千穐楽を明日に控えて、『十一段目』の討ち入りで締めくくりたいのはヤマヤマなんですが、今回私は塩冶浪士として仇討ちに参加しない<不忠者>でございます。出ない芝居のことをあれこれ申すのもおこがましいので、ふりだしに戻る、というわけではございませんが、最近気がついた『大序』のことをお話しさせて下さいませ。
鶴岡八幡宮の境内に居並ぶ、高師直、桃井若狭之助、塩冶判官、そしてその他の大名大勢、これらの役々は、みな同じ扮装をしております。白羽二重の襦袢に織物の着付、その上に、幅広の袖に大きく紋を染め抜いた<大紋(だいもん)>を羽織り、長袴をはく。頭にはうしろに折り曲げた形の大きな烏帽子、<引き立て烏帽子>をかぶるという出で立ちですが、皆々同じ拵えでも、実は微妙に違えているところがあったんですね。
まず生地の素材。若狭之助、判官は、<精好(せいごう)>という織り方の絹製の大紋、長袴なんですが、師直だけは麻、そして私たち名題下が勤める<並び大名>は木綿になっているのです。素材が違えば、同じ形でも自ずと見た目、受ける印象は変わりますよね。その違いで、役の身分の上下、あるいは役柄(麻だとゴワゴワした感じが出て強く見える)を表現する工夫なんですね。
それから、師直の<引き立て烏帽子>だけは、後ろに折るだけでなく、真ん中から先の部分を巻くように折り畳んであって、幅が狭くなっています。これは小道具方に質問してみても明確な理由はわからなかったのですが、私思うには、師直は老け役ですので、大きなままの烏帽子ではそれらしく見えないからなのではないかと…。あくまで私見ですので、これから調べてみようと思います。ちなみに烏帽子の紐と鉢巻きの部分が、やはり師直のみ紫色になりますのは、高位をあらわすのと、大紋の黒色との色合いの具合でしょう。
さらにもうひとつ師直の烏帽子のことで申せば、どの役の烏帽子にも、全体に皺がつけられているのですが、この皺が、師直のものは他の役よりもあらくなっております。見た目としては他のよりも<強い>印象を受けますが、これも役柄の表現なのでしょうか。
大名は全員<中啓>を懐にさしますが、並び大名は地紙の模様が鳥の子や群青、浅葱色の地に金銀砂子散らしのものですが、師直、若狭之助、判官は、それぞれの紋を散らすことに決まっています。すなわち師直が<五三の桐>、若狭之助が<四つ目結>、判官が<丸に違い鷹の羽>で、これらが鳥の子地金砂子散らしの地紙に描かれますが、これが表側の模様で、裏はただの砂子散らしで紋は入りません。裏側の地紙の色は3役それぞれ決まっており、師直は茶、若狭之助は紺、判官は緑なのです。
主要人物の小道具とはいえ、1回も舞台上では開かない中啓にまで決まり事があるというのも、このお芝居の重さがわかって面白いですね。
正座の行もあと1回です! 無事にここまで勤められたことを感謝しつつ、今夜はこれから同期会です!
以上、SEATTLE'S BESTからでした。
鶴岡八幡宮の境内に居並ぶ、高師直、桃井若狭之助、塩冶判官、そしてその他の大名大勢、これらの役々は、みな同じ扮装をしております。白羽二重の襦袢に織物の着付、その上に、幅広の袖に大きく紋を染め抜いた<大紋(だいもん)>を羽織り、長袴をはく。頭にはうしろに折り曲げた形の大きな烏帽子、<引き立て烏帽子>をかぶるという出で立ちですが、皆々同じ拵えでも、実は微妙に違えているところがあったんですね。
まず生地の素材。若狭之助、判官は、<精好(せいごう)>という織り方の絹製の大紋、長袴なんですが、師直だけは麻、そして私たち名題下が勤める<並び大名>は木綿になっているのです。素材が違えば、同じ形でも自ずと見た目、受ける印象は変わりますよね。その違いで、役の身分の上下、あるいは役柄(麻だとゴワゴワした感じが出て強く見える)を表現する工夫なんですね。
それから、師直の<引き立て烏帽子>だけは、後ろに折るだけでなく、真ん中から先の部分を巻くように折り畳んであって、幅が狭くなっています。これは小道具方に質問してみても明確な理由はわからなかったのですが、私思うには、師直は老け役ですので、大きなままの烏帽子ではそれらしく見えないからなのではないかと…。あくまで私見ですので、これから調べてみようと思います。ちなみに烏帽子の紐と鉢巻きの部分が、やはり師直のみ紫色になりますのは、高位をあらわすのと、大紋の黒色との色合いの具合でしょう。
さらにもうひとつ師直の烏帽子のことで申せば、どの役の烏帽子にも、全体に皺がつけられているのですが、この皺が、師直のものは他の役よりもあらくなっております。見た目としては他のよりも<強い>印象を受けますが、これも役柄の表現なのでしょうか。
大名は全員<中啓>を懐にさしますが、並び大名は地紙の模様が鳥の子や群青、浅葱色の地に金銀砂子散らしのものですが、師直、若狭之助、判官は、それぞれの紋を散らすことに決まっています。すなわち師直が<五三の桐>、若狭之助が<四つ目結>、判官が<丸に違い鷹の羽>で、これらが鳥の子地金砂子散らしの地紙に描かれますが、これが表側の模様で、裏はただの砂子散らしで紋は入りません。裏側の地紙の色は3役それぞれ決まっており、師直は茶、若狭之助は紺、判官は緑なのです。
主要人物の小道具とはいえ、1回も舞台上では開かない中啓にまで決まり事があるというのも、このお芝居の重さがわかって面白いですね。
正座の行もあと1回です! 無事にここまで勤められたことを感謝しつつ、今夜はこれから同期会です!
以上、SEATTLE'S BESTからでした。