梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

こんなところも…

2008年03月10日 | 芝居
1月に『助六由縁江戸桜』、今月は『廓文章』が舞台にかかり、奇しくも成駒屋(福助)さんが揚巻・夕霧と、東西の芝居の代表的な<傾城>役を続けてお勤めになっていらっしゃいます。

どちらも<伊達兵庫(だてひょうご。立兵庫とも言う)>という髪型で、様々な遊女の鬘の中でも一番豪華で、そのぶん重さもある鬘ですが、簪(かんざし)、笄(こうがい)といった挿し物は、両者それぞれに違いがございます。
1月『助六』上演時に、床山さんに教えて頂くまで存じなかったのですけれど、笄の先端部分が、東は耳かき状、西は三味線の撥状になるのだそうで。たしかに西の芝居である『廓文章』の夕霧の笄はそうなっておりました。



「東西の笄の先端部の違い」図は笄の先端部を描いたものです。髪に挿す下端部分は省略しました。

なお西の笄には、図に示しましたような紋が入るものと、入らないものがございます(『封印切』の梅川など)。
あと、夕霧の鬘の飾り物で言えば、銀でできた細い板が幾つも縦に連なった(縄のれんみたいな)<襟摺り>や、髷の根元に巻き付けてある、浅葱色と鴇色の鹿の子絞りのきれも特徴的ですね。こういう飾りの仕方は、こってりたっぷりとした上方の風情ならではのもので、東ではなかなかお目にかかりません。

紫縮緬の<病鉢巻き>は飾り物ではございませんが、夕霧というお役とはきってもきれない、大切な<風情>を出すアイテムですね。芝居の最後で、伊左衛門の勘当が解けた喜びに気鬱の病も晴れたということで、この鉢巻きを外して、打掛も着替えるのですが、このくだりでご用事を勤めますのが、今月の私の仕事。だんだん手慣れてはまいりましたが、なかなか緊張はとけませんな…。