梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

大南北!

2009年09月05日 | 芝居
当月は昼の部に『時今也桔梗旗揚』,夜の部に『浮世柄比翼稲妻』が上演されておりますが、本年は両作品の作者である「大南北」四世鶴屋南北の没後180年だそうで…。

宝暦5(1755)年から文政12年(1829)までの74年の生涯のうち、劇作に携わったのは52年間。『東海道四谷怪談』『盟三五大切』『桜姫東文章』『天竺徳兵衛韓噺』などなど…奇抜な趣向とリアルな人物描写、からくりや早変わり、仕掛けを駆使した場面展開など、独特のスタイルと味わいをもつ作品は、今でも十二分に観客の心をつかんでおります。

いずれ当月の『桔梗旗揚』『比翼稲妻』のことはお話させて頂きたいと思っておりますが、この偉大なる南北翁の墓所が、我が家から徒歩1分もかからぬ地に祀られているというのが、なんともご縁の深いお話で、ちょくちょくお参りさせて頂いております。

浅草通りと四ツ目通りの交差点のすぐ脇(浅草側)、長養山春慶寺がその場所です。
お寺そのものはビルになっておりますが、南北翁のお墓は、その入り口の脇に、誰でも参拝できるように祀られており、一抱えもないくらいの墓石を囲む石垣は、歌舞伎俳優や興行関係者からの寄進によることがわかります。
由来書きもあり、立派な史跡となっておりますが、戦後のどさくさで、一時は無惨に朽ちかけていたこの墓所を立て直すきっかけをつくったのが、これまた数多くの歌舞伎脚本を残した、劇作家の宇野信夫さんだというのですから、因縁というかなんというか。

氏の随筆集『歌舞伎役者』(青蛙房)の、最後の2編が、南北の墓再建にまつわるエピソードです。氏と、ポマードで固めたオールバックの変わり者住職との、墓を巡るやりとりなど、とても面白いです。(宇野信夫さんの文章はとても素敵ですね。なんというんでしょう、よい日本酒のような香りがします)

皆様も、お近くにお立寄りの際は是非お立ち寄り下さい。
通りを挟んで、建設中の新タワーも見ることができますヨ。