梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

◯に井の字の紋所

2008年03月18日 | 芝居
考えてみると『鈴ヶ森』という狂言はなんとも不思議&物騒なお芝居で、水も滴る美少年白井権八が、雲助どもをなぶり殺しにする様を次々と見せるのが眼目で、もちろん、男気あふれる幡随院長兵衛との出会い、肚の探り合いから邂逅までが実際の筋なのですが、権八による、下座にあわせての暗闇の中の大量殺人の有様は、歌舞伎の演出で処理しているからこそ見せ場になるというもので、リアルに考えたらとても正視できませんね。
顔が削げ落ちる、腕は斬られる足は断たれる、首が胴にめりこむわお尻の肉は剥がれるわ、彼の刀はいったん抜き放たれると、幾人もの血を吸わなければ元にはおさまらないのでしょうか。

残酷な場面を残酷に見せず、かえってユーモラスに仕立て上げられているのは、思い切って古風な仕掛けの数々と、雲助役者の大らかでいて味のある演技のおかげでしょう。かの大南北の作でございますが、初演当時から今のような演じられかただったのでしょうか?
私の初舞台の月(平成10年5月歌舞伎座)も、このお芝居がかかりまして、私はまだ本名の時分、黒衣を着てほぼ毎日舞台袖から<定後見>をさせて頂きました。そんなこともあり、私にとりましてはとても印象深い演目のひとつでもございます。
白井権八というお役、今月のように女形の俳優さんがお勤めになることも多いお役。まだ<殺し(舞台上の、ですよ)>を体験したことのない私、ちょっと憧れのお役でございます。