すると花芽が分化する。同じ短日植物の大豆の場合は、暗黒時間10時間以上で、数回認識すると花芽が分化するという。

このバラツキは、植物の生存に関わる過去の経験が何らかの形で影響しているのだろう。1回でも認識するアサガオ、8回以上ないと認識しないシソでは、シソの方が安全弁機能が内蔵され疑り深い或いは慎重だと感じるがどうだろうか?
花が咲かないことには生き残れない。シソの場合は、8日間も確認して大丈夫と思い咲くのだろうか?

植物の生存戦略も、こんなところから見ると面白そうだ。
堅苦しくいうと、自らの経営資源を花を咲かせ、タネを結び、次につなげるということで、環境の変化に如何に適合するように創り上げてきたか?
そして種間の競争に生き残ってきたか? が見えてくるかもわからない。

(写真)黒に見えるダークブルーのディスコロールセージの花


認識と伝達
アサガオは葉が長時間の暗黒を1回でも認識すると開花行動をとる。そこで、14時間暗闇に置いたアサガオの葉を直ぐに切り取ると開花しないという。ということは、開花しろという伝達が成長点に届かなかったということになる。
しかし、切り取る時間を遅らせると開花するという。

このことは、葉から茎の成長点まで開花指令をのせて運ぶ物質があるのではないかという仮設が成立するが、この物質はいまだに発見されていない。
ホルモンなのか?ニューロンなのか?何なのだろう?この謎が解けたらノーベル賞がもらえるだろう。

もしこれがわかれば、新しい伝達方法とヴィークル(乗り物)の可能性が広がる。
マクルーハンは「メディアはメッセージだ」といったが、植物からわかるメディアとメッセージの関係は、人間のアナロジーで考え、ロボットなどに応用してきた認識と伝達の考え方を根底から変える可能性がありそうだ。

付録【幕末の頃の日本人の美意識】
幕末の1860年に日本に来たイギリスのプラントハンター、ロバート・フォーチュン(Robert Fortune )が帰国後に書いた「幕末日本探訪記」がある。現在これを酒の間に読んでいるが、イギリス人から見たこの頃の日本がわかって面白い。日本人の花・植物への関心のところだけを抜粋すると次のように書かれている。

「馬で郊外の小ぢんまりした住居や農家や小屋のかたわらを通り過ぎると、家の前に日本人好みの草花を少しばかり植え込んだ小庭をつくっている。日本人の国民性の著しい特色は、下層階級でも皆生来の花好きであるということだ。(中略)もしも花を愛する国民性が、人間の文化生活の高さを証明するものとすれば、日本の低い層の人々は、イギリスの同じ階級の人たちに較べると、ずっと優って見える。」

江戸郊外を散策してのフォーチュンの感想で、日本の庶民文化の高さをほめているが、リーダー階層に関しては言及していない。この点は、今も昔も変わらず国際レベルに到達していないのだろう。

わき道に入ってしまったが、英国人から見た日本の美しさが新鮮に感じるのでどこかで紹介したい。

参考資料:『花の自然史』北海道大学図書刊行会 
第13章『花が季節や時を告げる仕組み』甲南大学 田中 修
※ 田中さんの文章は読みやすくわかりやすい。


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