梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

目のやり場

2007年04月11日 | 芝居
昼の部『男女道成寺』に所化役に出させていただき、松嶋屋(仁左衛門)さん、中村屋(勘三郎)さんの舞姿に、ごくごく近い場所で接しておりますが、登場人物としての所化で舞台におりまして難しいのは<視線>の置き所でございます。
並びの腰元、諸士など、立役女形それぞれに<控える>お役は多うございます。そのようなお役は、いわば舞台の背景であり、決して主役の方々の邪魔をしない居ずまいを要求されまして、心もち伏し目がちにしたり、顔を正面に向けずうつむき加減にするなど、脇役としての心得が色々ございます。
『道成寺』の所化も、舞台の上手下手に敷かれた緋毛氈の上で、やはり同様にして控える場合が多いのですが、今回は主演者から「踊る姿を見るように顔を向けてほしい」とのご指示がございました。確かに踊りと無関係に視線をはずしておりますと、白拍子に化けていた狂言師がボロを出すくだりが活きなくなってしまいますよね。踊りを見ていたから、異変に気がつくわけですから。
そこで今月の所化一同は、舞台中央へやや顔を振り、視線を向けるようにいたしているのでございますが、といって、お生(リアル)に踊られる方を見てしまうと、今度はお客様から見た様が悪くなってしまいますし、歌舞伎演技の約束事からも外れてしまいます。あくまで、<見ているように見える>顔の角度、視線の向け方をしなくてはなりませんで、ここが最初に申した難しさなのです。
座る位置が舞台中央から離れるほど、顔を大きく振らなければなりませんが、(こんなに振って大丈夫かな)と不安にもなります。またともすれば顔を振らずに目玉だけ中央へ向けてしまいがちになるものですが、これはお客様から見ると大変目つきが悪くなること。かえってお芝居の邪魔になってしまいます。
舞台上のある箇所に文字どおりの目星をつけて、それを見続けるようにしておりますが、本当に、<見る>演技は苦労します。

シンの芝居と無関係にならず、それでいて邪魔にならない存在になる…。
どんなときでもそうなんですが、一番ハードルの高い課題ですね。