すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第463号 沖縄「久高島」にて

2007-02-20 22:36:10 | Tokyo-k Report
【Tokyo】私は爺さんとこの若い男に導かれたのか、唐突に島に渡りたくなって船着場まで歩いた。ちょうど船が出るところで、往復のチケットを買って乗り込んだ。船は満員で、「明けましておめでとうございます」などという声が聞こえてくる。20分で島に着く。小学校と中学校、それに郵便局のある集落に入ると、突然にぎやかなお囃子が響いた。通りかかったおばあさんに「あれは何ですか」と聞くと、「一緒に行きましょ」とスタスタ先導してくださる。

小さな広場にテントが張られ、正装した人たちが大勢集まっていた。サンシンと言う沖縄の三味線なのだろう、お囃子のグループもいる。正面の小さな家では白装束のお爺さんとお婆さんが並び、その前にスーツ姿の男が二人、正座している。さらに縁先には同じような男が二人、頭を下げてうずくまっている。注意深く眺め回すと、そうした男たちが長い列を作って控えているではないか。

やがてサンシンの音が激しくなり、家のなかでかしこまっていた男二人が転がるように出てきて、広場中央で踊り始めた。その二人と交代するように、うずくまっていた二人が座敷に上がり、その後には列の先頭の二人がやってきて控える。どうやら二人ずつ、白装束の年寄りの前に進む順番を待ち、それを終えた二人は、喜びを踊りで表しているらしい。

神である年寄りから杯を受け、1年の安寧を授かる「酌御願(しゃくうがみ)」という儀式らしい。案内してくれたおばあさんに「あのお方たちは今年の神様当番?」と聞くと「いいや、神様」と答える。「神様役に選ばれた人ということ?」「いいや、神様なんじゃ」というだけで、どうも質問がかみ合わない。本当に神様なのかもしれない。

そうした光景に、昔ミクロネシアのポナペ島で体験したことを思い出した。酋長に挨拶することを許された私は、「決して顔を見てはいけない」と固く言い渡された。そういう島民たちもみな俯き、横を向いて酋長を正視しないでいる。そうやって拝謁を終え、サカヅキを渡された。泥水としか見えない液体を、恐る恐る飲むと唇が痺れてきた。「シャカオ」とかいう、ハイビスカスの根の液を搾り出した、太平洋島嶼地域の酒代わりの麻酔剤であった。

沖縄とミクロネシアは海続きである。海洋民にとって、それは「地続き」のようなものである。遠い文明を共有していて何の不思議はない。海と空のハザマの、消え入りそうな小さな島に立って、私の魂は青く染まって浮遊していくようであった。(おわり)
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