浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

シモン・バレル ショパンのグランドワルツ

2006年12月16日 | 芸能
ショパンのグランドワルツ作品42を3分20秒台で演奏するスプリンターが居る。その名はシモン・バレル(指紋ばれる)といふけったいな名前だ。

バレル33歳の1929年にオデオンに残したSP盤と1949年カーネギーホールでのライブ録音がある。2オクターブ間を行き来する腕の見せ所を計ってみると前者が7秒0、後者が7秒3、ちなみに前回取り上げたダルベーアは9秒5かかってゐる。おそらく僕の知る中では最速記録だ。

ちょうど20年後の1949年11月18日のカーネギーホールでのライブでは3分40秒
と少しタイムが落ちてゐる。それもそのはずで、初めの序奏部をオクターヴ上で弾き始め、原曲の高さで反復して、その後も少しじらすやうにゆっくりとしたテンポで演奏してゐる。

スタジオ録音よりもライブの方が本領を発揮できるタイプなのだらう。ホフマンも同じタイプだが、ホフマンをサーカス団員と思ったことは一度もない。そのあたりは微妙に、しかし非常に重要な違いがあるやうに思える。

キタイン、ソフロニツキや若き日のギレリスなどと通じる露西亜ピアニズムを感じる。サーカス小屋で鍛えた強靭なタッチとスーパーテクニックの持ち主で、本来のショパン像とは相容れないものがある。一時期、強靭なタッチで弾き飛ばす間違ったショパン演奏がもてはやされたこともあったが、きちんとした時代考証を経て、最近ではショパンをそのやうに扱うことは禁じられてゐる(我が家での話である)。

しかし、いつも歌舞伎や能楽を鑑賞していると時には吉本新喜劇を観たくなるのと同じで、たまにはサーカス小屋へ出向いて、シモン・バレルのやうなアクロバットを聞きたくなるものだ。

さすがに芸もここまでくると本物で、このテクニックを批判することは間違ってゐる。だたし、ショパンよりは、バラキレフ、ゴドフスキ、プロコフィエフなどをバリバリやってもらった方が良いとは思ふのだ。憂さ晴らしにはもってこいの演奏である。

盤は、英國Appian P&R社のリマスタリングCD CDAPR7009とCDAPR7014。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。