Chimney角屋のClimbing log

基本的にはクライミングの日記ですが、ハイキング、マウンテンバイク、スキー、スノーボードなども登場するかも・・・。

我が登山史6(事故)

2014-06-09 01:23:53 | 山とクライミングの話

今まで「ヒヤリ ハット」はいくつもあった。私の信念は、「仲間の命は自分が守る。」なのだが、残念ながら守れなかった命もある。痛恨の極みだ。でも自分が事故に遭ったのはこれ1回である。

というのは、瑞牆で「錦秋カナトコルート」を単独で開拓中の時だった。2ピッチ目のクラックに松の木の根っこが張っていて、カムもナッツも心もとない人工登攀。私はそのピッチを5~6m登ったところで、クラックの掃除を始めた。その時、ナッツが外れた。ソロのクライミングシステムに「シャント」を使っていたのだったが、多分何処にも紹介されていないシステムのミスで墜落した。「止まるだろう」とおもっていたシャントが効かない。シャント本体に、プロテクションにかけていたホールバックの荷重がかかってしまっていたためだったと、後で気づいた。2ピッチ目のスタート地点を通り過ぎて、1ピッチ目を落下していく。下を見ると取り付きのテラスが見える。「落ちて行く時には、過去のことが走馬灯のように見える」と言うが、自分は冷静だったのか、テラスを見つめ、「絶対安全に着地してやる」と思ったことと、「もし死んだら、今日の犬の散歩は妻がやってくれるだろうか」と考えながら、自分の体は落下していった。その間、何秒だったのか全く分からない。

突然、体が岩の出っ張りにぶつかり、その瞬間、シャント本体にかかっていたホールバックの加重も外れ、落下はストップした。テラスまで5mだった。ロープの長さで判断すると、約30mのフォールだった。私はテラスまで下降した。左手の手のひらは「ロープバーン」で皮膚がなくなり、焦げ臭い匂いがした。たんぱく質が焦げる匂いだ。脇腹から足にかけてもひどいロープバーン。どうやら踵の骨は骨折したようだ。口から血が出ている。口の中には肉片が転がっている。下くちびるの下の肉を噛み切ってしまったようで、口の中から唇の下まで貫通しているようだ。肉片を吐き出すのは、気持ち悪かったので、食べてしまった。取り付きに置いてあったザックから、テープを取り出し、傷ついたところをテープでぐるぐる巻きにして止血。

少し離れたところに別のパーティーが取り付いていた。そのパーティーに、事故を感づかれるのが嫌で、ロープをたどり、登り返してロープやプロテクションを回収した。

傷ついた身体でなんとか下山し、車に戻った。

この日は月稜会の集会日だったので、会長に事故の報告と、集会に参加出来ないことを連絡した。次に妻に連絡をした。妻にこの出来事を話しているうちに涙があふれてきた。「自分は絶対事故を起こさない。迷惑はかけない」と心に決めてきたのに。

中央高速を片手片足で運転してきた。この日はロシアのプーチン大統領が来日しているため、八王子で検問が行われていた。私は顔から腕、手足をテープでぐるぐる巻きにした姿なので、すぐに検問に引っかかった。お巡りさんに事情を説明し、「帰ったらすぐに病院に行かなければならないから」と言って釈放してもらった。

家について妻と顔を合わせた瞬間、体が動かなくなった。家の中に連れて行ってもらい、血だらけの体をシャワーで洗ってもらった。涙があふれてどうしようもなかった。「こんなはずじゃなかったのに」「事故は起こさないって信じてたのに」。

妻に支えられ近くの外科に行った。帰ってくるときには体じゅう包帯だらけ。手のひらはミッキーマウス。全体はミイラのようだった。幼かった姪っ子は、私の手を見て「ミッキーだ!」と言って喜んでいた。

妻に「申し訳ないことをした。もう山には行かせてもらえないだろう」と思っていたら、「あなたはどんなことがあっても死なない気がする」と平然と言われ、何とも思っていないようだった。私の体は丈夫だが、妻はもっと丈夫なような気がした。


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2 コメント

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ウ~ン! (岳人)
2014-06-11 11:54:23
似た様な経験をした者として実感してます。そして我が家も女房の方が普段はボンヤリしてますが、最後は私より強よそうです!
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Unknown (Chimney)
2014-06-14 01:02:18
う~ん。山屋の妻と言うのはそういう人でないと務まらないのかもしれませんねぇ。
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