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すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1675号 青空が心地よい城下町散歩

2020-12-05 20:35:32 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】「吉野川が紀の川と名を変え、ほぼ一直線に西へ流れ下る川筋に、ずっと沿い続けて和歌山の街に至る鉄路がある」「日本地図に興味が湧き始めた小学生のころだった。これほどの長距離を、川にぴたりと沿って走る路線があることを発見した私は、いつかこの鉄道に乗ってみようと思ったのだった」。これは1991年9月1日、奈良・五條から念願のJR和歌山線に乗車した際のメモだ。約30年後に思いを達したことになる。



それは、そろそろ夕刻が近づく時刻だった。JR和歌山駅に到着すると、そそくさと城山に登って市街地を眺めた。帰りの時間が気がかりで、ただ眺めるだけで城山を下り、JRとは街の反対側を走る南海電車の和歌山市駅に出て大阪に帰ったのだった。だから街並みの記憶は全く残っていない。改めてゆっくり訪問しようと思いつつ、それから再び30年が過ぎた。私にとって和歌山は、なぜか30年ごとに縁が巡ってくるらしい。



和歌山市は紀州55万石の城下町だから、昔も今もこのエリアの中心都市だけれど、その位置は広大な紀伊半島の、西と南の海岸線つたいに街が連なる和歌山県に限って見れば、北西の端っこということになる。ただ平野部の乏しい、海と山だけで構成されている半島にあっては大阪に最も近く、内陸部とは紀ノ川でつながる紀の国の玄関である。人口35万人の中核市で、県庁所在都市としては全国27番目程度の規模である。



JRの駅前広場は、この人口規模に相応しいような広さと簡素さで、その一角では百貨店受難の時代ながら近鉄デパートが頑張っている。朝の通勤・通学の時間に眺めていると、ロータリーに点在する停留所に路線バスが次々とやってきて、勤め人や高校生を乗せて発車して行く。女子高生の制服はいささか古風だ。地下連絡通路に降りると、和歌山県人の誇りなのだという天然記念物「紀州犬」が、凛とした姿で立っている。



30年前に訪問した際は、私もバスの客となって和歌山城を目指したのだろうが、今回は急ぐ旅ではない。駅からお城公園までの2キロ余を、戦災復興で幅員が50メートルに広げられた「けやき大通り」の、広々とした歩道をゆっくり歩くことにする。かつての街の中心である城と、現代の交通の中心のである駅を、広い街路で結ぶ街の構造は、城下町に行くとよく出会う。姫路が典型であり、城はなくなったが高崎もそうだ。



新潟という商人街で育った私は、城下町を訪れるといつも羨ましくなる。街の中心に大きな公園があるようなものだからだ。封建的武家社会に身を置きたいとは思わないものの、折り目の効いた武士の暮らしが染み込んでいる(と連想される)街の気配は悪くない。和歌山城跡は松山城ほど険しくはなく、姫路城ほど大きすぎもしない。子供が駆け回り、年寄りが散歩するのにちょうどいい。麓の吉宗像はどうでもよろしい。



30年前のメモはこう続く。「二輌編成のディーゼルカーは当然のように冷房はない。空いているのを幸いに、座席を占領して窓を全開にした。紀の川は吉野川に比べ、こころなしゆったりと流れ下っている」「葛城山系が和泉山地にバトンタッチして、似たような山並みが続く。小さな駅に着くたびに、数人が降りて数人が乗る。私が育った越後線と実によく似ている。違うのは時々現れる『問題基本法を制定させよう』という看板だ」。(2020.11.17-19)

















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