みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

467 七ツ森の夏の山野草

2008-08-26 07:19:24 | その他地域
 8月5日に秋田駒ヶ岳に行った際、帰り道に「七ツ森」に寄ってみたので報告する。

 「七ツ森」は次の7つの森
   生森(おおもり)
   石倉森
   鉢森
   稗糠森
   勘十郎森
   見立森(みたてのもり)
   三角森(みかどもり)
から成り立っている山の総称である。

 調べてみると、この「七ツ森」は宮沢賢治の作品によく出てくることを知った。
 たとえば、『春と修羅』の冒頭にある「屈折率」というタイトルの詩には
   七つ森のこっちのひとつが
   水の中よりもっと明るく
   そしてたいへん巨きいのに
   わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ
   このでこぼこの雪をふみ
   向ふの縮れた亜鉛の雲へ
   陰気な郵便脚夫のやうに
     (またアラッディン 洋燈とり)
   急がなければならないのか

   〈『新編 宮沢賢治詩集』(宮沢賢治著、新潮文庫)より〉
と真っ先に詠われている。
 また、童話『おきなぐさ』では
 うずのしゅげを知ってゐますか。
 うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますが、おきなぐさといふ名はなんだかあのやさしい若い花をあらはさないやうにおもひます。
 そんならうずのしゅげとはなんのことかと云はれても私にはわかったやうな亦わからないやうな気がします。
 それはたとへば私どもの方で、ねこやなぎの花芽をべんべろと云ひますが、そのべんべろがなんのことかわかったやうなわからないやうな気がするのと全くおなじです。
 ・・・(中略)・・・
 まっ赤なアネモネの花の従兄、きみかげさうやかたくりの花のともだち、このうずのしゅげの花をきらひなものはありません。
 ・・・(中略)・・・
 私は去年のちょうど今ごろの風のすきとほったある日のひるまを思ひ出します。
 それは小岩井農場の南、あのゆるやかな七つ森のいちばん西のはづれの西がはでした。かれ草の中に二本のうずのしゅげが、もうその黒いやはらかな花をつけてゐました。まばゆい白い雲が小さな小さなきれになって砕けてみだれて空をいっぱい東の方へどんどんどんどん飛びました。・・・(以下略)

       (『宮沢賢治作品選』(黒澤 勉編、信山社)より)
 そして、同じく童話『山男の四月』では
 山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。
 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。
 それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手をちぢめて、鉄砲だまのようにからだを投げつけたものですから、山鳥ははんぶんつぶれてしまいました。
 山男は顔をまっ赤にし、大きな口をにやにやまげてよろこんで、そのぐったり首を垂れた山鳥を、ぶらぶら振りまわしながら森から出てきました。
 そして日あたりのいい南向きのかれ芝の上に、いきなり獲物を投げだして、ばさばさの赤い髪毛を指でかきまわしながら、肩をまるくしてごろりと寝ころびました。
 どこかで小鳥もチッチッと啼き、かれ草のところどころにやさしく咲いたむらさきいろのかたくりの花もゆれました。
 山男はあおむけになって、碧いあぁおい空をながめました。お日さまは赤と黄金でぶちぶちのやまなしのよう、かれくさのいいにおいがそこらを流れ、すぐうしろの山脈では、雪がこんこんと白い後光をだしているのでした。
(飴というものはうまいものだ。天道は飴をうんとこさえているが、なかなかおれにはくれない)
 山男がこんなことをぼんやり考えていますと、その澄み切った碧いそらをふわふわうるんだ雲が、あてもなく東の方へ飛んで行きました。そこで山男は、のどの遠くの方を、ごろごろならしながら、また考えました。
(ぜんたい雲というものは、風のぐあいで、行ったり来たりぽかっとなくなってみたり、にわかにまたでてきたりするもんだ。そこで雲助とこういうのだ。)
 そのとき山男は、なんだかむやみに足とあたまが軽くなって、さかさまに空気のなかにうかぶような、へんな気もちになりました。もう山男こそ雲助のように、風にながされるのか、ひとりでに飛ぶのか、どこというあてもなく、ふらふらあるいていたのです。
(ところがここは七つ森だ。ちゃんと七っつ、森がある。松のいっぱい生えてるのもある。坊主で黄いろなのもある。そしてここまで来てみると、おれはまもなく町へ行く。町へはいって行くとすれば、化けないとなぐり殺される。)・・・(以下略)

       (『注文の多い料理店』(宮沢賢治著、角川文庫)より)
etc.。

 では、その「七ツ森」の報告をする。
 国道46号線からの
《1 七ツ森(生森)の眺め》(平成20年8月5日撮影)

 雫石から盛岡に向かっているならば、この眺めが過ぎたやや先で左に折れると
《2 七ツ森案内図》(平成20年8月5日撮影)

がある。
 全体のイメージをつかんだ後、七ツ森のうちの一つ、生森(案内図の左下の山)の頂上まで行ってみる。道沿いには
《3 アザミの仲間》(平成20年8月5日撮影)

《4 ヒメオウギズイセン》(平成20年8月5日撮影)

《5 オミナエシ》(平成20年8月5日撮影)

《6 キキョウ》(平成20年8月5日撮影)

《7 ヒメヤブラン》(平成20年8月5日撮影)

《8 アキカラマツ》(平成20年8月5日撮影)

《9 シシウドの仲間》(平成20年8月5日撮影)

《10 ヤブカンゾウ》(平成20年8月5日撮影)

《11 コバギボウシ》(平成20年8月5日撮影)

《12 コオニユリ》(平成20年8月5日撮影)

《13 ヤマハギ》(平成20年8月5日撮影)

《14 ママコナ》(平成20年8月5日撮影)

《15 タカトウダイ》(平成20年8月5日撮影)

《16 ヤマユリ》(平成20年8月5日撮影)

などが咲いていた。
 やがて、
《17 生森の頂上かな》(平成20年8月5日撮影)

 周辺には
《18 キンミズヒキ》(平成20年8月5日撮影)

《19 モジズリ》(平成20年8月5日撮影)

《20 クズ》(平成20年8月5日撮影)

もある。近寄ってみると
《21 やはり生森(348.4m)の頂上でした》(平成20年8月5日撮影)

 残念ながら周りは木々が生い茂っていて展望はほとんど利かないが、身を乗り出してみるとなんとか
《22 箱ケ森、南昌山、毒ヶ森などが見える》(平成20年8月5日撮影)



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