梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

お悔やみ

2007年10月08日 | 芝居
本日、山城屋(坂田藤十郎)さんのお弟子さんの中村鴈五郎さんがお亡くなりになりました。享年60歳でした。
1年程前でしょうか、病をえて長期の休業となられて以来、ついに再びお会いすることなくお別れとなってしまいました。
鴈五郎さんは、まさに<大阪の役者>といった雰囲気をお持ちの方で、舞台でも楽屋でも、得難い味の持ち主でいらっしゃいました。『曾根崎心中>の序幕、敵役の九平次に詐欺の濡れ衣を着せられた徳兵衛が、トボトボ帰る背中へ、『騙りめ!』と罵声を浴びせる町人役。その言葉のイキと迫力は、余人を持ってかえがたいものでございました。

亡くなられた方の思い出として、ふさわしいものかどうかはわかりませんが、松竹座の名題下部屋、おりしも風邪が流行りだした冬の頃とて、イソジンでうがいしている鴈五郎さんに誰かが話しかけまして、鴈五郎さんうっかり『そやそや、…アッ、(イソジン)呑んでしもた!』
鴈五郎さんのおおらかであったかい人柄が偲ばれるこのエピソードを、覚えている仲間は多いはずです!

またお一人、大切な先輩が旅立たれてしまいました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。