ぎんぐの紅茶

紅茶初心者の奮闘記

グリーン・レクイエム(新井素子)

2010年02月06日 | お茶が出てくる本&紅茶関係の本レビュー
カプチーノが効果的に使われている作品といったらこれ!
以下、カプチーノが出てくるシーン。
舞台はヒロインの明日香が経営する喫茶店。
明日香は、店のピアノで葬送行進曲を一心不乱に弾いていたところ。
(ある意味クライマックスのシーンなので、ネタばれを避けたい方はここから先は読まないで下さい)


「リクエストしたいな」
ふいに声がして、振り返る。嶋村さん。どうしてこの人は、こう心臓に悪い登場のしかたをするんだろう。
「いつ、いらしてたんですか」
「今」
「全然気がつかなかった……。コーヒー、ですか?」
「ピアノに熱中していたようだから、そっとはいってきたんだ。今日はね、少ししゃれて……カプチーノにしよう」
カウンターの奥にひっこんだあたしに、さらに嶋村さん、しゃべりかける。いつもより饒舌ね。
「しかし、この店の雰囲気で、葬送行進曲なんて弾くと、似合いすぎて不気味だな」
「うふ。あたしもそう思ったんです。リクエストっていうのは?あんまりむずかしいの、弾けませんよ」
「いつかの曲ーーグリーン・レクイエムっていったっけ、あれ弾いてほしいんだ。あれ聞きながらなら、言えそうな気がする」
「何を」
「弾いてごらん。言ってみるから……何やってんの」
カウンターの中をのぞきまわっているあたしの姿を見て。
「シナモン・スティックがね……どこいったのかしら」
「いいよ、別に、普通のスプーンで」
「でも……」
カプチーノなんて注文する客、滅多にいないから。
(中略)
「想い出してくれた?」
「何を」
自分の声がふるえていてーーまるで泣き出す寸前だと、いやという程よく判った。あたしは、やっとみつけたシナモン・スティックの箱に手を伸ばす。
「笑ってもいいよ」
嶋村さんは、あたしから視線を外す。
「僕は、ずいぶん長いことーーずっと、その少女に恋をしてきた」
シナモン・スティックが床一面に落ちた。何本も転がってゆく。
「明日も、明後日も、ずっとあの公園に散歩に行くよ。それでもし……まあ、いいか」
嶋村さん、立ち上がる。あたしは転がってゆくシナモン・スティックを目でおっていた。
(「窓のあちら側」新井素子 出版芸術社 pp.18-19)


これを読んだ当時、カプチーノやシナモンスティックなんて聞いたこともなくて、その言葉の響きに憧れた。
そして、「いつか大人っぽくカプチーノを飲むんだ」なんて思ってた。

数年後、念願叶ってカプチーノを飲んだら「くさーい」と涙目になったけど。
きっと、インスタントの粉末カプチーノだったからまずかったんだと思う。
文中のレシピどおりの「エスプレッソにシナモンスティックを入れる」だったら、「くさーい」にはならない気がする。
今度、喫茶店でちゃんとしたカプチーノを飲んでこよう。
(いまだにちゃんとカプチーノを飲んだことがないので)

新井素子作品は、紅茶が出てくる話が多い。
その紅茶話をまとめたサイトがこちら(↓)。
黒猫軒より、「黒猫軒練馬店」→「7.Tea For You」
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