Chimney角屋のClimbing log

基本的にはクライミングの日記ですが、ハイキング、マウンテンバイク、スキー、スノーボードなども登場するかも・・・。

昔の話 雪山避難小屋での粋なリーダー

2016-12-28 00:59:45 | 山とクライミングの話

最近、友達が山に食料をデポして山に登るという話を聞いて思い出した話。

山のデポとは、目的の山行以前に山に入り、食料などの必要な物資をあらかじめ山の経路に保存しておくことです。そうすることによって入山時の荷物を軽くすることができ、行動のスピードを速くすることができる。最近はこういう登山をする人が少なくなった。そうするほど大掛かりな登山が少なくなったのかもしれないが、「ワンプッシュ」「ファーストアッセント」という考え方が一般的になってきたからかもしれない。デポをすれば「ワンプッシュ」ではないし、背負えるだけの荷物で目的を達成するのが「ファーストアッセント」になるから、最近は「デポ」をする人は少なくなったようだ。でもこの方法も経験する価値はある。実に計画的で合理的な方法だと思う。信念に照らし合わせて受け入れない人もいるとは思うが。

「思い出した話」というのは「デポ」とは少し違うが、冬季避難小屋での「非常食」にまつわる話だ。

もう30年ほど前の話。私はゴールデンウィークに雪山に向かった。テント泊で2泊3日の予定だった。出発時は快晴だったが、お昼ごろになって空には雲がわき始め、雷鳴がとどろくとあられが降り始め、猛吹雪になった。私は通り過ぎた冬季避難小屋に引き返し早々に寝袋に潜り込んでいた。1時間ほどすると数人のパーティーが入ってきた。リーダーらしき登山者が「先客が寝てるから静かにやれよ」というと、みんな荷物を広げ寝床を作り始めたようだ。続いてリーダーが、「そこにある缶から食料を出せ」という。言われたメンバーは「これを開けるんですか?」と問いただしている。「缶」とは避難小屋に備え付けられていた非常食のことであることは私にもわかった。缶には「非常時に食べてください」と書かれていた一斗缶だ。「なんて悪い奴だ」と思いながら、寝たふりをしながら聞き耳を立てていた。言いつけられたメンバーは「非常食開けちゃまずいんじゃないですか」と言っているが、リーダーは「いいから開けろ」という。メンバーは仕方なく開け始めるが、リーダーは「バカ!もっと丁寧に開けろ」という。開けた形跡を残さないようにしているんだなと思い、リーダーは確信犯的な極悪人に違いないと思っていた。

メンバーが缶を開け終えたころ、リーダーは「お前たちが持ってきた保存のきくものを缶に入れて、缶に入っている古い食料と入れ替えろ」というのだった。メンバーはリーダーの意図を理解し喜んで作業を続けたのでした。リーダーは、非常食の古いものを自分たちでいただき、代わりに新しい食料に入れ替えようとしていたのです。「丁寧に開けろ」というのは、缶に張ってあったガムテープがちぎれないように開けろということだったのです。私も寝たふりをしたまま感激していましたが、とうとう我慢ができなくなり、そのパーティーの仲間に入れてもらい、一緒に宴会を楽しんだのでした。このリーダーは以前に単独で登山中、悪天候で冬季避難小屋に数日間閉じ込められ、小屋にあった非常食と燃料に助けられたことがあったそうです。それから会の後輩を連れてこのような経験をさせているのだと言っていました。粋なリーダーです。

翌朝は大量の雪が積もっていましたが、私は山頂に向けて出発しました。かのパーティーは避難小屋の近くで雪上訓練をして下山することにしたそうですが、私が出発するときにはみんなが「お気をつけて」と送り出してくれたことを思い出します。


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