梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

『音の会』千穐楽

2008年08月10日 | 芝居
昨日初日をむかえた『音の会』も、もう千穐楽です。
2回しかない本番。緊張がかってしまう1回目と、これからいい意味で慣れてくるハズの2回目。
その2回で、全てが終わってしまう…。
自分の出来に納得ゆかず、「もっとやりたい!」という声があちこちでおこるのも無理はない話です。
かくいう私も、<琴唄>の下座で幕が開く、御殿の雰囲気にようやくとけ込んできたところで、卿の君のお役とお別れとはなんとも寂しい限りです。こうしようああしようというのではなく、もっとその場の空気に馴染めることができただろうにと、今さらながら悔やんでおりますが、今の段階で、出せる力は出したつもりです。

まさか着ることはないだろうと思っていた<赤姫>の衣裳を身にまとうことができて幸せでした。あまり携わることのない『弁慶上使』というお芝居を勉強できましたことも大変有難く思っております。
つくづく思いましたことは、出番の短いお役ほど難しいということでした。お役にふさわしい雰囲気をその短い時間で出せるか。それには技術とか演技プランとかとは別物の、<作らない>、身に付いた空気みたいなものがものをいうのでしょうね。もっと人間を磨かなくては! 大きさとか、豊さとか…。

この経験を、10日後の『合同公演』に活かしてまいります。
『勢獅子』の芸者<らしく>踊れるか?
ラストスパートです!!

『音の会』初日

2008年08月09日 | 芝居
本日『第10回 音の会』の初日の舞台を無事に終えることができました。
おかげさまで、今日、明日の2公演はすべて完売満員御礼! 有難いことでございます。
卿の君役も、気負わず、自然にできましたが、果たして<かしずかれる存在>になっていたかどうか…。
明日で終わってしまうのが残念ですが、悔いのないよう勤めたいと思います。

今回この『弁慶上使』には、現在研修中の19期生8人が腰元役や黒衣の後見で参加しております。彼らも研修2年目に入り、より実践的な舞台実習ということです。
私も上手屋体の障子の開閉や着付の手伝い等でお世話になっておりますが、みんな一生懸命で気持ちがいいですネ。
『稚魚の会・歌舞伎会 合同公演』にも出演いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

『音の会』いよいよ本番

2008年08月08日 | 芝居
<音の会>『弁慶上使』の初日通り舞台稽古でした。
生まれて初めて“赤姫”の拵えをさせて頂きましたが、なんとマァその重いこと! 衣裳は緋綸子に金糸銀糸でふんだんに縫い取りがされ、打掛も着る。鬘は産褥にあるということで“下げ髪”に“病鉢巻き”…。この卿の君は、まだ幕開き10分ほどで出番を終えますし、座ったままで動きがないのでので負担ははるかに少ないのでしょうが、『十種香』や『鎌倉三代記』あるいは『妹背山道行』。演者によっては『吉野山』の静でも同様の拵えで動き、踊り、長時間の芝居をする。そのことに、どれほどのご負担がかかっているのか、今日初めてわかった次第です。
打掛の中とか、下げ髪の内側に、熱がこもるのですね~。じっとしているお役でも、いつしか汗が…。

とりあえず、何事もなく自分の出番を終えましたが、明日からの本番はもっと落ち着いて、その役を<演じる>のではなく、その役に<なって>舞台に出られたらな…。

舞台稽古後は松濤へ行き、宗家稽古場で『勢獅子』の稽古。
今日は鳶頭も揃いましたので、一通り本番通りの進行で。
御宗家のおはからいで、稽古用の衣裳を出して頂きました。いざ本番同様に裾を引いて踊りますと、その捌き方に気をとられたり、思わぬ所で足にからんだり引っ掛かったりして、振りに集中できなくなってしまいますが、過去に『双面』でお引きずりの踊りを勉強させて頂いたおかげか、それほど苦しむことなくできました。
といっても、体の使い方、形、まだまだ課題ばかりです。御宗家のおっしゃる<背中と腰を使う>踊り方。全然できていません。自分に負けることが一番悔しいので、なんとか今より一歩でも先へ! とにかく今は、苦しいけど頑張るしかないのです!

あれから10年も…(渡辺美里)

2008年08月06日 | 芝居
本日<第10回 音の会>の“顔寄せ・附立”。
いよいよ追い込みでございます。

顔寄せの際に、国立劇場芸能部長である織田紘二氏が御挨拶なさいましたが、<音の会>は、氏が調査養成部にいらした平成11年に、記念すべき第1回目の公演を行いました。それがついに10回目を迎え、夏の恒例公演として定着したことを喜んで下さいました。
実は私も、この第1回公演での『双蝶々曲輪日記 引窓』に、老母お幸を勉強させて頂き(まだ18歳でしたが)ましたので、この会には大変思い入れがあるのでございます。もう10年が経ったのか…! 月日の経つのは早いもの、という月並みな言葉が、大変な実感を伴って迫ってまいります。
その第1回公演に、女房お早で共演した坂東玉朗さん、『草摺引』の舞鶴を踊った中村京三郎さん、同期とともに節目の公演に出演できる有難さをかみしめております。今後ともこの会が続いてゆくよう、演奏陣の皆様とともに、精進を重ねてまいる所存でございます。

それにしても10年…。本当に、いろんなことがありました。

雷雨におびえながら

2008年08月05日 | 芝居
『弁慶上使』のお稽古に、竹本の皆様もご参加下さいました。
私たちの勉強の場でもある<音の会>ですが、本当の主役は会名が示す通り、竹本さん、長唄さん、お囃子さんといった<歌舞伎音楽>の皆様です。
竹本の皆様も、これまでお忙しい中お稽古を重ねてきたわけですが、今日はじめて演者と奏者が揃いましての“手合わせ”というところでしょうか。『弁慶上使』では、多くの義太夫狂言がそうであるように、太棹の三味線に合わせての演技、あるいは<ノリ地>のセリフが多数出てまいります。そういうところの間合いを確かめ、必要に応じては、お互いやり方を変えるなどして、流れをまとめてまいりました。

やっぱり音が生になると気持ちの入り方が違いますね。お腹にデーンと三味線の音が響いてくると、もう一歩、お芝居の世界に入り込めるような気がしました。

…それにしても今日の豪雨は大変でしたね。残念ながら都内でも亡くなられた方がいらっしゃいましたが、国立劇場近辺も車軸を流す大雨と雷で、稽古場にもゴロゴロ雷鳴が響き渡っておりました。
そんななか松濤の宗家稽古場にゆくのは、さぞや濡れ鼠になるだろうと思っておりましたが、運良く私たち芸者一行が劇場を出る頃には小やみになり、傘をささずに歩けたのは助かりました。
ちょうどA班の鳶頭、升一さん音一郎さんたちのお稽古も始まる頃で、昨日「まだ拝見できていない」と書いたお二人の踊りぶりが見られて良かったです(共演者がどんなふうに踊るか、気になりますでしょ?)。

予想通り、二人とも汗びっしょりでした(笑)。
やっぱりお獅子は大変だァ。相当中に熱がこもるみたい。
お二人はまさに直球勝負。ホント格好良かった~!


やることがいっぱい

2008年08月04日 | 芝居
お昼過ぎから国立劇場の中稽古場に師匠がいらっしゃり、10月歌舞伎公演『大老』の宣伝写真撮影。師匠は、播磨屋(吉右衛門)さんが主演なさる井伊直弼の友人、長野主膳をお勤めになります。動乱の世を冷徹に見つめ、日本が将来を誤らぬよう、犠牲をしいてでも開国への道を貫くよう進言する学者のお役です。それらしい雰囲気を、ということで、和綴じの書籍を手にしたポーズで。どんなポスター、チラシが出来上がるのでしょうか?

『大老』は新歌舞伎の作家として有名な北条秀司先生の大作で、先行作であり今でもよく上演される『井伊大老』を加筆増補し、井伊直弼の半生をより深く描いたものなのだそうです。
私は、まだ『井伊大老』しか存じませんので、どのような舞台になるのか、今から楽しみです。

撮影終了後は『弁慶上使』の稽古。だんだんお芝居の雰囲気に慣れてきました。セリフもあまり気にしないで言えました。こんなかんじでスーッと本番までいきたいです。
…次は松濤へ行き『勢獅子』のお稽古。A班B班の芸者役4人で。普段は仲良しでも、ここではある意味ライバル。といってお互いが対抗意識出しまくりというわけではなくて、文字通り<切磋琢磨>の気持ち。みんなでいい『勢獅子』を作りたいな。
実は、お稽古の都合もあってまだ鳶頭の皆さんの踊りを拝見してないんですが、何パートも踊る部分があります(しかも激しく)から、さぞや汗だくになっているのでしょう。私は私で先生のダメ出しに冷や汗脂汗ですが…。



本格始動です

2008年08月03日 | 芝居
昼過ぎから、松濤の藤間御宗家のお稽古場で『勢獅子』の稽古。
<芸者おこう>役の中村歌女之丞さんと、初めて一緒に踊りました。
今回の振付けでは、芸者2人は連れ立って花道から出て、七三でのひとくさりがございます。これまでは相手が<いるつもり>で、ひとりの稽古をしてきましたが、やっと2人で振りを合わせることができ、あちらがどのようなイキで踊られるか、居所の取り方など、踊りながら確かめて…。今日はまだこなれませんでしたが(私の順応力不足です!)、これから徐々に合ってくると思います。
今日は勘祖師が見て下さり、沢山ダメを頂きましたが、形や動きに対するのではない、「(芸者は)お洒落に踊るのよ」という言葉の難しさ…。初日までにはなんとかそうなりたいのですが。まだまだ数をこなさなければいけません。とにかく振りを体に馴染ませて、気持ちと動きがつながるように…。

稽古後は国立劇場へ。大稽古場にて音の会『弁慶上使』のお稽古。卿の君は、この前よりかはゆったりした気持ちで取り組めました。なにせセリフはひと言で、このセリフで失敗したら取り返しがつきません。姫、私は姫、高貴の姫…。お稽古に臨む前はそう言い聞かせお腹をつくっておき、芝居が始まったらなにも考えずに自然体で。本当に、<品格><位取り>というものは、作って出せるものでないので大変です。

今日は『弁慶上使』の他に、『車引』や『番町皿屋敷』のお稽古もあり、役者控え室はとっても賑やかでした。久しぶりに会う仲間もいて、それぞれの7月の舞台のことを聞いたりして。大阪も国立も、比叡山薪歌舞伎や東コースも、それぞれ楽しい思い出が生まれたようで…。

『囃子の会』本番

2008年08月02日 | 芝居
午後から歌舞伎座におきまして『囃子の会』でのお仕事。
能楽囃子葛野流大鼓方の亀井忠雄師と、歌舞伎囃子田中流の田中佐太郎師のお二人が主催なさるこの会は、歌舞伎と能のジャンルをこえての演奏陣による演目が並びます。

この度師匠は長唄『鶴亀』(振付は藤間の御宗家)に皇帝役でご出演。萬屋(梅枝さん、萬太郎さん)ご兄弟の鶴・亀、部屋子の梅丸の従者。私は<着付後見>をさせて頂きました。
六月の博多座出演中からお稽古がはじまり、先月の巡業中もお稽古や下ざらいがありまして迎えた本番(今日のお昼には舞台稽古も)ですが、やはり本番一発勝負の後見には緊張いたしました。
おかげさまで何事もなく勤め上げることができましたが、歌舞伎座の舞台にしつらえられた、能舞台を模した装置での上演は普段とはまた違った趣きで、気の引き締まる思いでした。

『音の会』初稽古

2008年08月01日 | 芝居
第十回『音の会』での「弁慶上使」の稽古がはじまりました。
全ての出演者が揃っての稽古は今日が初めてです。監修・指導の加賀屋(魁春)さん、指導の高麗屋(錦吾)さんもお見えになり、国立劇場大稽古場にて。

私は幕開きに登場いたします“義経の室 卿の君”を勉強させて頂きます。短い出番ですが、この、義経の子を宿した姫君のために、武蔵坊弁慶はじめ、侍従太郎夫婦、おわさ、信夫の運命が大きく変わるということを考えますと、あだや疎かにはできない存在でございます。動きはほとんどないので、たたずまいや雰囲気が高貴の育ちらしく見えるよう、品と格に重々注意して、その場にしっかりと“いる”ことができるよう努力します。大旦那、6世歌右衛門のおわさで度々卿の君と信夫をお勤めになった加賀屋さんに教われるのは大変有難いことでございますが、今日は、セリフを<お姫様らしく>言うようにご注意を頂きました。常にもまして鷹揚に、ゆったりと! そこに気持ちもしっかり込めて…。

市川新蔵さんは昨年の『勧進帳』に引き続き2年連続の弁慶役。一門の先輩、歌女之丞さんが針妙おわさ。同期の坂東玉朗さんが信夫。『勢獅子』でも共演する、先日結婚したばかりの市川升一さんが侍従太郎でどっしりとした立役に挑戦。尾上徳松さんが奥方花の井で支えて下さいます。
このメンバーが一丸となって、盛夏の三宅坂で義太夫狂言に取り組みます。なにとぞご声援のほどお願い申し上げます!