すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1314号 西馬音内(秋田県)

2014-11-18 11:12:14 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】各地それぞれに伝統と趣向を凝らした盆踊りは多いけれど、越中・八尾と秋田・西馬音内(にしもない)のそれだけは、いつかは見に行きたいと願っていた。八尾「風の盆」は2年前に念願を果たしたのだが、毎年8月16日から踊り明かされる西馬音内は、いまだ機会に恵まれていない。だが鳥海山を秋田県側から望もうという今回の旅は、そのコースが西馬音内付近を通過する。時期外れではあるけれど、せめて盆の残像だけでも・・・。



この踊りの映像を初めて観たとき、踊り手の余りに奇妙な出で立ちに驚かされた。派手なのか粗末なのか分からないパッチワークのような浴衣姿の女性たちが、深い編み笠で表情を隠し、妖しい色気を発散している。かと思えば黒い頭巾で顔を覆った踊り手が怪しさを増幅、篝火が、白いうなじと軟らかな腰回り、指先をしなやかに反らす踊り手を浮かび上がらせ、面妖な世界へと誘って行く。西馬音内という、耳慣れない響きが心地いい。



人口7000人ほどの西馬音内町が、戦後間もなく周辺の村々と合併、羽後町となる。秋田県内陸部の最南部である。盆踊り自体が中世まで遡る旧い土地で、山が近い割りには沃野に恵まれ、野を縫って馬音内川が東行し、秋田の動脈・雄物川に合流する。出羽という国名が生まれる以前からの暮らしがあるのではないか。素人推理だが、水運の利がある西馬音内は年貢米の集積地として発展、稔りを喜び亡者を送る祭りが生まれたのだろう。



銀行の支店や呉服屋さんが並ぶ、街の中心部と思われるあたりに風変わりな広場があった。駐車場のようにも見えるけれど、この街にこれほどの駐車スペースは必要あるまい。そうか、ここが盆踊りの会場なのではないかと気が付いた。今ではすっかり有名になって、踊り当日は大変な混雑になると聞く。1年のうちの、盆の3日間だけ必要とされる広場なのだろう。木陰に踊りの像が振り付け姿で立ち、その隣に「盆踊り会館」があった。



会館で踊りの映像を眺めていると、ボランティアガイドなのだろうか、かなり高齢と思われるお爺さんがいろいろ教えてくれた。「あの衣装は端縫いといって、華やかな着物の端切れを縫い合わせている」「院内銀山で興行する歌舞伎役者の衣装をまねたものだ」「端切れといっても高価な布だから、地主の娘くらいしか着られなかった」などなどである。ただしかなりディープな秋田弁だったので、果たして正確に聞き取ったかは自信が無い。



西馬音内の地名について訊くと、「内は稚内などと同じアイヌ語の《川》の意味で、この川は上流に行くと、流れが馬の蹄のような音を響かせているので馬音(ばおん)川と呼ばれた」という。では「ばおんない」がなぜ「もない」になるのか、質問したのだが言葉の壁に立ち塞がれて判明しなかった。受付の若い女性に「あなたも踊るのですか」と訊ねると、「いえいえ、私は……」と顔を赤らめた。踊りに加わるのは大変なことなのだろうか。



この地の経済・文化にとって、南方山中で350年間も採掘が続けられた院内銀山は、大きな存在であっただろう。天保年間から明治にかけて、国内最大の産出量で栄えた銀山では、歌舞伎、浄瑠璃など様々な芸能小屋が興行した。西馬音内盆踊りの端縫い衣装やひこさ頭巾は、それらの役者や黒子の出で立ちに影響を受けたといわれる。ただし発祥から細部に至るまで、記録が乏しく幻めいている盆踊りである。それも悪くはない。(2014.10.24)










コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第1313号 蟹田(青森県) | トップ | 第1315号 山寺(山形県) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Tokyo-k Report」カテゴリの最新記事