みちのくの山野草

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『續 宮澤賢治素描』の『原稿ノート』

2023-01-01 12:00:00 | 「賢治年譜」一から出直しを
《ヒナウスユキソウ》(2021年6月28日撮影)

 ところが、『續 宮澤賢治素描』の『原稿ノート』(昭和19年3月8日付)が実は存在していて<*1>、その冒頭の1p~3pにこの「沢里武治氏聞書」に相当することが書かれているから、件の「関『随聞』二一五頁の記述」の真の一次情報は、
   (0)『續 宮澤賢治素描』の『原稿ノート』(昭和19年3月8日付、1p~3p)
であることになる。そしてその実際の中身は以下のとおりである。
    三月八日
 確か昭和二年十一月の頃だつたと思ひます。当時先生は農学校の教職を退き、猫(ママ)村に於て農民の指導は勿論の事、御自身としても凡ゆる学問の道に非常に精勵されて居られました。其の十一月のビショみぞれの降る寒い日でした。「沢里君、セロを持つて上京して来る、今度は俺も眞剣だ少なくとも三か月は滞京する。俺のこの命懸けの修業が、結実するかどうかは解らないが、とにかく俺は、やる、貴方もバヨリンを勉強してゐてくれ。」さうおつしやつてセロを持ち單身上京なさいました。
 其の時花巻駅迄セロをもつてお見送りしたのは、私一人でした。駅の構内で寒い腰掛けの上に先生と二人並び、しばらく汽車を待つて居りましたが、先生は「風邪を引くといけないからもう帰つてくれ、俺はもう一人でいゝのだ。」折角さう申されましたが、こんな寒い日、先生を此処で見捨てて帰ると云ふ事は私としてはどうしても偲びなかつたし、又、先生と音楽について様々の話をし合ふ事は私としては大変楽しい事でありました。滞京中の先生はそれはそれは私達の想像以上の勉強をなさいました。
 最初の中は、ほとんど弓を彈くこと、一本の糸を彈くに、二本の糸にかゝらぬやう、指は直角にもつていく練習、さういふ事にだけ、日々を過ごされたといふ事であります。そして先生は三か月間のさういふ火の炎えるやうなはげしい勉強に遂に御病気になられ、帰国なさいました。
              〈関登久也著『續 宮澤賢治素描』の『原稿ノート』<*2> (日本現代詩歌文学館所蔵)〉
 つまり、この〝(0)〟が、「沢里武治氏聞書」の真の一次情報であり、この〝(0)〟からは、
㈠ 「確か昭和二年十一月の頃だつたと思ひます」というように、文頭に「確か」を付けているから、沢里はこの時の上京の時期は「昭和二年十一月の頃だつた」ということに、かなりの確信があったであろうこと。
㈡ 賢治は、三か月間の激しいチェロの勉強のせいで遂に病気になってしまって、帰花したということ。
が導かれる。
 言い方を変えれば、先に実証したように、大正15年12月2日~昭和2年3月1日の「三か月間」の滞京は現「賢治年譜」には当て嵌めることができないので、
 この一次情報である〝(0)〟は、当然、現定説〝◉〟の典拠にはなり得ない。逆に、現定説〝◉〟の反例になっているから、もはや現定説〝◉〟は即棄却されるべきものであり、修訂されねばならない。
ということになる。

<*1:投稿者注> 私がなぜこの一次情報〝『續 宮澤賢治素描』の『原稿ノート』〟を見ることができたのかというと、私の恩師の一人が関登久也の長男と友人であり、その関わりで私もその長男に何度かお目にかかったことがあり、その際に、『原稿ノート』の存在を教えてもらえたからである。そこで、その方から許可をいただき、『日本現代詩歌文学館』に申請して閲覧できたのだった。
<*2:投稿者注> 〝(0)〟は〝⑴〟、すなわち、
(1)『續 宮澤賢治素描』(眞日本社、昭和23年2月)
 確か昭和二年十一月頃だつたと思ひます。當時先生は農學校の教職を退き、根子村に於て農民の指導に全力を盡し、御自身としても凡ゆる學問の道に非常に精勵されて居られました。その十一月のびしよびしよ霙の降る寒い日でした。
の『原稿ノート』であり、記述内容は当然基本的には同一である。

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