梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

ときには舞台に出ることも

2007年04月13日 | 芝居
舞台上での様々な仕事をこなす、見えない“つもり”の存在<黒衣>。主演者の弟子が勤めるのがもっぱらですが、なにも役者だけがこの“作業着”を着るわけではないという例が、今月2演目も上演されております。
『祝年當春駒』と『男女道成寺』なんですが、さてどのような仕事で誰が着ていると思いますか? このふたつのお芝居では、劇中、舞台上での拵えがえがございます。『春駒』では、萬屋(獅童)さん演ずる曾我五郎が、浅葱色の頭巾姿から<油込前髪>へと髪型が変わり、『男女道成寺』では、松嶋屋(仁左衛門)さんが、白拍子の<文金高島田>から、男の本性を現すと、髷を後ろへ垂らした<茶筅>となるのですが、このように、鬘の掛けかえが行われます場合、床山さんが黒衣姿で舞台に出て、掛け外しの仕事を勤めるというわけなんです。
以前も申しましたが、歌舞伎はしっかりとした分業制でなりたっています。鬘のことは床山さん、衣裳のことは衣裳方さんというふうに、それぞれの担当の方の技術と経験を尊び、他の者は手出しをしないのが礼儀でありけじめなんです(もちろん補助的な作業はいたしますが)。舞台の上でも楽屋での支度の時と同じような仕事ぶりを見せることはままあるのです。とはいえ、後見の<消し幕>や、取り囲む所化たちの姿で目隠しをしておりますので、客席から見えるということはございませんがね。
他に床山さんが舞台に出る演目としましては、『弁天小僧』の浜松屋や、『外郎売』など。床山さんに限らず、衣裳方さんも舞台に出ることがございます。

ちなみにこういう場合に床山さんが着る<黒衣>ですが、自分専用のを持っている方もいらっしゃるそうですが、衣裳として衣裳方から借りることもあり、また床山部屋で保管されている共用のものもあるそうで、出どころは様々、ケースバイケースだそうです。私たち弟子の立場の者は、各自自前のものを持っています。

受け取って下さい

2007年04月12日 | 芝居
『男女道成寺』で<手拭撒き>をいたしております。
中盤の見せ場<クドキ>が終わりますと、それまで男女の恋心をしっとりと踊っていた白拍子と狂言師が、後見から受け取った手拭を客席に放って退場、長唄三味線の長い合方の演奏中に、所化も全員立ち上がり、お客様に手拭をお渡しするのです。
この手拭は、今月この演目のために誂えた品。主演でいらっしゃる松嶋屋(仁左衛門)さん、中村屋(勘三郎)さんにちなんだ柄になっておりますが、その詳細は、運良くキャッチできた方だけのお楽しみとさせて頂きます。
舞台と客席との交流といってもよいこの趣向、もちろん本家『京鹿子娘道成寺』でもお馴染みですね。主演者のみが撒いて、所化は何もしない場合もございまして、それはその時々の意向によります。
私にとっては初体験の手拭撒き。遠くに放る方も多うございますが、私はあえて近くの方々にお渡ししております。ご希望なさっている方の中で、目が合った方には必ず受け取って頂きたく、狙いを定めて投げるのですが、こちらがノーコンなもので残念な結果に終わることもあり、申し訳なく思っております。

細かいようですが、手拭の撒き方は<下投げ>で統一されております。お楽しみのひとときも、あくまで品よく砕けすぎず、ということですね。

目のやり場

2007年04月11日 | 芝居
昼の部『男女道成寺』に所化役に出させていただき、松嶋屋(仁左衛門)さん、中村屋(勘三郎)さんの舞姿に、ごくごく近い場所で接しておりますが、登場人物としての所化で舞台におりまして難しいのは<視線>の置き所でございます。
並びの腰元、諸士など、立役女形それぞれに<控える>お役は多うございます。そのようなお役は、いわば舞台の背景であり、決して主役の方々の邪魔をしない居ずまいを要求されまして、心もち伏し目がちにしたり、顔を正面に向けずうつむき加減にするなど、脇役としての心得が色々ございます。
『道成寺』の所化も、舞台の上手下手に敷かれた緋毛氈の上で、やはり同様にして控える場合が多いのですが、今回は主演者から「踊る姿を見るように顔を向けてほしい」とのご指示がございました。確かに踊りと無関係に視線をはずしておりますと、白拍子に化けていた狂言師がボロを出すくだりが活きなくなってしまいますよね。踊りを見ていたから、異変に気がつくわけですから。
そこで今月の所化一同は、舞台中央へやや顔を振り、視線を向けるようにいたしているのでございますが、といって、お生(リアル)に踊られる方を見てしまうと、今度はお客様から見た様が悪くなってしまいますし、歌舞伎演技の約束事からも外れてしまいます。あくまで、<見ているように見える>顔の角度、視線の向け方をしなくてはなりませんで、ここが最初に申した難しさなのです。
座る位置が舞台中央から離れるほど、顔を大きく振らなければなりませんが、(こんなに振って大丈夫かな)と不安にもなります。またともすれば顔を振らずに目玉だけ中央へ向けてしまいがちになるものですが、これはお客様から見ると大変目つきが悪くなること。かえってお芝居の邪魔になってしまいます。
舞台上のある箇所に文字どおりの目星をつけて、それを見続けるようにしておりますが、本当に、<見る>演技は苦労します。

シンの芝居と無関係にならず、それでいて邪魔にならない存在になる…。
どんなときでもそうなんですが、一番ハードルの高い課題ですね。

忘れないように…

2007年04月10日 | 芝居
今月の踊りのお稽古は今日で終了。夜半の、そして長時間のお稽古ともお別れです。5日間で教わったことは、来月までしっかり覚えておかなくては!
なかなか<一心會>のご案内ができず失礼をいたしております。番組などの詳細が全て決定次第発表させて頂きたいので、今しばらくお待ち下さいね。

発表寸前…!

2007年04月09日 | 芝居
今日は午後7時半から、国立劇場にて夏の合同公演へむけての会議。前回の会議で総出演者の中から選出された幹事、および各上演演目ごとの責任者が集まりまして、主なるお役以外の諸役(普段でも私たちが演じるようなお役)、および後見等の割り振りをし、<香盤表>を作製いたしました。これがけっこう大変な作業でして、各々の出番に支障がないようにした上で、なおかつ全員が、ただ自分のお役を勤めるだけではなく、黒衣でも裃後見でも、あるいは笛や仕掛けの操作、衣裳の着付けの手伝いなどでも、なにがしかの仕事が与えられるよう差配してゆくのは、パズルゲームを解いてゆくような趣きでした。難しい後見は、やっぱり経験を積んできた先輩方にやってほしい、といって他のお役で、みんなを引っ張ってくれる人も必要…。この仕事はこの人に任せられるかな、若い後輩にはどんなお役がよき経験になるだろう? と、皆で話し合いながら、ひとつひとつ決めてまいりました。
昨年も申しましたかもしれませんが、勉強会は決してお仕着せの公演ではございません。国立劇場はじめ、関係各位のお力をお借りしているのは申すまでもありませんが、演目選定、配役をはじめとする会の運営、チケットの販売、宣伝、経理に至るまで、同人が協力しあって、自分たちで決めながら運営しているのでございます。
40人以上の同人が、心をひとつにして行動するということが、なかなか難しいのは事実。さりながら、初日が開くまで様々な意見、思惑が飛び交いながらも、舞台が好き、芝居が好きという想いが皆々の胸にあるからこそ、最後の最後で大きな力となって、盛夏の公演が無事乗り切れているのです。
もう少しで公演の詳細が発表できると思いますが、今年の公演は、今まで以上に私たちの<決意>と申しましょうか、総力をあげて取り組むという<気概>をお見せできると思います。どうかお楽しみに!!

3時間半かかった会議後は先輩と食事。やはり日付を越えての帰宅となりました…。

連日びっしりと…

2007年04月08日 | 芝居
本日も11時過ぎまでのお稽古となりました。渋谷発の終電で帰宅。そのおかげといってはなんですが、お稽古はどんどん先へ進みます。私は8月まで東京にいられるので、今後のお稽古に支障はないのですが、地方公演で東京を離れる仲間も多うございます。そんな人たちのために、今のうちに進めるところまで進めておこうという御宗家のおはからい、無にしてはなりません。
振りはともかく、台詞(お狂言ものにも出させて頂きます)をちゃんと覚えなくては…。

踊りあかして渋谷の夜

2007年04月07日 | 芝居
昨日から藤間の御宗家での踊りの稽古が始まりました。
御宗家に通う役者さんは、名題下でも10人あまりおりますが、今月は歌舞伎座夜の部『角力場』での出番を終えてから駆けつける者ばかり(私は『口上』がすんでからですが)。午後8時過ぎからという決して早くはない時間から、続けて何組も稽古して下さる有難さに、どこまで報いることができるでしょうか。夏の<一心會>へむけての稽古が、だんだんと本格化しております。いずれこの場を借りてご案内させて頂きますが、貴重な経験を積ませて頂く<踊りの勉強会>。稚魚の会・歌舞伎会の合同公演とともに、盛夏に大汗を流すのは必至、とにかく精進あるのみでございます。

昨日は稽古初日ということで、各人の順番もまとまらず、最後の稽古が終わったのは午後11時でした。御宗家にはお疲れのところを長々とお稽古して頂き、大変申し訳なく思いました。私は帰宅が0時を過ぎてしまいましたが、御宗家のお疲れに比べればなんのなんの…。
今日7日は、順番も整理され、少しは早くに終わるようになりましたが、一日の終わりに踊りで汗を流すのは、稽古の出来不出来は別としましても、なんとも気持ちがよいものです。

渋谷は休日ということもあり大変な人ごみでしたが、投票を明日に控えた知事選候補者が最後の街頭演説とやらで、ますます往来が混み合っておりました。そうか、明日は投票日か…。行かなくてはいけません、よ、ね…。
写真は鍋島松濤公園の夜桜です。

銀座逍遥

2007年04月05日 | 芝居
またぞろ芝居とは関係ない話で恐縮ですが、ちょっと感激したこと…。
『男女道成寺』のあとの空き時間、花四天に出ていた後輩と遅まきの昼食を一緒に食べようと言うことになり、プラプラと歩くうち、銀座「山野楽器」の裏の通り沿いに、「グリル スイス」という洋食屋さんがあったので入ってみたらこれが大当たり! 本日のランチだったメンチカツは、サックリ軽い衣、ジューシーで雑味のない肉、コクがあって飽きのこないデミグラスソース、どれをとっても申し分ない出来映え。付け合わせのスパゲティサラダ、クラムチャウダーも手作りの美味しさにあふれ、幸せなひとときを過ごすことができました。後輩が食べた「千葉さんのカツレツカレー」(元巨人軍選手 千葉茂さんが愛した一皿で、これが本邦カツカレーの端緒という説もあるそうです)もたいそう旨かったとのこと。豊富なメニューはどれもお手頃な値段でしたので、これからちょくちょくお邪魔しようと思います。

そのあと立ち寄った銀座和光6階ホールの『岩井香楠子染色展』も素敵な企画。型染め、絞り染めで描き出された草花や幾何学文様の繊細さに驚くと同時に、中間色を主にした地色の配色の妙にうならされました。本当に<品のよい>、清楚な趣きの着物ばかりでございましたが、舞台衣裳としても十分通用するのではないかしら、と思う作品も多々ございましたよ。
…ホールへ向かうエレベーターの中で、本当に「オホホ」と笑うマダムに遭遇、驚きました。こういう人が、銀座を支えているのでしょう(たぶん)。

無惨や雨に…

2007年04月04日 | 芝居
朝からの曇り空、肌寒さに<花冷え>なんて言葉を思い出しておりましたが、夕方の通り雨には全くまいりました! 劇場近くのスターバックスの地下フロアで読書をして過ごし、そろそろ帰ろうかと階段を昇れば土砂降りではありませんか。傘を持ってこなかったので仕様がなしにそのまま飛び出しましたが、上着も靴もすっかり濡れてしまいました。器量がよければ2月の定九郎よろしく<絵になる>ところですが、悲しき生まれつきゆえみすぼらしいのみ。挙げ句の果てには楽屋で笑われる始末、悔しいので犬のように頭を振り回し、飛沫を掛けてやりました(←やや誇張あり)。

冗談はさておいて、今日は大道具さん主催のお花見なのですが、開催されるのかしら。終演後に開始ということでしたが、今はもう雲も晴れたようですから、きっと決行されるのでしょう。若い大道具さんが「何がなんでもやっちゃいます」と言ってましたし…。
おそらく今日の雨で桜は散ってしまったことでしょう。ちゃんとしたお花見をしないうちに、今年の桜は終わってしまいそうですが、『男女道成寺』の舞台に出ていますので、書き割り吊り枝花笠と、作り物の花見をすることにいたしましょう。

とりとめない文章で失礼しました。

新たな名前で

2007年04月03日 | 芝居
今月の名題下部屋には、54人の名題下がおりますが、先月3年間の研修を終えた18期生6人も、晴れて正式な歌舞伎俳優として加わり、昼夜の舞台に出演しております。
当然のことながら、歌舞伎俳優になった者は皆々芸名を名乗るわけですが、私たち名題下の立場の者でも、師匠から芸名を頂いてから初めて出る公演では、その<名披露目>をするのが慣例となっております。
といって決して大仰な儀式やらしきたりがあるというわけでなく、その興行で一緒になる名題下俳優全員、その他関係各位(これからお世話になるであろう方々)に、品物をお配りし、「◯◯という名前になりました。どうぞよろしくお願いします」と挨拶をするというものです。これとあわせて、名題下部屋での古参の先輩から、あらためて「この人が今度◯◯になりました」と披露をして頂くことも多うございます。
思い起こせば私も8年前の平成11年1月歌舞伎座、同期の中村蝶之介さん、中村吉二郎さんと一緒に披露いたしました。新しい名前での第一歩は、晴れがましくもあり、緊張もし…。あの頃の日々はとても懐かしいです。
また、師匠の襲名にともなったり、ときには移籍などにより、改名をする場合もございますが、その時も、改めて披露をすることがもっぱらです。当月も萬屋(新・錦之助)さんの御襲名にともない、お弟子さんがお名前を変えられまして、お披露目がなされました。

<名披露目>は、師匠、そして兄弟子方のお力添えなくしてはできないものです。ですので、師匠とともに出る興行のときにしかできません。18期生6人のうち、師匠が歌舞伎座出演中の3人が今月の披露、師匠が出ていらっしゃらない3人は本名ですが、この後順次披露することになります。

皆さんこれから頑張って欲しいですね。もちろん私も負けません(気持ちだけ)!

春芝居はじまる

2007年04月02日 | 芝居
『四月大歌舞伎』初日。昼夜ともに盛況のうちに幕となり、有難い限りです。
侍女、所化ともども、まずは無事に勤められました。これに安心せず、少しずつでも進歩してまいりたいものです。
『男女道成寺』では、クドキのあとの手拭撒きを、初めてさせて頂いております(以前出演した『娘道成寺』では手拭撒きをしなかったんです)が、お客様の反応を、本当に間近に拝見できるので新鮮な体験でした。ひとり4本ずつ投げますので、1階席のお客様はお楽しみに。
2代目中村錦之助さんの襲名披露『口上』では、22名の幹部俳優さんが居並ぶ壮観。これも歌舞伎座ならではでしょう。御先代の思い出や御当代の幼少の頃のお話など、舞台袖で拝聴していて大変興味深うございました。

自分の出番は昼の部で終わりですし、空き時間もあり、師匠も夜は『口上』のみですので、今年の春はいくぶんのんびり過ごせそうです(昨年は師匠5役に私が3役でしたからね~)。とはいえ夏の<一心會>の稽古や勉強会の準備などにもとりかからねばなりません。まずは体調を戻し、元気に乗り切ってまいりたいものです。

卯花月稽古場便り・終

2007年04月01日 | 芝居
『頼朝の死』『男女道成寺』の<初日通り舞台稽古>でした。
ジンマシンがおさまらないまま化粧をしても大丈夫かな…と大変不安だったのですが、白粉を塗ったからといって発疹が出るということもなく、痒み地獄に落ちずにすみホッとしました。
申し次ぎの侍女。稽古場とは寸法が変わりましたので、師匠の台詞のどの言葉をキッカケに自分が出てゆけばよいか、その判断が難しゅうございました。とりあえずこちらの見当で決めて、サアとばかりに出て行ったらちょっと早かった! 慌てかける心を鎮めて自分の台詞を喋りましたが、なんだか恥ずかしかったです。明日はもうひと言聞いてから出ることにします。

所化。開幕前に花笠踊りの件の居所合わせをいたしました。『男女~』は常磐津との掛け合いですが、その山台が下手にあります。いつもの『京鹿子~』よりも踊れるスペースが狭くなりますので、踊っている間も、自分の位置には十分気をつけないといけないようです。
座っている時間はそれほど長くはございませんが、私が座っている下手側は、先ほど申した常磐津の山台がすぐ背後にございますので、演奏中はマア大変な賑やかさ、浄瑠璃も三味線もビンビン体に響いてまいりました。…稽古中、大きなハエが顔面に飛び込んできて、思わずビクンと痙攣してしてしまいました。また恥ずかしいことばかり…。
肝心の花笠踊り、振付でいらっしゃる藤間の御宗家はじめ、客席からごらんになっていた先輩からも色々とご指導頂きました。ひとつの踊りを12人が踊るのではなく、12人でひとつの踊りとなるよう、私を殺して、癖を抑えて踊ることを課題としてまいります。

いよいよ明日から本番。皆様どうぞ歌舞伎座へ。2代目中村錦之助ご襲名のおめでたい舞台、華やかな演目でお待ちしております!