すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1551号 ストックホルムの「ミレニアムタウン」

2017-11-08 07:00:00 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】ストックホルムも岩盤の上に建つ街だ。地下鉄はホームも通路も削られた岩が剥き出しで、所々その壁がアーティストのカンバスになっている。路線が少ないから、東京のように乗換案内の表示で埋め尽くす必要がないのだろう。こんなところにもコンパクトな街の暮らしよさがにじみ出る。私たちは観光名所のガムラ・スタンは素通りし、セーデルマルム島のSlussen駅で降りる。私が勝手に「ミレニアムタウン」と名付けている街である。



北欧ミステリーで、これまでに最も面白かったのはスウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』だ。私が強調するまでもなく、同書は世界的ベストセラーであり、映画化もされた北欧ミステリー最大のヒット作である。その小説の主要舞台がセーデルマルム島のSlussen駅周辺で、反骨の雑誌「ミレニアム」の編集部があり、次々と事件に巻き込まれる発行責任者、ミカエル・ブルムクヴィストのアパートもすぐ近くのはずだ。



そして何より「ドラゴンタトゥーの女」リスベット・サランデルの豪華コンドミニアムもあるはずなのだ。私は文庫本に織り込まれていたこれらの位置を示す地図を、わざわざ持参して来る念の入れ様なのである。地下鉄の階段で、あるいは路地を曲がったとたん、サランデルに出くわしたらどうしようとドキドキしている。しかし実際のミレニアムタウンは閑散として、静まり返っている。観光客もここまでは来ない。古びた教会が建っている。



地下鉄で中心地のCentralenから2駅でしかないのに、すっかり閑静な住宅街になっている。起伏の大きな通りには4、5階建てのアパートが行儀よく並び、ひとけのない公園に花屋がカラフルな露天を広げている。利便性を損なわずに快適な暮らしが楽しめる、これもコンパクト・シティーのよさだろう。サランデルとの邂逅に未練を残しながら、ガムラ・スタンに行く。ストックホルム随一の観光スポットは、観光客でごった返している。



小さな島に元王宮や古い教会がひしめいて、それらを中世の街そのままに石畳の小道が縫っている。店のほとんどが土産物屋だが、アンティークショップで古い画集を見つけた。かねがね「北欧の昔の庶民生活を描いた絵」が欲しくて、蚤の市でも探していたのだが、うってつけの画集である。ケースはボロボロながら、絵は18枚とも大丈夫だ。Albert Engström (1869-1940)という画家兼作家の作品集であることを、帰って知る。



雑誌の挿絵かと思われるモノクロの印刷物で、吹雪の中で海獣を撃つ機会をひたすら待つ猟師、塀の半分が埋まるほどの雪道で会話する老人と女性、札束を手に屑篭を漁っている肥満した金満家など、100年ほど昔の北欧の生活が、風刺を効かせて描かれている。都市生活者に比べ、農村の風雪に耐える人々が印象深い。エングストロムの生誕100年を記念して2枚の切手が発売されたというから、スウェーデンでは有名な画家なのだろう。



ひょっとしたらイングリッド・バーグマンのような美女に出会えるかな、といった下心があるものだから、「バーグマンは突然変異だったんだね」と口走って奥方にこっぴどく叱られた。スウェーデンではゴルフのアニカ・ソレンスタムやテニスのビョルン・ボルグを思い出す。強く、テレビで観ていても美しい選手たちだった。だがスウェーデンと言えば、やはり映画「野いちご」の監督、イングマール・ベルイマンであろう。(2017.9.30-10.3)
















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