すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第962号 琵琶湖周“行”の歌 =11= 今津

2011-08-14 11:32:03 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】たまたまそのとき座っていた職員が、ご機嫌斜めだったのかもしれない。しかし街の観光案内所に詰めている以上、たとえ気分は沈んでいたとしても、窓口に「街の地図をいただけますか?」と旅行者が立ったら、睨みつけたうえにアゴでその置き場を指し示したりしない方がいい。地図を欲しがるのは遠来の客であるに決まっている。その一瞬の対応で、せっかくの街の印象が損なわれかねないからだ。近江今津駅の案内所でのことだ。

        

そしてヴォーリズ資料館に行く。いくら来館者が少ないからとはいえ、たまにはふらりとやって来る物好きはいるだろう。それまで職員同士で世間話が弾んでいたのだろうが、会話は途中であっても見学者が来たらピタリと停止すべきだ。若い女性職員は何とか切り上げようと受け答えをしているようなのだが、相手のおばさんはますます声高になり、声が資料館の高い天井にこだまして、設計図などせっかくの展示物が頭に入ってこない。

        

湖西に行くからには、今津は当然、旅程に入れなければならない。かつての高島郡の中心的な街であるし、「今日は今津か長浜か」の歌が生まれた街だからだ。静謐な風土の(と私が勝手に想像している)湖西にあって、だから今津も静かな落ち着いた雰囲気が漂うところなのだろうと思い定めて来た。それが案内所と資料館で、簡単に打ち壊されてしまった。実際は私が想像していたような街に違いないと思うのだが、残念なことである。

        

今津は琵琶湖に立地する港の中でも、規模の大きな港湾の一つだったろう。敦賀からの道と若狭からの街道がここで合流し京・大阪に向かう、陸路の要地であるからだ。海や山の物資が集積し、水運が栄えた。それも今は昔。現代の主役は竹生島クルーズであるらしく、港の正面には「観光船のりば」がゲートを構えている。ちょうど朝の便が折り返して来たのだろう、湖面に長く突き出した桟橋に船が接岸し、大勢の客が降りて来る。

        

そういえばゲートの前では大型観光バスが歩道を塞ぎ、我が物顔で停車していた。クルーズ帰りの多くはそのバスで次の目的地に向かうツアー客なのだろう。そして桟橋は、次の便で竹生島に向かう客たちがいそいそと乗り込んで行く。これらの観光客の何割が、今津市中にも足を延ばすだろうか。案内所も資料館も、もっと緊張感を持って対応しないと、素通りされるだけだろう。

        

日本経済の縮小に伴って、地方の街に寂れが目立つようになって久しい。そこで多くの自治体が、街の活性化に向け観光振興に取り組む。しかし観光客ほどわがまま勝手な人種はいない。よほどの観光資源があればともかく、宣伝が当たってどっとやって来たとしても、冷たく薄っぺらなニオイを嗅ぎつけたら二度と振り向かない。

        

旅人にとって魅力ある街とは、生活の蓄積を住民自身が楽しみ、子供たちに伝えようという意気込みが見える街だ。そうした土地は、市民がおのずから街に誇りを抱くからだろう、街路は清潔に保たれ、行きずりの者にも親切な笑顔が向けられる。私の乏しい見聞に限っても、そんな街はこの国には少なくないように思う。

        

資料館や記念館を整備することは、観光政策である以前に子供たちに故郷の大切さを教える場を設けることである。そうやって先人の営みに触れ、視界を外の世界に広げていって、子供は自分の街のかけがえのなさを知る。そういう街には多くの人がやって来る。(2011.7.17)






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